僅かな光明
「ガハッ……ゴホッ! ゴホッ! 死ぬかと思った」
雄二は盾で攻撃をガードしたものの、咄嗟だったためにリフレクトシールドを使う間もなかった。
故に、状態異常にかからなかったサイクロプスは雄二への追撃のために猛然と前へ出る。
「戸上君!」
雄二の危機に、泰三は思わず前へ出る。
防御に関しては全くの無力だということはわかっている泰三ではあったが、親友のピンチにそんなことは言ってもいられなかった。
「こうなったら……」
今にも雄二に向かって棍棒を振り抜こうとしているサイクロプスにどうにか追いついた泰三は、体を捻って槍を体の後ろに回すと、
「やあっ!」
気合の雄叫びと共に、遠心力を最大限に乗せるようにして槍を水平に薙ぐ。
その攻撃は、棍棒を下から振り抜こうとしているサイクロプスの右足の足元へと見事にクリーンヒットする。
すると、サイクロプスの右足がまるで滑ったかのように掬い上げられ、振り抜かれた棍棒は、倒れている雄二から狙いが逸れる。
「やった!」
狙い通りサイクロプスの攻撃を逸らした泰三は、まだ倒れている雄二の下へと駆け寄ると、手を差し伸べて抱き起す。
「戸上君、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……悪い、助かった。泰三、今のは……」
「見てましたか? 今のはランサーの第一スキル『足払い』です」
ランサーの第一スキルである足払いは、ダメージこそ僅かだが、相手にガードをされなければ大きく体勢を崩すことができ、仲間に追撃のチャンスを与えるスキルだ。
しかも、槍を横に払うので攻撃範囲が広く、相手に囲まれた時の切り返しの手段としても優秀なスキルで、その広範囲に渡る攻撃によってサイクロプスは体勢を崩され、バランスを崩して雄二への攻撃を外したのであった。
これまで各々が持つ最終第四スキルしか使ってこなかったのだが、それ以外のスキルも問題なく使えるとわかったのは、泰三にとって大きな発見だった。
「第四スキルだけじゃなくて、他のスキルも再現できるということは、僕たちの戦いの幅を広げられるということです」
「そ、そいつは凄い発見だが……泰三、お前何か忘れていないか?」
「忘れているって……何をです?」
不思議そうに小首を傾げる泰三に、雄二が焦った様子で説明する。
「確か足払いって体勢を崩すだけで、スタンなどの拘束効果はなかったよな」
「……ええ、そうですね。それが何か?」
「それだと俺たちがこれからサイクロプスに襲われることは、変わらないんじゃないのか?」
「あ……」
雄二からの指摘に、泰三は青ざめた顔で後ろを振り返る。
そこには、既に体勢を取り戻したサイクロプスが雄二たち二人をまとめて薙ぎ払おうと棍棒を振るうのが見えた。
「――っ、しまっ……」
「クソッ……まだ体が……」
どうにか回避を試みようとするが、地面を抉りながら向かってくる棍棒による攻撃を避けることは今の二人には不可能だった。
成す術のない状況に、二人は揃って目を閉じ、歯を食いしばって来るべき衝撃に備える。
次の瞬間、中庭に棍棒がぶつかる衝撃音が辺りに響き渡った。
「……………………あれ?」
サイクロプスの振るった棍棒が奏でる凄まじい衝撃音が響いたが、体に何も衝撃がやって来ないことに雄二は不思議に思いながら目をそっと開ける。
すると、思いもよらないことが起きていた。
サイクロプスが振るったと思われる棍棒がくるくると円を描きながら宙を待っていたのだ。
宙を舞った棍棒は暫しの空中遊泳を楽しんだ後、重力に囚われて中庭の中央にある噴水の上に落下して盛大に水飛沫を上げる。
「……な、何で?」
不思議に思いながら棍棒の軌跡を目で追っていた雄二は、そこでサイクロプスと目が合う。
「ヒッ!? な、なんだこの……こ、こっちに来る気か?」
大盾を構えて威嚇していると、意外にもサイクロプスは雄二たちにはそれ以上の追撃はせずに、飛んでいった棍棒を拾うために距離を取る。
「…………はぁ、助かった。でも、どうして俺たちは助かったんだ?」
「と、戸上君……もしかしてあれではないですか?」
一体何がサイクロプスの棍棒を弾き飛ばしたのかと辺りを見渡す雄二に、ある変化に気付いた泰三が指差す。
「奴の攻撃は、あの柱に当たったんじゃないですか?」
そう言う泰三が指差す先には、二階のバルコニーを支える白い柱があり、その一本が何かがぶつかったかのような汚れが付着していた。
おそらく、サイクロプスの攻撃はここにぶつかったのだと思われた。
「で、でも……石の壁を砕くはずの奴の攻撃がどうして……」
「見て下さい、この柱……他の部分に使われている石とは模様が違います」
サイクロプスから十分に距離を取ったのを確認した泰三が、柱に近付いて付着した汚れを擦りながら話す。
「石材に詳しくないのでわからないのですが……この柱は、壁より遥かに固い石が使われているんじゃないです?」
「…………これは花崗岩じゃないか?」
「かこう……がん?」
あっさりと石の種類を言い当てる雄二に、泰三が疑問符を浮かべる。
「戸上君、もしかして石材に詳しかったりするのですか?」
「別に……ビルド系のゲームで齧った程度だよ。固い石材といえば花崗岩だ。日本では墓石とかに使われることが多く、御影石なんて呼ばれていたりするな」
「御影石……そう言われれば、柱に墓石とかで見る独特の模様がありますね」
「確か、石材としてはポピュラーだけど、硬いから加工にはあんま向かないって聞いたことがある。だけど、こういうバルコニーを支えるような特別な場所にだけは、無理をしてこの石を使ったんじゃないかな?」
「なるほど……それはあると思いますね」
雄二から説明を聞いた泰三は、大きく頷く。
サイクロプスの攻撃でも壊せない柱。これは使えると思った。
それだけではない。もしあの時、サイクロプスが棍棒を拾いに行かず、そのまま雄二たちに攻撃を仕掛けて来れば完全に詰みだった。それなのに、奴はわざわざ棍棒を拾いに行った。
これらの要因から導かれる作戦は、
「……よしっ」
作戦を頭の中で組み立てた泰三は決心したように大きく頷くと、調子を取り戻した様子の雄二に話しかける。
「戸上君、お願いがあります」
「何かいい作戦でも思いついたのか?」
「ええ、上手くいけばサイクロプスに大きな隙を作らせることができます……それこそ、浩一君が奴に止めを刺すくらいの隙をね」
そう告げると、泰三は雄二に細やかな作戦を話していった。




