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最後の一撃は……

 ……何で? どうして立ち上がらないんだ?


 サイクロプスが立ち上がらない理由を確かめようとベランダから身を乗り出してみると、奴が柱に刺さった棍棒を引き抜こうと奮闘しているのが見えた。

 壁に突き刺さった棍棒なんてとっとと諦めてしまえばいいと思うのだが、どういうわけかサイクロプスは棍棒を引き抜くことに固執しているようだった。

 そして、棍棒を引き抜こうとすれば、必然的にサイクロプスの頭は下がるわけで、ベランダの真下で俺へ背中を晒す格好になる。

 ジッとその首元を注視すると、鎧の上に黒いシミがじんわりと浮かび上がってくる。

 ――っ、二人とも……やるじゃないか。

 この状況を作ってくれたであろう二人に俺は心の中で謝意を伝えると、音を立てずにベランダの縁に足を乗せ、ひらりと宙へ身を躍らせた。



 宙へ飛び出してすぐに重力が俺を捉えて地面へと引っ張るので、俺は落下位置を確認しながらナイフの狙いを定め、サイクロプスの首元……おそらく延髄へとナイフ毎思いっきりぶつかる。

 ナイフはまるで豆腐に突き立てたかのように鎧ごと一気に根元まで埋まる。

 傷口から吹き出す血が思いっきり顔にかかったのと、切り裂いた肉の感触の不気味さに俺は顔をしかめながらも、確実に止めを刺すため突き立てたナイフを線路の路線切り替えレバーを動かすかのように捻る。


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァ!!」

「おわっ!?」


 バックスタブによる致命攻撃を受けたにも拘らず、絶叫しながら暴れ出すサイクロプスに、俺は飛び乗った背中から振り落とされないように突き立てたナイフをしっかり握る。


「クッ……こ、この!」


 俺を振り落とそうと暴れるサイクロプスの背中で、俺はナイフを再びグリグリと左右に動かす。

 その度にサイクロプスは苦しみから逃れようと絶叫し、さらに大きく暴れ出す。


 サイクロプスはまだ無事な右手を使って左側から俺を捕まえようとするが、俺は敢えてそれを奴の右肩に移動することで奴の手から逃れる。すると今度は右側から手を伸ばそうとするが、奴の着ている鎧が右手の可動域を狭めているので、どうやっても肩に乗る俺を捕まえることができない。


「ググガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


 手を伸ばして俺を捕まえられないと悟ったサイクロプスは、立ち上がってふらふらと前へ進むと、腰を落として身を屈める。

 その時、血を吹き出しながら首をぐるりと動かしたサイクロプスの血走った大きな目が俺を捉え、俺は全身から汗が吹き出すのを自覚する。


 ……こいつ、まさか俺を壁に押し付けて潰すつもりか?


 嫌な気配を察した俺はすぐにも背中から飛び降りようとするが、それより早くサイクロプスが立ち上がって後ろに走り出す。

 間違いなく、奴は壁に体当たりをして俺を押し潰すつもりのようだった。

 サイクロプスの狙いがわかったところで、俺はサイクロプスの背中から飛び降りるという選択肢を捨てる。ここで飛び降りたところでサイクロプスが死ぬ前に奴は俺をどうにかして殺しにかかるだろう。

 純粋な実力では、俺はどうやってもサイクロプスに勝つことはできない。ならば、このサイクロプスが自滅する力を利用して奴に止めを刺すしかない。


 俺は何か使えるものはないかと首を巡らせ、


「……あれだっ!」


 奴を倒す算段を付けた俺はナイフを握る手に力を込めると、後ろに下がるサイクロプスの方向を変えるために力を込める。

 傷口から紫色の血が吹き出し、返り血が俺の顔にかかって視界を遮り、さらにナイフを握る手も血で滑って手放しそうになるが、この刺さっているナイフが俺の命綱だと思って死ぬ気で力を籠め続ける。

 すると、少しではあるがサイクロプスの下がる方向が変わっていき、


「ここだ!」


 壁にぶつかる数メートル手前まで来たところで、俺はナイフから手を離してサイクロプスの背中から脱出する。


 次の瞬間、サイクロプスが壁に激突する音が響くが、飛び降りた勢いを殺し切れていない俺はそれどころではなかった。

 三メートルの高さから落下するだけでは足りず、そのまま地面をゴロゴロと転がって中庭にある名も知らない誰かの石像にぶつかってようやく止まる。


「……がはっ………………はっ………………」


 だが、ぶつかった衝撃で肺から空気が漏れただけでなく、衝撃で肺が痙攣しているのか、上手く呼吸ができないでいた。


「浩一君!」

「浩一!」


 俺が背中の痛みと呼吸困難で苦しんでいると、雄二と泰三の二人がやって来て抱き起して背中を優しく擦ってくれる。


「……………………はぁ…………はぁ……もう、大丈夫だ」


 介抱してもらったお蔭で少しだけ回復が早まったことに感謝しながら、俺は二人に尋ねる。


「…………奴はどうなった?」

「大丈夫ですよ。ほら……」


 穏やかな笑みを浮かべた泰三に促され、俺はサイクロプスが壁に激突したと思われる方を見やる。


 そこには壁に張り付けになって絶命しているサイクロプスがいた。


 その目には槍が深々と刺さっており、これが直接の死因となったようだった。

 この槍は、貴賓室の隣の隠し部屋で泰三が試しで放ったディメンションスラストによって部屋から突き出た槍であった。

 サイクロプスが後方へと下がったあの時、視界の隅に映った槍を見て咄嗟にこの作戦を思いついたのだが、結果オーライとなって本当に良かったと思う。


「本当に…………よか…………た」


 サイクロプスの死を確認した俺は、どっ、と押し寄せてきた疲れに抗うことができず、その場に大の字に倒れると、そのまままどろみに身を任せるようにゆっくりと目を閉じた。

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