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形態七変化

 拳を構えながら前へと出ると、レオン王子もゆっくりとした動作で両手を構える。


『コーイチ、成長の見せ所だよ』

「わかってる!」


 ロキの声に応えながら、俺は自分を鼓舞するように拳を打ち合わせる。


 かつてグランドでの地下暮らしの時、シドにへなちょこと称された俺の格闘センスではあるが、あれからただ指をくわえて過ごしてきたわけじゃない。


 毎日のシドとの鍛錬の中で、力の乗ったパンチやキックの繰り出し方は勿論、柔軟な動きができるように柔軟性の鍛錬も欠かさなかった。

 お陰様で、今では自分と同じ身長ぐらいの相手の頭を蹴り飛ばせるぐらいには足を高く上げられるし、板の一枚や二枚ぐらいなら叩き割れるぐらいにはなった。


 ただ、いくら徒手空拳の鍛錬を積んでも、実戦ではナイフを使った方が効率的で、それ以前に相手が強過ぎて俺の付け焼刃武術の出番がなかったのだ。


 だが、ロキと同化した今なら、相手と同じ条件で殺すわけにはいかない今なら、これまでの鍛錬の成果を見せる時が来たというわけだ。


「それに、調停者の瞳(ルーラーズアイ)というアドバンテージもあるしな」

『うん、使えるものはドンドン使っていこう』

「勿論だ」


 こと実戦において、相手の戦法に対して卑怯だなんて言葉ほど意味のない言葉はない。


 どんな方法あれ最後まで立っていた者が勝者であり、絶対なのだ


 俺は前進しながら、拳を構えたレオン王子の右手から伸びてくる赤い軌跡を確認する。


「アッ……アアッ…………」


 呻きながら振りかぶった大振りの攻撃を頭を振って避け、同時に懐に踏み込んで右手を構える。


「レオン、歯を食いしばれよ!」


 そう宣言して、俺は右手をレオン王子の横っ腹を思いっきり撃ち貫く。


「アガッ!?」


 鈍い音と確かな手応えと共に、レオン王子の体が宙に浮く。


『コーイチ、畳み掛けるよ!』

「当然!」


 素早く右手を引いた俺は、下がる勢いを利用してその場で回転して回し蹴りを浮いているレオン王子へと浴びせる。


「まだまだぁ!」


 脳内でシドの動きを思い出しながら、レオン王子の全身へ次々と突きと蹴りのコンビネーションを繰り出していく。


『よしっ! いいよ! いけえええぇぇぇ!』


 ロキの楽しそうな声を耳にしながら、俺は初めての徒手空拳での戦いに確かな手応えを感じていた。

 一撃、また一撃とレオン王子へ攻撃を加えていく度に、彼を包む黒い霧が薄くなっていっているような気がする。


「このまま、押し切れば……」


 黒い霧を完全に剝がして、ソラに召喚魔法を使ってもらってレオン王子を助けることができる。


 そう信じて尚も前へと進み出ようとするが、レオン王子の全身が赤く光り出すのが見える。


「チッ!」


 脅威を示す赤い光が見えた途端、俺は瞬時に判断して大きく跳んで下がる。

 同時に、レオン王子の全身を包む黒い霧が全方位に向けて鋭い針を伸ばす。


「おわっ!?」


 足を忙しなく動かして伸びて来る針を回避しながら、俺は自分の判断が正しかったと安堵する。

 どれだけ優位に見えても。確実に相手を倒せるチャンスとわかっていても、何よりも優先すべきは自分の安全だ。


「……ふぅ」


 どうにか針の範囲外まで逃げたところで、大きく息を吐いて警戒態勢を取る。


「危なかったな」

『うん、ピンチになったらあんな手を使うなんてズルだよ! 卑怯だ!』

「……まあ、その辺については俺も自由騎士の力を使っているからね」


 憤るロキを宥めながら、俺は再びボロボロと崩れていく針の先にいるレオン王子へと目を向ける。


 どういうつもりで俺たちの真似をしているのかわからないが、少なくともあの形態では俺たちには勝てないことはわかったはずだ。

 今のレオン王子は、あの手のこの手で戦い方を変えて来るからきっと次も何かしらの変化があるはずだ。


 そう思っていると、案の定現れたレオン王子の姿はまた変わっていた。


 右手だけ異様に肥大化した形態、俺とロキを真似たような形態、そして防御時のハリネズミ形態……、


 そうして現れた次の形態は、


「……足?」


 次のレオン王子は、両足が異様なほどに肥大化していた。

 太ももの太さだけで胴の倍以上あり、身長も倍以上に膨れ上がっている。


『プっ、何あれ……めちゃくちゃブサイクじゃない』

「…………」


 クスクスと笑うロキであったが、生憎と俺も一緒になって笑うことはできない。

 レオン王子の戦い方は、作戦なんて何もない力押し一辺倒で、真っ直ぐ過ぎて回避も余裕だった。


 だが、そんな愚直な戦い方でも脅威となる場合がある。


 そんなことを考えていると、目の前にいたレオン王子の姿が僅かに揺れたかと思うと、忽然と姿が消える。


「……えっ?」

『コーイチ、右! 防御!』


 ロキの叫び声に、俺は反射的に右手で顔を守るようにガードする。

 次の瞬間、ガードした右手の上から脳を揺さぶられるような衝撃が走り、自分の体が大きく吹き飛ばされるのを自覚した。

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