六章:戦いの後編
村の裏口の近くにある林にいたシオンは用事を済ませて村に戻ろうとしたのだったが、裏口から出てきた村人に、今は村の中が危険だと告げられて状況を聞きながら、隣村へと移動していたシオンであったが、ふと村にはもう誰もいないのかを問うと、謎の金髪の旅人以外はほぼ全員無事に出た事を聞き、シオンは驚いた後に村人の静止も聞かずにノイス村へと戻って行ったのだった。
戻り始めた位置は裏口よりも出入り口の方が近い位置だったので、シオンは出入り口から広場へと向かうことにした。……………そして
「きゃっ!?」
剣を手にした男が物凄い形相をして、自分の方に走ってくる姿を見たシオンの口から悲鳴が零れた。身体が強張ってしまい、動けないようだった。
小柄な男が村の出入り口から仲間のいる場所へ行こうとした時、反対方向から広場に向かって走ってきているシオンがいた。
最初、シオンは村の中からこちらに走ってくる男達を逃げ遅れた村人だと思っていた。何故なら、男達の走り方が何かから必死に逃げるそれであったからである。
シオンの頭の中には5人組の悪党がキィルに酷い事をしている姿が思い浮かばれていたのだ。必死な顔をして逃げる男二人をその悪党だと認識できなかったのも、無理のないことであった。
だが、顔が確認できるほどに距離が狭まったとき、シオンは見覚えのないその顔に張り付いた四つの瞳に寒気がするほどの敵意がこもっているのに気付いて悟るのだった。
目の前の二人が悪党であることに………
「っ!? にげろ、シオン!!」
悪党たちのすこし離れた後ろでキィルがそう叫ぶのがシオンは聞こえていたが、身体が動かなかった。それどころか、逃げる男達は目の前の少女に人質の価値があることを悟り、腰から剣を抜いて少女に近づいた。少女は小さく悲鳴を上げ、瞳に涙を滲ませるだけで逃げることはできないようだった。男達は残虐な笑みを浮かべる。
「これで、形勢逆転だ―――」
そう呟きながら小柄な男が少女に向けて手を伸ばした、その時
キィルは見た。伸ばされた小柄な男の腕に放たれる見事な一閃を―――その一閃を放つ漆黒の少年の姿を―――
「……ぇ?」
声を上げたのは、小柄な男ではなくもう一人の男の方であった。小柄な男はまだ何が起きたか理解できないのか、声一つ上げずにただ砕けた自分の腕を目を見開いて見つめていた。
その声に反応したかのように漆黒の少年が声を上げた男に木剣で斬り込んだ。男が剣を構える間を与えずに、脚・胸・腕・頭・顔へ流れるような連撃を繰り出す。
「ぐぼぁっ」
そんな声を上げ、男は気絶して倒れる。その際の、ドサッ、という音を聞いて小柄な男はようやく自分の状態に気付いた。
「っ!? ああぁぁぁぁあぁ…… いってえぇぇぇぇぇ!!」
「うっせぇよ」
やっと追いついたキィルは喧しく叫ぶ小柄な男の頭を両手剣の腹で叩き気絶によって黙らした。そして、漆黒の少年によって見事に気絶している男を少しの間眺めた後に、少年の方を向いて言った。
「リーク、お前って…………ホントに村人?」
「…………一応、な」
蹲って軽く泣いているシオンの頭を跪いてやさしくなでながら、漆黒の少年―――リークは苦笑して答えた。その姿は先程の見事な剣技を繰り出していた人物と同一人物とは思えないほど優しげなものであった。
キィルは、フゥと軽く息を吐くと村の外へと顔を向けた。
「まぁいい、それよりそんなに腕が立つならちょっと手伝ってほしいことがあるんだが?」
「ん? もしかして外にいた男共のことか?」
「なんだ、知ってんのか」
そう言いながらキィルは改めてリークの姿を見た。昨日と同じ、村人的な恰好をしていたがそのところどころが破れ、やや眼つきの悪い顔には小さな擦り傷や切り傷が見られた。さっきの戦いは完全に一方的なものであったので、さっきの戦いは関係がないことになる。
――そういえば、さっきリークは村の外から駆けつけてきたな。…………外の男共を知っていて、その外から現れて、顔や身体に争った跡…………と、いうことは――
「おまえ、30人を一人で相手してきたしてきたのか!?」
キィルは驚きの声を上げる。それにリークは怪訝な顔をした。
「30人? いや、15人くらいだったと思うけど?」
「なに? じゃ、あれはこいつが大げさに言っただけか、 なんだよ、法螺吹きめ」
キィルは肩の力を抜いて気絶している小柄な男を、コツンッと蹴った。しかし、リークは反対に気を引き締めた。
「いや、分散しているだけかもしれない。念のために周りを確認しにいこう」
リークが立ち上がるとシオンも立ち上がった。まだ少しふらついているものの、もう泣いてはいなかった。
「じゃあ、俺が一人でやるよ。 おまえはシオンを家まで送ってやれ」
キィルが気を使い気味に言った。それを聞いたシオンは自分の頬を両手で叩いた。パシンッ、パシンッと音があたりに響く。
「私もいっしょに行くわ。 この状況で一人になったら危険だわ。 お願い、今度はもう足手まといにはならないから」
シオンの瞳にはさっきまでそこに涙があったのがウソかのように強い意志が込められていた。それを見たリークがうなずいた。
「いいのか?」
キィルの問いにリークはもう一度うなずく。
「ああ、いざとなったら二人とも守ってやるよ」
意外な答えにキィルが目を丸くする。そして、ニカッと笑った。
「ハハッ、そんときゃ頼むよ!! 黒髪の剣士さんよ」
まだ頭の血が下がり切ってないのか、黒髪の話を普通にするキィル。
その言葉に少し顔を顰めたリークだったが、それ以上何もいうことなく、村の外へと歩いて行った。その後にキィルとシオンが続く。
しかし、リークの考えは杞憂に終わり、問題は何もなかった。
むしろ問題は村人が全員戻ってきた時に起こったのだった。
戦いが終わりました。
予想以上に疲れました。
初小説で戦闘、はハードルが高かったようです。
小説では長ったらしくなるので、戦いの細かい部分は結構省きました。説明不足なところがありましたら、コメントにお願いします。