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みんなの帰る場所を守るため

「ううっ……あつっ……」


 半身をジリジリと焼かれるような痛みと、何やらピチャピチャという水音に、俺はゆっくり瞼を開ける。


「わふっ?」


 すぐ近くに巨大な黒いモフモフの狼の顔があり「大丈夫?」と心配そうに鳴いて俺の頬を舐めてくる。


 そこで俺は、自分が砂漠の上に倒れていることに気付く。


 ジリジリとした痛みは熱せられた砂の上に寝ていたからであり、水音はロキが俺の顔を舐めている音のようだった。


「そうか……」


 意識がハッキリしたことで、徐々に何が起きたのか思い出す。


 フィーロ様からの要請で第二防壁へと行き、そこでハバル大臣の兵士たちと戦闘になったのだった。


 当初は穏便に済ませるつもりだったのだが、拿捕した獣人たちが揃って自死したと思ったらゾンビ化し、連中を倒そうと思ったら腹に巻いた爆弾が大爆発したのだった。

 爆発の直前に第二防壁から命からがら飛び降りたが、爆風に巻き込まれて吹き飛ばされたところまでは覚えているが、普通に考えてあの状況で無事で済むとは思えない。


 俺がこうして何事もなく立ち上がれたのは、間違いなくロキが助けてくれたからだろう。

 少しロキのよだれの臭いが気になるが、助けてもらった礼は言わなければなるまい。


「ロキ、いつもありがとうな」

「わんわん」


 俺が感謝の意を込めてロキのことを撫でると、巨大狼は「もっと撫でて」と甘えた声で身を摺り寄せてくる。


「うん、でも待ってくれ」


 ここは思いっきりロキに感謝してやりたいが、それより他の皆の様子が気になる。



「コーイチ、目を覚ましたか」


 するとそこへ、第一防壁にいるはずのターロンさんが息を切らせながらやって来る。


「ターロンさん、どうしてここに? 第一防壁の方は?」

「ああ、そっちはレオン王子と部下たちに任せて来た。それより、とんでもないことになったな」


 ターロンさんが嘆息して第二防壁の方を向くので、俺もつられてそっちへと目を向ける。


「……えっ?」


 後ろを見た俺は、そこに広がる光景を見て絶句する。


 第二防壁のあった場所は、隕石が落ちたかのような黒い地面が広範囲に渡って広がっているだけで何もなかった。

 思った以上に激しい爆発の後に、俺は灼熱の砂漠にいるはずなのに背中に冷たいものが流れるのを自覚する。


 それに目に見える限りでは、ここには俺とロキしかいない。


 そんなはずはない……そんなことを思いながら俺はターロンさんへと詰め寄る。


「ターロンさん、第二防壁にいた皆は……シドやフィーロ様は無事なんですよね!?」

「お、落ち着けコーイチ、怪我人は出たが、死者は不意討ちで死んだ二名だけだ」

「本当ですか?」

「ああ、コーイチが皆を脱出させてくれたお蔭だ。着地の衝撃で骨折などの怪我を負ったが、それでも死ぬよりはマシだろう」

「そう……ですね」


 一先ず最悪の事態は避けられたようで、俺は大きく安堵の溜息を吐く。


「それで、怪我をした人たちは?」

「安心しろ。怪我をしたエルフたちは全員後方に送ってある」

「そうですか……それで、シドやフィーロ様は?」

「あの二人はソラ様とミーファ様と合流するために地下に向かった。それと、コーイチがこれからどうするかは任せるだそうだ」

「そう……ですか」


 再度同じ返事をした俺は、大きく息を吐いてシドの真意を考える。


 当初は一緒に地下へと向かう手筈だったが、それを覆して俺に任せると言ったのは、戦況が大きく変わったからだろう。

 全員が健在であったなら、俺たちがいなくなってもここの守りがそう簡単に破られることはないだろうし、何なら出番がないこともあり得る。


 だが、ハバル大臣の裏切りによって第一防壁より先に第二防壁が壊滅に追い込まれ、後方からの支援が頼れなくなってしまった。


 一応、軽傷で済んだエルフたちは第一防壁へと向かって引き続き戦闘に参加してくれるとのことだが、それでも大幅な戦力ダウンは否めない。

 だからシドは敢えて、俺にどちらに残るのかの選択を委ねたのだと思う。



「それで……」


 俺が顔を上げると同時に、ターロンさんが探るように尋ねてくる。


「コーイチはどうするんだ? 正直なところ、今は一人でも戦力が欲しいところなんだ」

「ターロンさん……」


 普段ならそんな弱気な発言をしないターロンさんがそこまで言うということは、戦況は芳しくないのだろう。

 ここが崩れても最終防衛ラインは残ってはいるが、それでも戦力の面で言えばここが落ちればカナート王国は壊滅的な打撃を受けると言っても過言ではない。


 だから俺が選ぶ道は……、


「俺は……ロキと一緒にこっちに残ります」

「本当か!? ああ……いや、失礼」


 俺の決断に思わず喜びが前面に出てしまったターロンさんは「コホン」と咳払いをして改めて静かに問いかけてくる。


「いいのか? シドと一緒に家族を守りたいんじゃないのか?」

「それはそうですけど……この国がなくなれば、それどころじゃありませんから」


 あっちはシドとフィーロ様がいれば、最悪ソラとミーファだけでも助けて脱出することはできる。


 だから俺は、せめて皆が帰ってくる場所を守ろうと思った。


「ロキもそれでいいかい?」

「わふっ」

「うん、いつも本当にありがとう」


 ロキから「モチロン」と快諾を貰った俺は、ホッと一安心した様子のターロンさんに話しかける。


「ターロンさん、今度は俺も前に出ますから戦況を教えてください」

「ああ、助かる。戻りながら話そう」


 大きく頷いたターロンさんは第一防壁へと歩き出しながら、戦況について静かに話し出した。

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