お姉さん、躍動
「た、隊長……」
まさかの人物の登場に、泰三は思わず感涙してクラベリナに駆け寄ろうとするが、
「おっとタイゾー、まだその時じゃないぞ」
泰三を手で制しながら、クラベリナはレイピアを構えて獰猛に笑う。
「ひとまずあのバケモノたちを駆逐してからだ、やれるな?」
「はい、勿論です!」
「フッ、いい子だ」
犬のように従順に頷く泰三に笑みを返しながら、クラベリナはサイクロプスに向かって駆け出す。
「どれ、お姉さんと楽しくダンスをしようじゃないか」
蹴り飛ばされた衝撃からようやく立ち上がったサイクロプスに、クラベリナは容赦なくレイピアによる連続突きを繰り出す。
「さあ、お姉さんの輝きをとくと見るがいい」
「グッ、グガッ……」
クラベリナによる目にも止まらぬ連撃に、サイクロプスはこん棒を使っての防戦一方へと追いやられる。
「どうした? その程度で防御のつもりか?」
ガードを固められても、クラベリナは僅かな隙間を正確に狙ってサイクロプスの体に次々と穴を開けて行く。
「ハハハッ、そのまま穴だらけになるつもりか?」
「グガッ、グオオオオオオオォッ!」
尚も続くクラベリナの猛攻に、業を煮やしたサイクロプスは雄叫びを上げて丸太より太い剛腕を振るって襲い来るレイピアを弾こうとする。
「おっと、その手は食わんよ」
だが、サイクロプスの動きを予見していたクラベリナは、大きく後ろに跳んで剛腕を回避してみせる。
「ほら、タイゾー。見せ場は作ってやったぞ」
「はい、ありがとうございます!」
大きく下がるクラベリナとスイッチするように前へ出た泰三は、大振りをして隙を晒しているサイクロプスへと迫る。
「はああぁぁぁ!」
地面を滑るように移動した泰三は、弓を射るように限界まで引き絞った槍を一気に解き放つ。
「ディメンションスラスト!」
スキル名を叫びながら放たれた必殺の槍は、攻撃に気付いて両腕をクロスしてガードするサイクロプスの両腕を貫き、その奥にある一つ目を貫いて後頭部まで貫き、周囲に紫色の血を撒き散らす。
「ハッ、やるじゃないか」
「いいえ、まだです!」
クラベリナの感嘆の声を耳にしても、サイクロプスのタフさを知っている泰三は、素早く槍を引き抜いて血を振り払って武器を構える。
「こいつは致命傷を負わせても、完全に倒れるまで油断できないんです」
「……グッ、グガッ!」
泰三の言葉に応えるように、目を貫かれたサイクロプスはうめき声を上げながら立ち上がる。
「ウガッ、ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!」
目を潰されたサイクロプスは、叫びながら手にしたこん棒を無茶苦茶に振り回す。
「クッ、しつこい……」
目が見えないからか、狙いも何もなく闇雲に暴れ回るサイクロプスの攻撃に巻き込まれないように、泰三は距離を取って槍を構える。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!」
「これは……」
だが、そこで泰三はサイクロプスが闇雲に暴れているだけで、自分の方すら見ていないことに気付く。
「だったら……」
このままサイクロプスが力尽きるまで放っておくのも手だと判断した泰三は、青鬼を睨んでいるクラベリナに向かって叫ぶ。
「隊長、今のうちにメガロスパイダーの方を……」
「いや、早く楽にしてやろう」
泰三の警告を無視して、クラベリナは胸を張って悠然と歩き出す。
「た、隊長?」
「心配するな。お姉さんに任せろ」
クラベリナは前を向いたまま泰三にサムズアップしてみせると、こん棒の暴風の中へと突っ込んでいく。
最初に突っ込んだ時と同じように、ダンスするように華麗にステップを踏んで攻撃を回避しながらクラベリナは尚も前に出る。
「この私を前にして正面から戦った。お前は誇りある戦士だったよ」
サイクロプスの振るうこん棒が頬を掠めても、風圧で髪の数本が宙を舞ってもクラベリナは怯むことなく前へ進み続ける。
「――ッ、ウガアアアアアァァァ!!」
クラベリナの気配に気付いたサイクロプスが声が聞こえた方へこん棒を振るうが、
「無駄だよ」
クラベリナ細見のレイピアを振るって、闇雲に振るわれたサイクロプスのこん棒を弾き飛ばす。
「アガッ……ガッ……」
こん棒を失ったサイクロプスは、相棒を求めるように手を宙に彷徨わせる。
だが、目を失った状況ではこん棒を探すことは叶わない。
仇敵を前にして迷子のように動かないサイクロプスに、クラベリナは長くしなやかな足を振り上げると、
「終わりだよ」
小さく呟いて高々と上げた右足を素早く振り抜く。
瞬間、ゴキリと骨が砕ける音がしてサイクロプスの首があらぬ方向へ曲がり、一つ目の青鬼が後ろに倒れる。
「楽しかったよ、安らかに眠るがいい」
サイクロプスが完全に沈黙したのを確認したクラベリナは、優雅に振り返ってニヤリと笑う。
「どうだ、お姉さんは相変わらず美しいだろう。なあ、コーイチ」
「えっ?」
クラベリナの声に驚いて後ろを振り返った泰三の目に、あんぐりと口を開けて固まる浩一がいた。




