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黒髪の伝説  作者: 百合斗
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七章:責任の取り方

 

 ノイス村の広場には村人全員が3人の人物を取り囲むように集まっていた。村人たちはその中の二人に険しい視線を向けている。その視線を受け流しながら佇むリークとその視線に居心地が悪そうにしているキィルである。残る一人の村長は悩ましげにうなっていた。


「リークよ、おまえがこの旅人を匿っていたようじゃな?」


「……はい、そうです」


 リークは村長の問いに申し訳なさそうに答える。






 周りの見回りを済ましたリーク達は無理をしていたシオンを家に送ったあと、倒れていた男達を拘束し倉庫に閉じ込めることにした。そうしている間に、村人の一人が様子を見に来たので、安全を伝えると同時に近くの街の警備隊に男達を連行してもらうように頼むのであった。

 帰ってきた村人たちの中にいた村長はリークが旅人と顔見知りである様子と、旅人がリークの家の方向から来た事を思い出し、この問いをしたのだった。

 そしてその考えはリークの言葉によって真実と化した。

 リークの言葉を聞き、村人たちの視線がより一層険しくなる。


「七年前、旅人の持ってきた流行病によって母を亡くしたおまえが、まさか、旅人を匿うとは思わなかったな」


 村長は悲しみを含んだ声で話した。


「被害は自分と旅人で食い止めました、………しかし、村に危険を持ち込んだのは事実です」


 リークは冷静に答える。


「だから、俺は今日中に村を出ます。 だから、旅人は不問にしてください。 お願いします」


 そう言って頭を下げる。

 それを聞いたキィルは驚き、口を出そうとしたが、リークが目で静止を訴えているのに気付き、口をつぐんだ。

 村長はリークの申し出を聞き、少し考える素振りをした後、頷きながら答えた。


「わかった、おまえの申し出を聞き入れよう。 3年じゃ、3年間戻る事を許さぬ、皆もそれでよいな?」


 村長が周りを見渡しながら問う。村長の問い掛けに村人達は不承不承ながらも、同意したようだった。


「うむ、……………今回の騒ぎを起こしたリーク・シルフィードに三年間のノイス村追放を言い渡す。 次の朝日が昇るその前にノイス村を立ち去れ! ………以上」


 そう言い残し村長はその場を後にした。

 村人たちもリークには一言も声をかけることなく去っていく。広場に残ったのはリークとキィルだけとなった。

 そこでようやくキィルは口を開いた。


「おいおい、皆薄情じゃないか? 誰もお前に同情の欠片も見せなかったぞ」


 少々不機嫌気味に話すキィル。


「お前もお前だ。 かばってもらって悪いが、村を出て行くって本気か?」

「本気も何も、もう宣言したんだ、あとには引けないだろ」


 リークは呆れた視線をキィルに向けながら答えた。


「別にいいんだ。どうせ、もうすぐ旅に出る予定だったんだ。それが少し早くなっただけだ」

 

 その言葉にキィルは訝しげな顔をする。


「旅に? いったい何で? さっきの村人たちの態度が変だったが、それと関係あるのか?」

「まぁ、それは追々話すさ。 それより早く家に戻って旅立ちの準備をしないと」


 リークは自分の家へと歩きだし、キィルはそのあとを追う。


「準備って今日中に間に合うのか?」

「大丈夫だ、すでに準備できている」


 




 リークが言ったとおり、旅の準備に抜かりはないようで、すでに荷物を整えていた。昼飯を軽く食したリーク達はそのまま村の出口へと向かった。


「村の人に挨拶していかなくていいのか?」


 出口が見えてきた頃にキィルが聞く。


「広場の宣言の後に誰も話しかけてこなかったろ? そういうことだ」


 リークはほんの少し寂しそうにつぶやく。


「だが、シオンちゃんは?」

「ん〜〜、たぶん、そろそろ―――」

「リィーーーーーーークーーーーー」

「ほら来た」


 二人が振り向くと茶髪の少女がこちらに走って来ていた。その眼には涙が滲んでいる。


「どうして、リークが、おい、だされなくちゃ、ならないの!?」


 二人に追いついたシオンが息を切らせながら話した。


「シオン、落ち着いて」


 リークは苦笑した。


「だって!! キィルを村に入れたのは私なのに!! リークは最初反対してたのに私が!!」


「な、泣くなよ」


 シオンは感極まって涙を流した。それには今まで平然としていたリークもさすがに慌てる。


「ちょうどよかったんだよ、シオンも知っているだろ? 俺がいつかこの村を出て行こうとしていた事………」


 リークができるだけ優しい声で話す。


「うん、知ってる。 そのせいでリークが村の皆に嫌われていたことも………」


 シオンが涙を拭いながら――それでも次々と零れていたが――答える。


「だから私、村のみんなの分もリークと仲良くしようと思ってたのに……… なのに、私、リークを追い出すようなことを!!」


 そう言ってシオンが本格的に泣き出しそうになった。


「すまない!!」


 いきなりの謝罪の言葉がシオンの涙を止めた。シオンとリークが驚いて、そちらを向くとそこではキィルが跪き地面に両手と額を付けて謝っていた。


「ほんとうにすまない!! 俺があんなところで倒れなければこんなことにはならなかった。 謝って済む問題じゃないが、ほんとうにすまないと思っている」


 キィルの言葉には本当に心からの謝罪だと分かるほどの気迫が感じられた。


「……………シオン、お前は村を出て行くわけにはいかないだろ? お前には心配してくれる父がいる。病気で伏せっている母がいる。 それがわからないお前じゃない」


 リークはそんなキィルを無視するように話した。村の外に広がる草原に細めた目を向ける。


「本当にちょうどよかったんだ。おかげで旅に出る踏ん切りがついた」  

「………リーク」


 シオンとリークの間に沈黙が流れる。






「…………………」


 キィルはとても気まずかった。まさか無視されるとは思わなかったのだ。しかし、勝手に頭を上げるわけにもいかないので、ずっと俯いていた。


「……………これが罰だな」

「………え?」


 それが自分に向けられた言葉だと気付いたキィルは顔を上げた。リークが少しだけにやけていた。


「すっごく気まずかっただろ? これでチャラだ。 いいだろ? シオン」

「えぇ、これで許してあげるわ」


 シオンも頬に付いていた涙のあとをハンカチで拭いながら言った。その様子を見たキィルは心底安心したように、ほぅと息を吐いた。


「な、なんだ そういう事か、心臓に悪いぜ。 だけど、それじゃあ俺の気が済まないから、リークの旅には俺も少しの間付き合わせてもらうぜ」


「助かる、旅は初めてだからな。 シオンももう文句ないな?」


 リークの言葉にすこし悲しげな表情をしたシオンであったが、すぐに苦笑を浮かべた。


「えぇ、リークをこれ以上困らせるわけにはいかないからね」

「そのとおり、 今更、宣言を撤回できんからな」

「リークは人一倍責任感が強いもんね」


 リークは、当たり前だ、と胸を張った。

 村の出口に着いた三人は別れの挨拶を済ませた。リークとキィルはシオンに背を向けて歩き出す。その二人に名残惜しく手を振るシオン。

 

「そういや、シオンに一つだけ言っておきたいことがあったんだった」

「えっ!? な、なに?」


 リークが振り向きシオンをまっすぐ見つめた。そんなリークにシオンはすこし上擦った声を上げた。


「今度から人を助けるときは気を付けるようにな」

「………う、うん」


 リークの言ったことに何故かちょっとガックリしながらシオンは答えた。


「人助けはしてもいい、それはシオンのいいところだと思うからな。 だが、人助けをするときは覚悟をしろよ」

「覚悟?」


 シオンは首を傾げた。


「すべての責任を取る覚悟だ。…………覚悟なき正義は唯の自己満足だからな、以上だ。じゃぁな」


 リークはそう言うと旅へと歩き出した。


「三年後、リークが帰ってくるときは俺も隣にいると思うから、そんときはよろしくな。  勿論、トラブル無しでね。 じゃぁね」


 キィルがその後に続いた。リークの言葉を心に刻んだシオンは大きく手を振った。


「身体には気を付けてね!!」


 キィルは時々振り向いて手を振り返した。リークはもう振り返りはしなかった。








 


 キィルは振り返ろうとしない隣の少年を盗み見て、ばれないように微笑んだ。少年の眼が薄らと潤んでいたからだ。


「まぁ、あんだけ格好つけた後に涙は見せられんだろうな」


 ぼそりと呟く。


「ん? なんだ?」

「いや、格好いいなと思ってな」


 キィルの言葉にリークは一瞬、目を見開きそして、そうだろ、と笑顔を見せた。

 



 こうして少年と青年の旅は始まった。世界なんかとは全く関係ないはずの旅が……………


















 その後、二人は別れの余韻に浸るように黙ったまま歩いた。もう振り返っても村は薄らとしか見えない。そんなとき


「あっ!? しまった!!」


 リークが声を上げた。  


「な、なんだよ?」

「家に忘れ物してしまった!! どうしよう? 今更帰るのもなぁ、まぁ、いらないか。 あぁ、でもなぁ」


 リークは一人でぶつぶつと悩んでいる。そんな様子のリークにキィルは一言







        「かっこ悪っ!!」


 

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