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闇を貫く

「ヤ、ヤバイ、見つかった」

「言われなくても、わかってる!」


 猛然と迫って来るイビルバッドの雄叫びが聞こえたのか、シドはさらに焦ったように鍵穴に向かってガチャガチャとやっているが、そんな無理矢理やって開くなら苦労はしない。


 そう思っていたのだが、


「――っ、開いた!?」

「えっ、ウソ!?」


 そんな無茶苦茶やって開くものなのか?

 どう見ても鍵を壊す勢いでガチャガチャやっていただけのように見えたが、果たして本当に開けたのだろうか?


「おい、何だその目は……もしかしてあたしが壊したとでも思っているのか?」

「あっ、いやその……」


 その通りです。と言いたいところだが、今はそれどころじゃない。


「そんなことより、鍵が開いたなら早く中に入ろう」

「あ、ああ……そうだな」


 すぐそこまでイビルバッドが迫っていることに気付いたシドが、鍵の開いた錠前を外そうとする。

 だが、


「あ、あれ? 外れない……」


 鍵は開いたはずなのに焦っているからなのか、シドの手元は随分と覚束ない様子で、普通なら簡単に外れるはずの錠前を外せないでいた。

 まさかの状況に、ギリギリまで我慢していた俺にも流石に焦りが生まれる。


「シ、シド……早く!」

「わかってるって!」


 もうイビルバッドはもうすぐ目と鼻の先にまで迫って来ている。

 鍵が開いたのだったら、ここから先はシドにやってもらう必要はない。


 そう思った俺は、悪戦苦闘しているシドを押し出すようにして錠前に取りつく。


「シド! お、俺がやるから変わって!」

「あ、ああ……」


 狭い足場の中、俺はシドの体温を感じて思わず赤面しそうになりながらも、錠前に飛び付く。

 見たところ既に鍵は外れているし、どうやらコの字になっている部分に引っかかって外せなかっただけのようだ。


「何だ。これならすぐに外せるじゃん」


 俺はホッ、と一息を吐いてあっさりと錠前を外すが、


「あ……」


 シドの呆けたような声に反応して顔を上げると、イビルバッドがほんの数メートルまで迫っているのに気付いた。

 今から扉を開けたところで絶対に間に合わない距離まで詰められた俺たちは、


「うわああああああああああああああああああああああああぁぁっ!」

「きゃああああああああああああああああああああああああぁぁっ!」


 恐怖の余り、互いに抱き合って揃って悲鳴を上げる。



 だが、次の瞬間、勝利を確信してずらりと並んだ鋭い歯を見せたイビルバッドの姿が、突如として俺たちの前から消えた。


「「…………えっ?」」


 俺とシドは、抱き合った姿勢のまま間抜けな声を上げる。


 互いに何が起きたのか全く理解できなかったのだ。


 いきなり脅威がなくなったことに呆然と立ち尽くしていると、


「お、おい、コーイチ。あれ……」


 何かに気付いたシドが俺たちのすぐ上を震える指で指差す。

 何事かと思っておそるおそる首を上に向けると、


「――っ!?」


 そこには、成人男性ほどの長さの槍で石垣へと縫い付けられているイビルバッドがいた。


 槍はイビルバッドの大きなオレンジ色の瞳に顔の横側から深く刺さっており、傷口からはとめどなく紫色の不気味な血が流れて来ている。

 その傷が致命傷となったのか、イビルバッドはもう耳障りな声で鳴くことも、痛みでのたうち回ることもなく、糸が切れた操り人形のようにピクリとも動かなかった。

 俺は動かないイビルバッドを呆然と見ながら小さく呟く。


「まさか……死んでる?」

「そのようだ……な」

「でも、一体誰が?」


 追われている俺たちを助けるような真似をしてくれたのだろうか。

 周囲をぐるりと見渡してみても、それらしい人物の影は見当たらない。

 ただ、俺たちを助けてくれた武器が槍ということで、俺の脳裏に心優しい親友の姿が映る。


 ……まさかね。


 いくら泰三でも、自警団に入って僅か数週間でこんな大きな魔物を一撃で屠るほどの力を得ることは難しいだろう。

 それに、夜に外には出ないことを宣言している身としては、こんなところを泰三に見られるのは非常にバツが悪い。


 まあ、ともかく……誰だかわからないが、俺たちにも少なからず味方がいることだけは事実のようだ。

 これほどの好機を逃すほど、俺は愚かではない。


「シド、今のうちに逃げよう」

「あ、ああ、わかったけど……」


 どっちかというと常に怒っている印象のあるシドにしては珍しく、恥ずかしそうに赤面しながら話す。


「それよりそろそろ離れてくれない? 息……めっちゃかかってくすぐったいから」

「あっ、ゴ、ゴメン」


 そこで俺は、ようやくシドの腰に手を回してがっちりとホールドしていることに気付き、慌てて手を離す。


「…………」

「…………」


 互いに距離を取った俺たちは、まるで青春ラブコメのワンシーンのように、互いにもじもじと顔を見合わせていたが、


「……い、行こうか」

「そ、そうだな」


 こんなところで足踏みしている場合ではないので、俺たちは無理矢理自分を納得させて、地下水路へと入っていった。

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