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ピンチに現れたのは?

「まさかここで……」


 青い肌を持つ筋肉の塊を見て、泰三は槍を持つ手に力を籠める。


 ノルン城で戦ったサイクロプスは、この世界に来て一年以上経った今でも夢に出てくるほど泰三の脳裏に深く刻み込まれている。

 自警団の誰もが一目を置くほどの実力者になり、幾度となく修羅場をくぐり抜けてきた泰三であったが、果たしてサイクロプスを倒すことができるだろうか?


 浩一のバックスタブによる致命傷を受けて尚、背中に乗った彼を殺そうとした執念を思い出すと、必殺の一撃を誇るディメンションスラストであっても雑に振るうことはできないと泰三は考えていた。


「お、おい、何だあのデカいのは……」

「知るかよ。だが、奴を倒さなきゃ俺たちに明日はねぇ!」

「ああ、一気にやっちまおう!」


 すると、周囲の魔物を一通り倒した三人の獣人たちが、巨大な棍棒を手に悠然と立つサイクロプスを取り囲む。


「待って下さい!」


 サイクロプスに向かって正面から突撃しようとする獣人たちを、彼の魔物の恐ろしさを知っている泰三が止めようとする。


 だが、


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッ!」


 それより早くサイクロプスが雄叫びを上げながら、手にした巨木のようなこん棒を滅茶苦茶に振り回して暴れる。


「うわああああああぁぁぁ」

「ヤ、ヤバ……あがっ!?」


 サイクロプスの予期していなかった行動に、対処しきれなかった二人の獣人がこん棒の一撃をまともに受けてしまう。


「――っ!? 皆、力を合わせて!」


 吹き飛ばされた獣人たちを見て、フィーロが鋭く叫びながら手を掲げる。

 フィーロの声に応えるようにエルフたちが手を掲げると、宙を舞う獣人たちに制動がかかり、その先にあった岩に激突する前に止まり、ゆっくりと地面に降ろされる。


 致命的な一撃を受けることはなかった二人の獣人であったが、サイクロプスの一撃によるダメージは大きく、その場から立ち上がることもできないでいた。


 そこへ死体に群がるハイエナのように、バンディットウルフが唾を撒き散らしながら襲いかかるが、


「させません!」


 獣人たちが吹き飛ぶと同時に走り出していた泰三が颯爽と駆けつけ、槍を一閃させてバンディットウルフたちを薙ぎ払う。


「すみません、どなたか救助を!」

「おう!」

「任せろ!」


 泰三の要請に、遅れてやって来た獣人たちが駆け寄って負傷者を抱えて離脱していく。


「……よかった」


 無事とは言えないが、死者を出さずに済んだことに泰三は安堵の溜息を吐く。


「グガアアアアアァァッ!」


 安堵する泰三の下へサイクロプスが襲いかかってくる。


 だが、


「おっと」


 警戒していた泰三は事もなげに回避してみせると、引きながら槍を横に払ってサイクロプスの腕を斬りつける。


「グガッ!?」


 うめき声を上げるサイクロプスの手首から鮮血が舞うが、血が噴き出たのは一瞬で、斬られたと思った傷口がボコボコと泡立つような音を立てながらみるみる塞がっていく。


「チッ、やっぱり……」


 驚異的な回復力を見た泰三は、油断なく武器を構えながら周囲に向かって叫ぶ。


「ご覧の通り、あいつは一筋縄では倒せません。とにかくタフで、致命傷を与えても決して油断しないで下手に間合いに入らないでください!」

「で、では、どうすれば?」

「タフと言って無限ではありません。とにかく手数で削りましょう……後、手足の腱を切ることができれば、動きを封じることもできます」


 ノルン城での戦いを思い出しながら、泰三は獣人たちに指示を飛ばす。


「後、サイクロプスはこん棒にこだわる性質があります。ですからあいつが持つ武器を狙いましょう」

「わ、わかりました」

「おい、二手に分かれるぞ。他の魔物を相手にする奴は、余計なザコをこっちに近付けないでくれ!」


 細かく指示しなくても獣人たちの中で役割分担が決まっているのか、サイクロプスと対峙する組とそれ以外とで分かれる。


「タイゾー殿、我々であのバケモノを倒しましょう」

「わかりました」


 獣人たちの連携力に感心しながら頷いた泰三は、すっかり回復した様子のサイクロプスを睨む。


「さて……前と同じなら、こん棒を封じれば僕たちでもどうにか対処できるはず」


 素早く周囲に目を走らせながら、サイクロプスのこん棒を縫い付けるのに適した場所はないかと探る。



 すると、


「う、うわああああああぁぁぁ!」

「蜘蛛だ! メガロスパイダーが出たぞ!」

「……えっ?」


 他の魔物を止めに行ったはずの獣人たちの悲鳴が聞こえ、泰三は驚いてそちらへ目を向ける。


 すると今度はかつて迷いの森で辛酸を舐めさせられた巨大な蜘蛛の魔物、メガロスパイダーが怒涛の勢いで突っ込んでくるのが見えた。


 しかも、


「うわああぁぁ、こっちからも来たぞ!」

「こっちもだ。メ、メガロスパイダーが三体だと!?」


 別々の方向から三体の巨大な蜘蛛が、別動隊として展開した獣人たちを取り囲むように迫って来ていた。


「そ、そんな!?」


 サイクロプスだけでなく、同じボス級の(クラス)魔物であるメガロスパイダー複数体で現れたことに、泰三は思わずそちらへと目を向ける。


 だが、そんな隙を晒して、敵が黙って待ってくれるはずもない。


「タイゾー様、奴がっ!!」

「……えっ?」


 悲鳴にも似た声に反応して泰三が慌てて正面を向くと、すぐ目の前にこん棒を振りかぶるサイクロプスの姿が映る。


「――っ、しまっ!?」


 まさか自分の倍以上の大きさのサイクロプスが、音も立てずにこんなにも早く移動できるとは思っていなかった。


「だとしても!」


 自分の判断の迂闊さを呪うが、既に回避できる距離ではないので泰三は槍を構えてサイクロプスの攻撃を受ける覚悟を決める。


「来い! 僕の本気を見せてやる!」


 目を見開いてサイクロプスの攻撃を見極めようとする泰三だったが、


「ハッ、いくら何でもそれは無謀というものだぞ。坊や!」


 泰三を窘めるような声が響き、サイクロプスが横から割って入って来た何者かの攻撃を受けて大きく吹き飛ぶ。



「…………えっ?」


 長い金髪の髪をなびかせながら飛び蹴りを放つ乱入者を見て、泰三は目をまん丸にして立ち尽くす。

 そんなはずはない。


 ここにあの人がいるはずがない。


 そんなことを思いながらも、泰三は音もなく着地した人影に震える声で話しかける。


「た、隊長……本物ですか?」

「本物だよ。お姉さん、華麗に参上だ」


 そう言ってクラベリナは泰三に向かって振り返ると、ニヤリと笑ってみせた。

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