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20.双子の真実

 シズナが生きているかもしれないという情報は、思った以上にイギサの心を逸らせた。できれば今すぐにでも向かいたかったが、まさか双子を放っていくわけにはいかない。連れて行くのも論外だとすれば誰かの手を借りなければならず、こんな時は人間関係を良好に保つ努力の足りないイギサさえ受け入れてくれる草匙そうは有難い。


 隣と言っても歩いて五分かかるほど離れているが、二三日なら子供たちの面倒を見てくれる。それだけ時間があれば、シズナがいるかどうか確認するくらいはできるだろう。とりあえずの計画に目処がついたのは夕飯時、薬草の状態はどうだったと報告しながら食べ進めている二人の前で深刻にならないよう努めながら、頼みがあるんだけどと切り出す。


「しばらく家を空けなくちゃいけなくなったんだけど、留守を頼んでいいか」


 二人なら大丈夫だろう? と自尊心をくすぐりながら語尾を上げれば、いいよと快諾されると思っていたのだが。双子は食事をしていた手を止めて、何故かまじまじと顔を眺めてきた。


「すぐに戻る。長くても二三日だ」


 それ以上にはならない、必ず戻ると告げると双子は互いに顔を見合わせた。日頃あまり見ない反応をされてイギサが戸惑っていると、双子は同時に口を開いた。


「「一緒に行く」」

「駄目だ」

「「じゃあ行っちゃ駄目ー」」


 まったく同じ調子で頷いた双子は、話は済んだとばかりに食事を再開する。イギサは言葉を探して何度か口を開閉し、すぐに戻るからと机を叩かんばかりに主張するが双子は駄目駄目と首を振った。


「一緒に行くか」

「一緒に留守番」


 どっちか一つとフウカが右手の指を立て、リクトが左手の指を立てる。イギサは痛いこめかみを押さえながら、まったく譲る気のなさそうな二人を困って眺める。


「二三日くらい、我慢できるだろう?」

「そりゃあね」

「僕たちはね」


 ねー、と顔を見合わせて頷き合った二人は、でも父さんは無理だからと思ってもみない言葉を紡いで頭を振る。


「は?」

「だからね、父さんを一人にできないし」

「そうだよ、何にもできないくせにさー」

「一緒に行くか」

「一緒に留守番」


 どっちか一つと改めて繰り返されるのを聞いて、思わず頭を抱える。


「お前ら、俺を何だと思ってるんだ……」


 まだ八歳になったばかりの子供に、一人で何もできない親認識されているなんて。ここまで育ててきたのは誰だと思ってるんだと目を据わらせ、お前たちは留守番だと少し高圧的に声を尖らせた。


「とにかく出かけなくちゃいけないんだ。その間のことはお隣に頼んでおくから、」

「二泊するなら、荷物がいるね」

「三日分にしようよ、念のため」


 どの鞄にしようかと何だか旅行気分で話し始める双子に、真面目に話してるんだと二度ほど軽く机を叩いて眉根を寄せた。


「お前たちは連れて行けない」


 シズナが冠暁かんぎょうにいるならいい。子供たちを引き合わせるのに何の問題もない、けれどいなかったことを考えると背筋が寒くなる。せっかくシズナのいない生活に慣れてきた子供たちに、淡い期待を抱かせてまた取り上げるような惨い真似をしたいとは思えない。


 絶対に連れて行けないと断固として繰り返すが、双子は分かってないなぁと呆れたように栗色の髪を横に揺らした。


「父さんは一人になっちゃ駄目!」

「聞けないなら出かけちゃ駄目!」

「っ、あのなぁ。ふざけてる場合じゃないんだ、ちゃんと聞け」

「フウカたちだって真面目だよ」

「分かってないのは父さんだよ」


 イギサより腹立たしげにしたのは双子のほうで、立ち上がって乗り出してきた勢いに押されて知らず身を引くと真面目な顔つきで睨みつけてきた。


「父さんを絶対に一人にしないでって」

「お母さんが僕たちにお願いしたんだ」


 だから、と二人は声を揃える。


「「父さんは一人になっちゃ駄目!」」


 頬を膨らませて主張する双子は、この三年いつでもイギサに引っついていた。母を亡くして寂しいのだと思い、自分が面倒を見なくてはと気負っていたのに。まさか生前のシズナに頼まれて二人のほうが面倒を見てくれていたなんて、想像もしてみなかった。

 咄嗟に出てくる言葉などなく、ふらりと視線が落ちる。一人にならないでくださいねと、いつだったか笑うように忠告してきたシズナの声が耳に蘇る。姿は見えなくても、ずっと側にいると誓ったシズナの約束は今も変わらない。


「そうだな……、一人になるのは間違ってる」


 震えそうになる手をぐっと握って堪え、一緒に行くかとどうにか笑顔を作る。もしそれが理由でシズナ捜しが難航することになったとしても、何より彼女を思い出させてくれる二人を置いていくのは違う気がした。


 フウカとリクトはにっこりと顔を見合わせ、やったぁと手を打ち鳴らして喜んだ。

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