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想定していなかった戦果

 ヴォルフシーカーのスキルで潜っていた影からおそるおそる顔を出すと、世界が一変していた。


「…………」

「…………わふ」

「うん、ちょっとやり過ぎたかも」


 俺に続いて影から出てきたロキの「びっくり」という呆れたような声に、俺も呆然とした表情で頷いて首を巡らせる。


 俺が立っている場所は、地下遺跡の下層付近にある打ち捨てられた石造りの民家が並んだ区域……だった場所だ。


 だったというのは、この区域についさっきまであった建物は、軒並み原型を留めない瓦礫と化していたからだ。


 そして、あちこちに見える黒いシミは、おそらく虫人だったもの……、


 アラウンドサーチを使って索敵して見ても、周囲には俺とロキ以外の反応は見られないので、敵は全滅したと考えていいだろう。


「いや、まさかここまでとは……」


 自分で仕掛けを発動させておきながら、予想を上回る戦果を叩き出してしまったことに、俺は小さく身震いをする。


 果たしてこれが粉塵爆発による被害だと言ったら、どれぐらいの人が信じるだろうか?


 そう、この甚大な被害は、粉塵爆発によって引き起こされたものだった。


 地下遺跡で多数の虫人を相手にしなければならないと思った俺は、どうやって連中を倒そうと考えた時、真っ先に思い付いたのが、かつてグランドの地下集落でユウキと対峙した時にブラフで利用した粉塵爆発だった。



 実はあれから粉塵爆発についてオヴェルク将軍とマーシェン先生から教えを請い、どのような条件下で爆発が起きるのかを繰り返し実験したことがあった。


 粉塵爆発を実際に使うかどうかは別にして、少人数で大多数を相手にする時、最も安全に、且つ最も効率よく敵を倒す方法の一つや二つは用意しておくべきだと思ったのだ。


 とはいっても、流石にあちこちで爆発を起こすわけにはいかなかったので、小さな箱を用意しての小規模な爆発の実験しか行っていない。

 だが、そのお蔭で部屋の広さに対してどれぐらいの粉塵濃度があれば、爆発を引き起こせるかを把握はできた。



 そうして今回、初めて粉塵爆発を実戦で使ってみたが、加減がわからない中で満遍なく敵を倒そうとした結果、予想を遥かに超える大爆発を引き起こしたのだった。


「これでもし、ヴォルフシーカーがなかったら……」


 自分たちの安全を最大限に考慮して着火したつもりだったが、影の中に逃げ込まなかったら、爆発の余波に巻き込まれてただじゃすまなかっただろう。


「これは……皆がいるところでは使えないな」


 ヴォルフシーカーで一緒に逃げられるのが一人しかない以上、全く制御できない爆弾を複数の仲間がいるところで使う勇気は俺にはない。


「だけど、これで地下の方は大丈夫だろう」


 一先ずの危機は去ったと見て、ホッと一息吐いた途端、


「……うっ!」


 緊張の糸が切れて感覚が正常に戻ったからか、周囲に立ち込める臭いに俺は堪らず鼻を摘まむ。


 焦げ臭いのは勿論だが、虫人の焼けた臭いなのか、それとも連中の体内にあった毒が焼ける臭いなのか、下水を煮詰めたような悪臭は耐えられそうにない。


「ロ、ロキ……鼻の方は大丈夫か?」

「く~ん」


 耐え難い臭いに、俺より何倍も嗅覚が鋭いロキに声をかけると、彼女は「ちょっと無理」と言って俺の胸に鼻を擦り付けてくる。


 グランドの街の下水道内でも、割と平気で動けていたロキですらこうなのだから、この臭いは体に何か悪影響を及ぼすかもしれない。


 ロキを臭気から守るように頭を抱えた俺は、彼女の耳元で囁く。


「とりあえず、外に出よう」

「わふぅ」


 ロキからの「異議なし」という声に従い、俺たちは息を止めてそそくさと地下遺跡から脱出することにした。




「……ぷはっ!?」


 競うように階段を駆け上がり、地下遺跡から出たところで俺は止めていた息を一気に吐き出す。


「はぁ……はぁ……はぁ……く、空気が…………うまい」

「わふぅ」


 貪るように深呼吸を繰り返していると、ロキの「同感」という声が聞こえ、巨大狼も同じように大きく口を開けて深呼吸をする。


 実際に空気がうまいかどうかはともかく、この辺は緑が豊富なこともあって肺に入って来る空気が澄んでいて心地よいのは確かだ。

 まだ戦いは始まったばかりだが、休める時に少しでも休んでおかないと、いざという時に疲れて動けない何てなったら最悪だからな。


 そのままたっぷり数分、大自然の恵みに感謝するように酸素を取り込んだ俺は、最後にもう一度「……はぁ」と大きく息を吐いて欠伸をしているロキに話しかける。


「よし、そろそろ皆と合流しようか」

「わん」


 互いに調子が戻ったのを確認した俺たちは、本来の主戦場であるカナート王国内へと戻ることにする。



 そう思った矢先、ロキの耳がピクリと動いてハッ、としたように顔を上げる。


「……ロキ?」


 一体何事かと思っていると、ロキはかつてシドが逃げていった森の方に向かって「グルルルル……」唸り声を上げる。


 警戒態勢へと移るロキを見て、俺もまた彼女に倣って腰を落として構える。


 何だ……何が来る。


 反射的にアラウンドサーチを発動させようとするが、


「わん!」


 ロキからの「来るよ!」という鋭い声に俺は目を閉じるのを止めて、森の奥を睨む。


 すると、森の奥からバキバキ、と木をなぎ倒すような音が聞こえたかと思うと、巨大な影が猛然と飛び出してきた。

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