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潔く?

「おやおや、殴られ過ぎて頭が可笑しくなりましたか?」


 一方、瓶やグラス、ナイフやフォークといった食器類ならともかく、ウエイトレスが置き忘れたと思われるトレイを手に取ったことにブレイブは憐れな者を見る目になる。


「まさかそんなもので、私に立ち向かおうというのですか?」

「ヘヘッ、その舐めた態度がいつまでもつかな」


 雄二は不敵な笑みを浮かべると、トレイを手にブレイブへと襲いかかる。

 大きく振りかぶって振るわれたトレイによる攻撃を、ブレイブは「フッ」と余裕の笑みを浮かべながら回避してみせる。


「もう、終わりにしましょうか」


 動作の大きな攻撃を避けられ、大勢を崩した雄二の背後から今までのようなジャブではなく、しっかりと踏み込んだストレートパンチを繰り出す。


 だが、それこそが雄二の狙いだった。


 体制を崩したと思われた雄二は素早く振り返ると、迫って来る拳にトレイを突き出す。


「――っ!?」


 スキルを使ったと認識されないようにと、最小の音声で発せられたリフレクトシールドが張られたトレイと、ブレイブの拳が衝突する。

 次の瞬間、ブレイブの右腕が大きく弾かれ、金縛りにあったかのようにその場で硬直する。


「んなっ……な、何が!?」


 ブレイブは自分に起きたことが理解できず、驚愕に目を見開くが、


「ハッ、隙だらけだぜ!」


 ここが勝機と見た雄二が、一気に距離を詰めて右拳を大きく振りかぶる。


「くらえええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇっ!!」


 スキルの効果で動けないブレイブに対し、雄二は全体重が乗った強烈なパンチをお見舞いする。


「うごっ!?」


 雄二に左頬を思いっきり殴られたブレイブは、近くのイスやテーブルを巻き込みながら派手に吹き飛び、そのまま轟音を立てながら壁に激突する。


「ななっ!?」

「き、貴様、何をした!」


 圧倒的優位から一転して、まさかの逆転劇を見せた雄二に、ブレイブの取り巻きの自警団たちが一斉に詰め寄ろうとする。

 だが、


「おいおい、一対一の勝負にケチをつける気か?」

「負けたからって言い訳するとは、男らしくないな」

「お前等がやる気なら、こっちだって黙っていないぜ」


 これまで黙って成り行きを見ていた雄二の仲間の冒険者たちが、一斉に動き出す。

 これに自警団の者たちは引き下がるかと思われたが、


「……上等じゃないか」

「我等を侮辱してタダで済むと思うなよ」

「今のはどう見ても何処か不自然だった。ノーカンだろう」


 予想に反し、自警団の連中は一歩も引かない視線をみせる。


「…………マズイな」


 てっきりこのまま手打ちになるとばかり思っていた俺は、身振りで泰三に距離を取るように指示を出す。


「……浩一君?」

「ここにいると巻き込まれる可能性が高い……特にお前は、自警団の制服を着ている」

「あっ……」


 話の流れから泰三がブレイブ側の人間ではないことは周知されているだろうが、いざ乱闘となったら、一々目の前の相手が誰かなんて気にも留めなくなるだろう。

 そのことを察した泰三は、逃げるように慌てて集団から距離を取る。


 そうこうしている間にも、両者は額がぶつかるほどの距離で睨み合い「ああん?」とか「やんのか?」等のまるでヤンキーのような言葉のぶつけ合いをしている。

 このまま店内での大乱闘へと発展するかと思われたが、


「…………待ちなさい」


 雄二に殴り飛ばされたブレイブが、ふらふらと立ち上がりながら自警団の連中を諫める。


「あなたたちは何を見ていたのですか……負けたのは、私です」

「で、ですが……」

「こいつ、明らかに何か力を使いましたよ!」

「そうです。自由騎士の特別な力を使うなんてとんだ恥知らずですよ!」

「黙りなさい!」


 ブレイブの恫喝に、自警団たちの動きが一斉に止る。

 しっかりと躾けられた賜物なのか、自警団の連中は一様に起立の姿勢でブレイブの言葉を待つ。


「あなた達、ネームタグを持ったまま騒動を起こしてタダで済むと思っているのですか?」

「あっ……」


 その言葉に、自警団の面々は一斉に固まる。

 どうやらその辺のことまで頭が回っていなかったようだ。


「……全く、この私に恥をかかせるつもりですか?」


 ブレイブは呆れたように大袈裟に嘆息すると、肩透かしを食らって戸惑っている冒険者たちに向かって深々と頭を下げる。


「部下が大変失礼いたしました。この勝負、私の負けです。色々と言いたいことはあるでしょうが、今夜のところは我々が立ち去らせていただきます」


 ブレイブは雄二に「ナイスファイト」と軽く肩を叩きながら言うと、一人でとっとと歩きはじめる。

 そのまま立ち去るかと思われたが、身の危険を感じて距離を取っていた俺と泰三の方を見やると、


「それでは、よい夜を……」


 そう言い残して、机に金貨を一枚置いて本当に立ち去ってしまった。

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