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母様の想いと一緒に

 かつて地下墓所(カタコンベ)で俺たちを散々苦しめたキングリザードマンが、二人の強者を前にどうなるかなんて言うまでもなかった。


「ふむ、まあこんなものだろう」


 動かなくなったキングリザードマンの背中に乗ったクラベリナさんは、レイピアに付着した血を振り払いながらライハ師匠に顔を向ける。


「ライハ殿、血沸き肉躍るいいダンスだったぞ。この後は、ぜひ私と一手交えてくれないか?」

『フッ、いいでしょう』

「えっ、師匠?」


 まさかこのままクラベリナさんと戦うつもりか?


 思わずそんなことを思っていると、ライハ師匠が呆れたように肩で嘆息する。


『コーイチ、いくら何でもそんなわけないだろう』

「そうだ、いくら私が強敵と戦うことが大好きでも、時と場所はわきまえるぞ」

「……あっ、はい」


 いつも通り顔に出ていたのかライハ師匠とクラベリナさん、二人に同時に呆れられてしまった。


『心配しなくとも、戯れるのは全てが終わった後です』

「そうだ。世界がなくなったら好きに遊ぶこともできなくなるからな」

「そ、そうですよね」


 何だか納得いかない部分はあるが、双方の間で既に納得しているのなら俺の方から何か余計な口を挟む余地はない。


 色々あったがサイクロプスから始まるボスラッシュを、頼もしい援軍のお蔭で潜り抜けることはできた。


 ただ、一つ気になることがあるとすれば……、


「ソラさんについては問題ありませんよ」

「えっ、泰三?」


 まだ何も言っていないのに? と思って親友の顔を見ると、泰三は自分の顔を指差して苦笑する。


「浩一君、驚くくらい顔に出ていますよ」

「そ、そんなに?」

「ええ、昔から表情に出る方だとは思っていましたけど、この一年で浩一君も変わったんだと思います」

「そ、そうなのか……」


 泰三の指摘に、俺は思わず自分の頬を両手で包む。


 自分では全く自覚はないが、この世界に来る前から考えていることが顔に出ると言われるとちょっとショックだ。

 一体いつからこの体質が出ていたのか気になるところだが、今は泰三の言葉の真偽を確かめておきたい。


「それより泰三、ソラの方は問題ないって?」

「ええ、今こっちに向かっています」

「本当に!?」


 その言葉に、俺は弾けたように泰三が指差す先を見る。


 これまでにクラベリナさんや自警団の人たち、二羽のトントバーニィにネロさんにラドロさん、そしてセシリオ王にライハ師匠といった人たちが援軍に現れた。


 これだけの人をソラ一人で召喚したとなると、彼女の体への負担はかなりのものになるはずだ。

 この半年でかなり逞しくなったとはいえ、俺の中ではソラはまだまだか弱くて、自称保護者としては心配は尽きないのだ。


 そんなことを思いながら目を凝らすと、何やらフィーロ様と話しているソラがいるのが見え、俺は反射的に駆け出す。


「ソラ!」


 名前を呼ぶと、三角形の耳をピコピコと動かしてソラがこちらを見て、笑顔を弾けさせながら手を振ってくれる。

 正式にソラを振ることになっても、変わらず笑顔を見せてくれることに嬉しく思いながら俺は彼女の様子を確認する。


「大丈夫? 何処か辛いとかない?」

「はい、大丈夫です」

「本当に? あれだけ色んな人を召喚したんだ。知らない間に疲れが溜まっているとか、体がダルいとかない?」

「大丈夫ですって……」


 流石にしつこく聞き過ぎた所為か、ソラは困ったように笑いながら両手で俺を押し退ける。


「心配なさらなくても、体の方は問題ないとラピス様にお墨付きをもらっています。それに、母様にも手伝ってもらいましたから……」

「そうか……それで、レド様は?」


 声のトーンから何となく察していたが、ソラはゆっくりとかぶりを振って自分の胸に手を当てる。


「ですが、母様の教えは私の中で生きています。いつか本当に母様に会えるその日まで、この想いを胸にもっともっと精進します」

「そうか……そうだね」


 ソラの言う通り、レド様とはこれでお別れではないのだ。


「次にレド様に会った時、立派な召喚術師となったソラを見て驚いてもらおう」

「はい、そうですね……ウフ、ウフフ……」


 てっきりこのまま話が一段落つくと思われたが、何か気になることがあったのか、ソラ我慢できないというように噴き出す。


 今の話の中にそんな面白いことあった?


 思いもよらないリアクションを見せるソラに、俺は戸惑ったように声をかける。


「ソ、ソラ?」

「ごめんなさい、まさかコーイチさんにも同じことを言われるとは思わなかったもので」

「……えっ?」

「実はコーイチさんの前に、フィーロ様にも全く同じことを言われたんです。体のことも、母様のことも一言一句全く同じことを……」

「ええっ!?」


 そう言われて俺は、すぐ隣で気まずそうに佇むフィーロ様へと顔を向ける。


「今のソラの話……本当ですか?」

「それは、当然です」


 同じやり取りを二度見せられたフィーロ様は、赤い顔で恨めし気に俺を睨む。


「ソラのことが心配なのはコーイチだけじゃないということです。だって私たち……友達ですもの」


 そう言って、フィーロ様は恥ずかしそうに俺たちから顔を背ける。

 エルフの特徴でもあるフィーロ様の長い耳は真っ赤になっているのを見て、俺とソラは顔を見合わせて笑う。


 普段はエルフの姫として凛とした姿を見せることが多いフィーロ様だけに、年相応の少女のようなリアクションをもっと見ていたいという想いもあるが、ソラのことを友達と言ってくれた彼女をこのままにしておくのは忍びない。

 それに、俺よりも同性のフィーロ様……、ソラの友達である彼女にこの場を任せた方がいいだろう。


 ならば邪魔者は早々に去るのみ。


 そう決めた俺は、ソラに軽く目配せをしてからフィーロ様の背中に静かに声をかける。


「フィーロ様、俺はそろそろ戻りますからソラのことを……俺の大切な家族のことを頼みます」

「……ええ、任されました」


 振り向いたフィーロ様は、佇まいを正して微笑を浮かべる。


「ここまで来れば後少しです。コーイチ、どうかご武運を」

「はい、ありがとうございます」

「コーイチさん、頑張って下さい」

「うん、無茶はしない程度にやってくるよ」


 俺は二人の少女に挨拶をすると、助っ人たちを加えて再編成している皆の下へと戻っていった。

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