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皆の想いを背負って

 俺は倒れたソラをしっかり手で支えながら、軽く頬を叩いて話しかける。


「ソラ、大丈夫?」

「うっ、ううっ……これもダメ……また捨てなきゃいけないの?」

「……大丈夫そうだな」


 どうやら過去にあったネズミの出来事を思い出しているだけのようなので、俺は彼女の体を抱え上げる。

 虫人の方は問題なさそうなので、ひとまず何処か、ソラを落ち着かせられる場所を探そう。


 そう思って首を巡らせると、俺の背後に巨大な影が地響きを立てて落下してくる。


「――っ!?」


 まさか気付かない間に、ここまで敵の接近を許してしまっていたのか?


 かといって意識のないソラを放り出すわけにはいかないので、ひとまず影の中に隠れてやり過ごすべきかと思っていると、


「おにいちゃん!」


 巨大な影がから愛らしい声と小さな人影が飛び出して来て、俺は肩の力を抜いて笑顔になる。


「おにいちゃん! おにいちゃん!おにいちゃん……」

「はいはい、何度も言わなくてもわかるよ」


 ソラが落ちないように気を付けながら膝を付いた俺は、首に抱き付いてきたミーファを優しく抱き締める。


「大丈夫か? 怖くなったか?」

「うん、ロキとクロクロとみんな、あとはシドおねーちゃんがいるからへいき」

「そうか……」


 ロキはともかくクロクロって? と一瞬思ったが、帰らぬの森で出会ったあの尻尾が二つに別れた巨大な黒猫のことだろう。


 そう思いながら周囲を見渡すと、木の上にこちらをジッと見ている黒猫と目が合う。


「あっ、どうも……」


 思わず黒猫に向かって頭を下げて挨拶すると、巨大な猫は二つに別れた尻尾をゆらゆら揺らして返事をしたかと思うと、すぐにそっぽを向いてしまう。


 ……嫌われてはいないよな?


 アニマルテイムのスキルは有効なはずなのに、他の動物とのリアクションが違い過ぎることに、あの動物は魔物じゃないかと不安になって来る。

 ただ、同じように動物たちとコミュニケーションが取れるミーファがあの黒猫のことを信じているのなら、俺も信じるしかない。


「わふっ!」

「おわっ!」


 黒猫をジッと見ていると、ロキが「私も!」と言いながら身体をスリスリと擦り付けて来る。


「わふわふっ」

「あ、うん、わかってるって、ごめんよ」


 どうやら俺が黒猫ばかり見てることに嫉妬したのか、ここぞとばかりに甘えてくるロキの撫でながら宥める。


「ロキもお疲れ様、よくミーファを守ってくれたね」

「わん!」

「ああっ、ミーファも! ロキだけずるい!」


 すると今度はロキに嫉妬したミーファが甘えてくる。


「ちょ、ちょっと待って……」


 ミーファたちに求められるのは嬉しいけど、腕の中には気絶しているソラもいるし、何ならここは思いっきり戦場だからね。



「うっ、うう……ここは?」


 どうにかミーファたちを宥めていると、ソラが目を開けて訝し気に顔をしかめる。


「……ミーファ、ロキ、何をしてるの?」

「「――っ!?」」


 ソラの冷たい声に、俺にスリスリとすり寄っていたミーファたちが弾けるように飛び退く。


 自由になったところで、ソラが身を起こして話しかけてくる。


「……コーイチさん、姉さんたちは?」

「大丈夫、優勢だよ」


 ミーファたちを撫でながらも、しっかりと戦況を見守っていた俺は、ソラに向かって力強く頷いてみせる。


「森の動物たちが加勢に来てくれたからね。このままいけば押し切れるかもしれない」


 実際、黒いネズミの援護があったところで、シドと泰三の二人だけだったら無数の虫人に苦戦していたかもしれない。

 だが、今は黒いネズミ以外にも熊や牛、リスや鳥といった大小様々な動物たちもそこに加わり、数の力で虫人たちを圧倒していた。


「このままなら、混沌なる者の分体まで……レオンのところまでいけるかもしれない」

「そう……ですか」


 光明が見えたと聞いたソラは、おとがいに手を当てて俺とロキを何度も見る。


 ソラかの意味深な視線に気付いた俺たちは「何だろう?」と顔を見合わせる。

 俺としてはこのまま一つの軍となって侵攻していければいいと思っていたが、


「では、コーイチさん。ここは姉さんたちに任せて、私たちはロキと一緒に先に行きましょう」


 ソラから思わぬ提案が飛び出す。


「確かに情勢は優勢ですが、先に進むとなると速度はどうしても遅くなります。それでは、皆を助けることができません」

「そ、そうだけど……」


 ここでロキを連れて行くとなると、残されたミーファを誰が守るというのか。


「ガゥッ!」


 すると、俺の心配を察したかのように、黒猫が降りて来て「心配ない」と話しかけてくる。


「ガゥガゥ」

「えっ? 君がミーファを守ってくれるって?」

「ガゥ」


 黒猫は「そうだ」と素っ気なく答えると、長い尻尾を伸ばしてミーファを捕まえて背中に乗せる。


「ガゥ……」

「えっ、今度はクロクロが乗っけてくれるの? やった!」


 状況がよく飲みこめていないミーファは、新しいおもちゃをもらったかのように、黒猫の背中にスリスリと頬擦りしている。

 未だに黒猫の実力を理解していないので、我が家の大事な天使を任せていいものかと思うが、ソラの言うことをも尤もである。


 だが、流石にロキも巻き込む以上、最低限の確認の必要はあるだろうと思いおとなしく待っている巨大狼に尋ねる。


「俺たちだけ先に行くことにしたけど、ロキも一緒に来てくれる?」

「わん」


 ロキは「モチロン」と快諾してくれると、俺たちを乗せるためにその場に伏せの姿勢をとる。


「シド!」


 念のためにシドにも伝えようと声をかけると、


「あたしたちはいい、行け!」


 長い耳で既に情報収集をしていたのか、軽く手を上げて先に行くように促してくれる。

 これで何の問題もないと、俺は先にロキの背に乗ってソラに向かって手を伸ばす。


「よし、それじゃあソラ」

「はい、行きましょう」


 ソラが俺の手を取って背後に乗るのを確認した俺は、ミーファを背に乗せてご満悦の様子の黒猫に話しかける。


「えっと、その……クロクロ? ミーファのことを頼むぞ」

「ガゥ!」


 俺の呼びかけに、黒猫改めクロクロは「任せろ」頼もしい返事をして、颯爽と駆けていった。

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