その正体は……
小部屋に残されていた死体は、白骨化していることから死んでからそれなりの月日が過ぎたと思われるが、それでも身に付けていたと思われる鎧や槍は朽ちることなくそのまま残っていたので、この人物は戦いを生業にする職業に就いていたと思われた。
「すぅ……はぁ…………」
俺は何度か深呼吸を繰り返してどうにか落ち着きを取り戻すと、腹の下に力を入れて死体へと近付く。
「お、おい……浩一。呪われたりしないか?」
「知らないよ。でも、今は少しでも手掛かりが欲しい。もしかしたら、この城で何が行われたか死体からわかるかもしれないだろ?」
「そ、そうか……なら、俺も手伝おう」
「ぼ、僕も……」
俺の行動に、雄二と泰三も続いてくれる。
だが、
「…………………………流石に手狭じゃないか?」
「だな」
「ですね」
一つの死体に対して三人揃って手を伸ばすのは、言わずもがな非効率的だった。
しかし、かといって一人で死体を調べるのも何だか心もとない。
俺は顔を上げて二人に目を向けると、どうするべきか相談する。
「それじゃあ、どうする?」
「決まっているだろう。こういう時は……」
「じゃんけん、ですね」
俺の問いに、二人からすぐに解決策が出される。
「……だな」
あっさりと出された結論に、俺も深く頷く。
今までもこういう事態の時にはじゃんけんで解決してきたし、なんだかんだ言ってこれが一番公平な気がするからだ。
「それじゃあ、いくぞ……」
俺の掛け声に「「「じゃん、け~ん」」という声が重なり、各々がこれだ、と思った手を出す。
その結果、俺と泰三が見事に勝ち上がって死体を調べることになり、代わりに泰三にはこの部屋に他に何か手掛かりはないか探してもらうことにした。
こうして謎の死体の調査に乗り出した俺たちだが……、
「どうだ、雄二。何かわかったか?」
「…………そうだな。一つだけわかったことがある」
雄二は真顔で頷くと、至った結論を話す。
「医学の知識のない素人がいくら見たところで、得られる情報は何もないということだ」
「……そうだな」
雄二の結論に、俺も肩を落としながら頷く。
わかったことと言えば、この死体にはこれといった損傷がないことから、死因は怪我による外的要因ではなく、病気や衰弱といった何か別の要因であると思われた。
装備品以外の残された荷物は殆どが空で、水や食糧といったものも一切ないことから、この死体は、餓死したのではないかということだけは辛うじてわかった。
だが、それを示す証拠は何もないし、あったとしても俺たちの知識ではわからないので、この死体から何が起きたかを推測することは難しそうだった。
「こうなったら泰三の成果に期待するしかないか……」
俺は先程から黙ったまま壁を熱心に調べている泰三に向かって尋ねる。
「なあ、泰三。何か見つかったか?」
「…………」
しかし、俺の声が届いていないのか、泰三は壁の一点を凝視したまま動かない。
そこに泰三の意識を虜にする何かがあるのだろうか?
俺と雄二は顔を見合わせて頷くと、立ち上がって泰三の下へと向かう。
「泰三、一体何を見て……」
そう話しかける途中で、俺は壁の一部にあるものを見つける。
「……日本語?」
そう、壁の一部に日本語で何かが書かれていたのだ。
といっても、凹凸の激しい壁に随分と癖のある字で書かれているので、全く違う異世界の言葉がたまたま日本語で見えているだけなのかもしれないが――
「これはとある人の日記です」
すると、壁の文字を熟読していた泰三が顔を上げて俺に文字の正体を教えてくれる。
「この日記は、僕たちより先にこの世界に来ていた人、プロゲーマー『スパルタクス』のメンバー、王牙と呼ばれる人みたいです」
泰三は何やら確信をもってその名前を告げてきたが、生憎と俺の脳内にはその名前に覚えがなかった。
「スパルタクス?」
「覚えていませんか? 前に居酒屋で戸上君が話してくれた行方不明になったっていう動画配信者たちです」
「あっ……」
そう言われて俺はようやくスパルタクスという名前を思い出す。
プロゲーマーにして人気動画配信者だったという三人組スパルタクスがグラディエーター・レジェンズをプレイしている最中に行方不明になり、現在も警察が捜索しているという記事を雄二が見つけてきたのだ。
そして、これは異世界に召喚されたに違いないという真偽を確かめる為、会社を辞めてできた空き時間の全てを使って、ゲーム漬けの日々を送ることになったのだった。
その結果として、まさかこうして本当に異世界へとやって来る羽目になるとは思いもしなかったわけだが……とまあ、今はあれこれ気にしてもしょうがないので、俺は泰三に日記の内容について尋ねる。
「それで、日記にはなんて書いてあるんだ?」
「はい、それはですね……」
泰三は「コホン」と咳払いを一つすると、壁に残された日記を読み始める。




