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二体の王

 サイクロプスにメガロスパイダー、これまで戦った強敵たちがこぞって現れた時から、何となくあの魔物も再登場するんじゃないかと思っていた。


 だが、あの魔物は……王の名を冠する魔物は、通常では生まれない特別な存在だと聞いていたから、こんなクローンのような魔物の群れに紛れるとは思わなかった。


「キング……リザードマン」


 俺の目に、巨木をなぎ倒しながら現れる三メートル以上の体躯を持つリザードマンが現れる。


 しかも、


「――ッ、キーッ!」

「えっ?」


 腕の中のそうめんが「あっち!」と大声で鳴くのでそちらへ目を向けるともう一体、最初よりさらに大きな体躯のリザードマンが見えた。


「キ、キングリザードマンが二体も……」


 一体を倒す時でさえ、多大な犠牲の上に薄氷を踏むような勝利を得たのだ。


 あの時とは戦力に大きな違いがあるとはいえ、二体ものキングリザードマン、さらに無数のリザードマンたちを打ち倒して先に進むことなんてできるのだろうか?


「コーイチ、何を恐れているのです」


 思わず臆しそうになる俺に、ネロさんが鋭い視線を向けてくる。


「あなたは私たちが恐れ慄き、逃げることしかできなかったグリードに立ち向かい、奴を倒したじゃありませんか。あのバケモノに比べれば、巨大なトカゲなんてたいしたことありませんよ」

「ネロさん……そうですね」


 確かにキングリザードマンは強力だ。

 だが、俺もこの旅の中でキングリザードマンに勝るとも劣らない……いや、それ以上の強敵と戦ってきたのだ。


 圧倒はできなくとも、少なくとも以前よりはまともにやり合えるはずなのだ。


「すみません、思わず弱気になってしまいました」

「構いませんよ……いけますよね?」

「はい、もちろんです」


 俺は力強く頷くと、手の中のそうめんに話しかける。


「というわけなんだ。ここから先は危ないけど……いく?」

「ぷっ!」


 俺の質問に、そうめんは「もちろん」と快諾してくれる。

 さらにネロさんの腕の中のしらたきも「僕も」とやる気を見せてくれるので、俺一人だけビビっている場合ではない。


「……よしっ!」


 俺は頬擦りして励ましてくれるそうめんの頭を軽く撫でると、ネロさんに向かって頷く。


「いきましょう」

「ええ、一体ずつ、確実に仕留めましょう」


 ネロさんは最初に現れた少し小さなキングリザードマンを指差して走り出す。


「コーイチ、あなたは自由騎士の力を使って敵の隙を突いて裏から攻撃を」

「わかりました」

「……期待していますよ」


 ネロさんは薄く笑ってみせると、しらたきと一緒にキングリザードマンの前に陣取っているリザードマンジェネラルたちと戦っているクラベリナさんたちに合流していく。


「よし、俺たちも行こう」

「ぷっ」


 そうめんから行こうと返事をもらった俺は、素早く目を走らせて状況を確認する。


 現れたのがキングリザードマンだけなら話は簡単なのだが、奴の周りには王の盾となる無数のリザードマンたちがいる。

 首尾よく敵の背後を突くことができても、お供をどうにかしなければ、キングリザードマンに攻撃することができない。


「……さて、あいつ等をどうするかだけど」

「ぷぷぅ」


 俺の呟きに、腕の中のそうめんから「任せて」と声がかかる。


「ぷっ、ぷぷぅ」

「えっ? あんなのたいしたことないって……本当に?」

「ぷっぷぷぅ」


 俺の質問に、そうめんは「余裕だよ」と歌うように話して耳をピコピコと動かす。


「そういえば……」


 長女であるそうめんは、うどんの数ある姉弟の中でもっも血の気が盛んで、牧場の近くに巣くっていたバンディットウルフを一羽でバラバラにしてみせたほどだ。

 バンディットウルフとリザードマンでは実力にかなり差があると思うが、今はこの子に賭けてみよう。


「わかった……それじゃあ、お願いできる?」

「ぷっ」

「最小限の敵だけ倒して、後は避難していいからね?」

「ぷぅぷぅ」


 しつこい俺の確認に、そうめんは少し不満そうに「わかってるよ」と言って、早くするように頭をグリグリと押し付けて来る。


「ハハハ、わかったよ」


 耳の中に恐ろしい切れ味を持つ刃物があるので、俺は内心でヒヤヒヤしながらしらたきをしっかり胸に抱く。


「それじゃあ、しらたき行くよ」


 そう言って俺は、前ではなく後ろへ下がる。


「ぷぅ?」

「大丈夫、これでいいんだよ」


 焦ったようにジタバタするそうめんを優しく撫でて大丈夫と言いながら、俺はゆっくり木の影の中へと潜る。


「――ぷっ!?」

「大丈夫、危ないことは何もないから」


 そういえば、ヴォルフシーカーの説明をそうめんにしていなかったな。


 そんなことを思いながら、俺は現在の敵の配置をしっかりと記憶しながら暗闇の中へと沈んでいった。

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