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巨大狼の背に乗って

「ロキ、準備はいいか?」

「わんわん!」


 俺の問いかけに、すぐ下のロキから「任せて」と頼もしい声が返って来る。


「わん、わふわふっ?」

「えっ? あっ、うん……頑張って落ちないようにするよ」


 そう言う俺は、かつてミーファやシドがそうしていたように、ロキの背中に乗っている。


 最近はどうにか乗馬のスキルも上がり、砂漠では何日もラクダの背中に揺られていたので、ロキの背中に乗るのも余裕……何て甘い考えだった。

 ラクダはそもそも人が乗りやすいように鞍をつかっているのだが、ロキの背中にはそんな便利な道具はないので、両足で挟み込むようにして乗っているのだが、これが何とも不安でしょうがない。


 結局、足だけでは心許ないので、俺はロキの背中に思いっきりしがみつくようにして乗っているのだが、彼女の毛皮をしっかりと掴んでいるのが何とも申し訳ない。



「ロキ、大丈夫か? 痛かったら言うんだぞ」

「わんわん、わんわん!」


 結構しっかりとロキの毛を掴んでいるのだが、彼女は特に気にした様子もなく「もっと強くつかんでも大丈夫」と頼もしいことを言ってくれる。


 まあ、その時は遠慮なく、毛皮を掴ませてもらうとして……、


 俺はもう五分以上も叫び続けているクリミナルバッドを睨みながら、ロキの背中をポンポンと叩く。


「それじゃあ、ロキ、作戦通りに頼むよ」

「わん!」


 俺の合図を皮切りに、ロキは勢いよく駆け出す。



「うひっ!?」


 あっという間に最高速に達したのか、顔を叩きつけるような暴風に煽られ、俺は情けない声を上げながらロキの毛皮をギュッ、と掴む。

 いざという時とか言ったが、もう今にもこの漆黒の背中から振り落とされそうで、なりふり構ってられなかった。

 この背中に平然と乗っているミーファや、果ては戦闘までしてみせるシドの凄まじさに改めて舌を巻きながら、俺は必死に腰のポーチへと手を伸ばす。


 こんな時のために整理整頓をちゃんとしておいてよかった。


 そんなことを思いながら俺は腰からペンデュラムの形をした宝石、フロストマインを取り出す。


「えっと……」


 どうにかこの強風の中でも動けるようになった俺は、フロストマインの上半分の過度の部分を強く押し込み、カチッ、という音が聞こえたら天に掲げて必死に叫ぶ。


「ま、魔力を顕現せよ!」


 その言葉に呼応するように、手の中のフロストマインがぼう、と青白く光り出す。

 だが、その光は随分と弱々しく、冷気と呼ぶには程遠いそよ風が吹く程度だった。


 それもそのはず、これは俺が最初にセシリオ王子が手渡されたエネルギーが殆ど切れたフロストマインだからだ。

 一見すると鉱石にしか見えないフロストマインは、実は高度な科学技術が詰め込まれた機械で、スイッチと音声認識で内包された冷気の魔法を発動させるというものだった。

 ただ、誰にでも使えるかと言えばそうでもなく、エリモス王家の人間以外は、あの宇宙船内のブリッジにある機械で、使用者登録をしなければならなかった。


 そうして今回、作戦のために一時的にフロストマインの使用権限をもらったのはいいのだが、この機械……自由に操るのは思いのほか難しく、俺にできるのはこうして無差別に力を解放させることだけだった。


 そうして発動したフロストマインは、エネルギー残量が少ないので仄かに光るだけだったが、それを持つ俺の手はどんどん冷たくなっていき、グローブ越しとはいえ、このまま持ち続けていたら凍傷になるのは間違いなかった。


「早く、早く気付け…………」


 俺は右手の感覚が徐々になくなっていくことに恐怖を覚えながら、クリミナルバッドに向けてフロストマインを掲げる。

 ライハ師匠によると、クリミナルバッドがエリモス王国にやって来たのは、地下の遺跡が活動したから……魔物たちにとって格好のご馳走である魔力の供給ができるからだという。



 つまり、こうしてフロストマインを発動させた状態を保てば……、


「ギエエェェ……」


 すると俺の願いが届いたのか、クリミナルバッドの叫び声が止まって奴の視線がこちらへと向く。


「――っ、かかった!」


 奴の意識がこっちに向かうのを確認した俺は、フロストマインの発動を取り消し、ポーチにしまいながらロキに向かって叫ぶ。


「ロキ、来るぞ……俺の命、お前に預けるからな!」

「わんわん!」


 ロキからの「任せて!」という頼もしい声を聞いた俺は、左目を閉じて調停者の瞳(ルーラーズアイ)を発動させる。

 ロキの背中から落ちないようにしかとしがみつきながら背後を振り返ると、こちらに狙いを定めたクリミナルバッドが、翼を大きく広げて仰け反るのが見えた。


「く、来る!」


 その行動の意味することをライハ師匠から聞いている俺は、全身が総毛立つのを自覚する。

 クリミナルバッドの一挙手一投足に注目するが、その中でも奴の目に意識を集中させる。



 まるでバレーボール選手が渾身のスパイクを繰り出すように、体を限界まで弓なりに反らしたクリミナルバッドは、


「ギエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェ!!」


 身の毛もよだつような奇声を上げながら、矢を放つように翼を大きく羽ばたかせる。


「ロキ、来るぞ!」


 同時に、俺はロキに向かって叫びながら彼女の背中に必死にしがみつく。


「――っ!?」


 次の瞬間、体がロキの体に縫い付けられるように力が下へと働いたかと思うと、俺の視界がぐるぐると激しく回り出した。

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