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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二章 ノルン城脱出

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見知った知らない世界

「ひぃ……ひぃ……ちょ、ちょっと待ってくれ」


 厨房を出て薄暗い石の通路を歩いていると、後ろから雄二の情けない声が聞こえてくる。


「お前たち…………歩くの早いって」


 ナイトの武器であるハルバードを杖代わりにしながら、息も絶え絶えといった様子の雄二が情けない声を上げる。


「見ての通り……俺ってば重装備…………だから……早くは………………歩けないっての」

「歩けないって、これでも普段よりゆっくり歩いているぐらいだぞ」


 雄二の不満に対し、俺は呆れたように返す。

 実際、雄二が亀のように足を引き摺りながら歩くものだから、気を使って大分ゆっくり歩いていたのだが、まさかそれでも早いと言われるとは思わなかった。


「そ、そうかよ……じゃあ、せめてちょっと休もうぜ」

「休むって、厨房から十メートルも移動していませんよ」


 弱音を吐く雄二に、今度は泰三からも呆れたような声がかかる。


「そんなに重いならその鎧、脱いだらいいんじゃないですか?」

「これを脱ぐだって!? 馬鹿を言うな!」


 雄二は背中を壁に預けながら、大きく息を吐いて熱く語る。


「この鎧は、きっととんでもない性能を持った超凄い鎧なんだよ。俺がこの世界で無双するために必要なピースなんだよ。それを捨てるなんてもったいない!」

「……いや、無双する前に、まともに動けないんじゃ的にしかならんだろ」

「うぐぅ……浩一、痛いところを突きやがるな」


 顔中から滝のように汗を流しながらも、それでも鎧を諦めきれない様子の雄二を見て、


「じゃあ、こういうのはどうだ?」


 俺はある提案をする。


「とりあえず身を守るために必要最低限の鎧だけ装備して、残りは俺と泰三が運ぶってのはどうだ?」

「橋倉君!?」


 泰三は泰三で身長ほどの長さの槍を持て余している状況なので、これ以上の荷物が増えるのは勘弁願いたいだろうが、それでも俺は敢えて言葉を重ねる。


「泰三、お前の言いたいことはわかる。だが、ここから先は俺たち三人で協力していかなければいけないんだ。最初から躓く場合じゃないのはわかるだろう?」

「それは……そうですけど」

「ここで雄二の装備を残すことが後々役に立つかもしれないだろ? 逆に必要ないなら、その時は容赦なく捨ててしまえばいい……違うか?」

「…………わかりました」


 泰三は不承不承といった様子で頷くと、槍を壁に立てかけて雄二へと手を伸ばす。


「戸上君、僕と橋倉君で鎧を持ちますから、不要な部分を脱いでください」

「俺としては捨てられるのは全然承服していないが……まあ、頼むわ」


 鎧を捨てなくていいとわかった雄二は二つ返事で頷くと、その場にドカッ、と座って身に付けている鎧を取り外そうとする。


 だが……、


「なあ、これってどうやって脱ぐんだ?」

「えっ? 橋倉君、わかりますか?」

「…………俺にわかるわけないだろう」


 本物の鎧を見たのはこれが初めてなのだから、脱がし方なんて当然わかるわけもない。



 そこから俺と泰三は「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤しながら、どうにか雄二の鎧を脱がしていった。




「いや~、助かったわ。マジ、サンキューな」


 鎧の大部分を脱ぎ捨て、胸当てと籠手、具足、そして攻守の要となるハルバードと大盾を身に纏った雄二は大きく伸びをしながら息を吐く。


「ゲームだと気付かなかったけど、あれだけの重装備をして長距離を走るなんて、ゲームのキャラクターたちってどいつも体力お化けにも程があるだろう」

「そう……だな」


 俺は雄二の外した鎧の重さに顔をしかめながら、石でできた階段をゆっくりと昇る。

 ここがグラディエーター・レジェンズに出てくる城と同じ造りであるならば、この階段の先は城の一階の大広間へと繋がる通路になっており、そこから二階へ上がれば、外の様子が伺えるはずだった。

 俺たちの少し先を行く泰三は、既に状況がわかっているからか、表情を曇らせたまま黙々と足を運ぶ。

 あれだけ望んでいた異世界に来られたというのに、泰三の表情が優れない理由は何だろうか。俺はあれこれと理由を考えながら思ったより長い石段を登り続けた。


 そうしてようやく階段を上り切り、城の大広間へとやって来た俺が見たものは、


「これは…………」


 そこにはゲームとは随分と違う景色が広がっていた。


 グラディエーター・レジェンズ内で見る城の大広間は、顔が映るほど磨かれた大理石に真っ赤な絨毯、真っ白な壁に見事な彫刻が施された同じく真っ白な柱の数々、天井付近には色鮮やかで巨大なステンドグラスによって色とりどりの光が降り注ぐ、贅の限りを体現したような王の城と呼ぶに相応しい大広間だった。

 だが、俺の前に広がる大広間は、ヒビだらけであちこち剥げてしまっている大理石に、絨毯と思われる残骸がちらほら。壁は黒くくすみ、柱もボロボロに朽ちてステンドグラスは残らず割れてしまっていた。

 外は雨なのか、割れた窓から容赦なく雨が降り注ぎ、雨が落ちた先は茶色く濁った水たまりができて、何やら悪臭を放っていた。

 栄枯盛衰、兵どもが夢の跡、後の祭り……は少し違うか。とにかく、俺たちが知っているはずの煌びやかな城は、どういうわけか朽ちて今にも崩れ落ちそうになっていたのだ。


「……驚きましたか?」


 呆然と立ち尽くす俺のすぐ横にやって来た泰三が、静かな声で切り出す。


「ですが、驚くのはこれだけじゃないんです」

「まだ何かあるのか?」

「ええ……その、実は人を見つけたのですが……」

「人だって? この城の中でか?」

「はい、チラリと見ただけなので、本当だったかどうかわからないのですが……」


 自分で見たものがまだ信じられないといった様子の泰三が、絞り出すように自分が見たものを話す。


「全身が緑色の化物がいたんです」

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