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慈愛の心で

 色んな人たちの想いを背負って、俺たちは豪雨の森を進む。


 降りしきる雨のお蔭で火事の影響は思ったより少なく、ロキも火を恐れないのでこれまでにないスピードで進むことができた。

 ただ、それでもここは既に敵地で、何処に敵が潜んでいるかわからないので、一切の油断はできない。


「…………よしっ」


 脳内に浮かぶ光景で周囲に赤い光点がないのを確認した俺は、目を開けて静かに駆けているロキに話しかける。


「ロキ、大丈夫か? 呼吸が苦しかったり、目が痛かったりしないかい?」

「わふっ」


 俺の声に振り返ったロキは「大丈夫」と元気に答える。

 その顔は、よく見れば何だか青白く輝いて見える。


 実はロキの顔には、ソラがフィーロ様の見よう見まねでかけた水の精霊による魔法をかけたからだ。


 流石に体内に入れて体と一体化させるところまではできなかったが、それでも顔全体を覆って煙による一酸化炭素中毒等の害を受けずに済むことはできている。


 魔法による理屈は全くわからない。だが、一つ言えることは、ソラの魔法は凄いということだ。


 召喚魔法を学ぶため、力の使い方を学んで無駄な消費をして身体を壊さないようにエルフの森まで来たが、ソラの成長は思った以上だった。


「でも本当に凄いな。やっぱりソラって魔法の天才なんじゃ……」

「もう、コーイチさん。やめて下さい」


 思わず漏れた呟きに、俺の背中にしがみついているソラの照れたような声が聞こえる。


「褒めていただけるのは嬉しいのですが、残念ながら私は攻撃魔法は上手く操れませんでした」

「そっか、確かフィーロ様も同じだったよね?」

「はい、ですので戦闘では裏方で皆様を支えることになると思います……すみません」

「いやいや、誤る必要なんかないから」


 がっくりと項垂れるソラを、俺はロキの背中から落ちないように気を付けながら話しかける。


「俺としては、ソラが攻撃魔法で前で戦うより、後ろで援護してくれる方がありがたいよ」

「お役に……立てますでしょうか?」

「もちろん、それにソラが援護に特化している理由は、何となくわかるよ」

「……えっ?」

「ほら、ソラの力の源は、レド様の召喚魔法だからだよ」


 この世界における召喚魔法とは、人の想いと想いと結び付ける力だ。

 口で言うのは簡単だが、実際のところ相互関係が成り立つためには、術者の人格が大いに作用する。


 今回の戦いでクラベリナさんたち自警団の人たちや、旅の途中で出会った人たちを召喚することができたのも、全てはソラの人徳と言っても過言ではないだろう。

 これが別の誰かであったら、例え世界の危機であっても、命の危機を賭して参戦してくれたかどうかは微妙なところだ。


 つまり召喚魔法使いに求められるのは、何よりも慈愛の心というわけだ。


「レド様も慈愛の人って感じだからさ。誰かを傷付けるより、誰かを護る方が似合っているでしょ? だからソラの力もそっちに偏るのは仕方ないよ」

「そう……ですね」


 レド様の名前を出したからか、背後から抱き締めてくるソラの手に、僅かに力が入ったような気がする。


 俺たちと合流する前に、ソラとレド様の間でどんな会話があったかは知らない。

 だけど時間の都合上、必要な話を簡潔にして後は具体的な作戦を詰めたものと思われる。


 本当は親子水入らずで色々と積もる話もあっただろう。

 立ち居振る舞いは随分と大人びていても、ソラはまだまだ子供なのだ。


 だから俺は大人として、何としても三姉妹とレド様との真の再会を果たしてやりたい……いや、絶対に会わせるんだ。


 その為にも、皆で協力し合って、何としてもこの戦いに勝とうと思った。



 その後も時々アラウンドサーチを使って索敵を行い、敵と接敵しないようにして森の中を進んだ。


 セシリオ王が降らしている豪雨は当初の勢いこそなくなってきたが、それでもこの雨のお蔭で森の家事は確実に鎮火へと向かっていると思われた。


「……ふぅ」


 何度目かのアラウンドサーチを使って周囲の状況を確認した俺は、大きく息を吐いてロキに静かに話しかける。


「ロキ……」

「わふっ?」


 声の様子から何かを察したロキは「何?」と言って足を止めて俺の方を見る。

 俺は背後を振り返り、ソラにロキの背中から降りるよと指示しながら口を開く。


「この先を抜けたら、奴と対峙することになるよ」

「奴って……」

「ああ、レオン……混沌なる者の分体だよ」


 小さく頷いた俺は、ソラに今後の作戦について尋ねる。


「ソラ、これから俺たちはどうすればいい?」

「はい、まずは可能な限り近付いて下さい」

「近付くだけでいいの?」

「大丈夫です。決して無理して戦おうとか、迎撃しようとかは考えなくていいです」

「わかった」

「それである程度近付いたら、コーイチさんは呼びかけをお願いします」

「呼びかけ? 誰に?」

「レオン王子にです」

「……えっ?」


 思わず目を見開く俺に、ソラは確信を持った様子で頷く。


「コーイチさんの想いを、私がレオン王子へと届けてみせます」

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