表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒髪の伝説  作者: 百合斗
6/14

五章:戦いの中編

 


 手にしていた戦斧を肩に担ぐとキィルはギズゥ達に向かって走り出した。

 ギズゥがそのことに気付き、手下の二人になんらかの指示を出そうとしたその時、キィルは足を地面に強く踏み込み、同時に思いっ切り戦斧を後ろに振りかぶり、そして


「うおりゃぁ!!」


投げた。


「なっ!?」


 ギズゥは回転しながら猛スピードでこちらに飛んでくる戦斧を目にして一瞬、思考が止まった。しかし、すぐに思考を回復させると手下に向かって叫ぶ。


「よ、よけろ!!」


 そう口にするギズゥはすでに回避行動として左へと飛んでいた。豪快な音を立てて、斧が地面を抉り埋まる。

 キィルから見てギズゥは右に、残りの二人は左へと飛んでよけていた。もっとも、そうさせるためにキィルはギズゥと手下二人の間にわざと戦斧を投げたのだった。

 さすがに直接狙って投げたとしても、それが当たるほど相手は弱くないとキィルは思っていた。だから、投擲の目的はすなわち分断であった。

 キィルは戦斧を投げた後、相手がよけ始める前に、右斜めに向かって走り出していた。そして、今、その先には右へと飛ぶことによって斧を回避したギズゥの姿があった。


「まずは、ボスから相手してもらうぜ」


 キィルが近付いてきているのに気付いたギズゥは表情に怒りを織り交ぜながら、腰から淡い光を放つ剣を引き抜く。


「ガキがっ!!」


 キィルは戦斧を投げたことによって、再び丸腰になっていたが、そんなことは関係ないといった風に全力でギズゥに向かって走っていた。――――いや、正確にはギズゥの若干右方向へと向かっていた。

 まっすぐこちらに走ってこないキィルに微かな疑問を感じながらも、ギズゥはキィルに向かって剣を構えた。

 突然、キィルが何もないところへと手を伸ばした。するとキィルの伸ばした手のすぐ前で、ザクッ、と音がした。


「何!?」


 ギズゥが驚きの声を上げる。音がしたその場所に両手剣が刺さっているのだ。

 その剣にギズゥは見覚えがあった。先程倒された赤茶髪の男が持っていた剣で、交戦中にキィルによって上空へと打ち上げられたものだった。キィルはこの剣の落下地点に向かっていたのだ。

 キィルは素早く上空から舞い降りた両手剣を掴むと、驚きで硬直したギズゥへと斬りかかった。しかし、そこは荒くれ者を束ねるだけのことはあり、ギリギリのところでキィルの斬撃を剣によって防ぐのだった。

 しかし、キィルの剣捌きは見事なもので次々と繰り出される連撃にギズゥは防戦一方となってしまい、徐々に後ろへと下がっていった。

 手下との連携をとるためには、一度態勢を整える必要があると感じたギズゥはキィルのわずかな隙を突いて、大きく後ろへと下がろうとバックステップをする。

 だが、それは中途半端なところで終ってしまった。ギズゥの背中に何かが、ドンッ、と当たったのだ。完全に体勢を崩してしまったギズゥは驚きのあまり、おもわず後ろを振り返った。

 そこには、地面に突き刺さっている戦斧があった。いつの間にかギズゥはキィルにうまく誘導させられていたようだった。自分の胸板に振り下ろされる両手剣を感じ取りながら、ギズゥはきまぐれでこんな田舎村まで小僧一人を追ってきたことを後悔した。






 

 キィルは怒りを感じていた。

 ギズゥはそれなりの実力をもっていたが、斧をよけた後にあわてるだけで命令がなければ、何もやろうとしない手下二人とさっき倒した二人は明らかに実力不足だった。しかし、最初の二人が振り下ろす刃には殺人に対する抵抗が全く感じられなかったのだ。


――無抵抗な人間ばかりを斬ってきたってことか――


「胸糞わりぃ」


 顔をしかめながら、つぶやく。

 地面に刺さったままだった戦斧を右手で掴んで持ち上げ、そのまま構え、左手では両手剣を構えた。本来、どちらも両手でなければ持つことが困難な武器にもかかわらず、キィルは全く気にすることなく、残る敵二人に向かって駆け出す。


「じょ、冗談じゃねぇ! あんなの相手にしてられっか!!」


 その異様な姿に恐怖をおぼえた小柄な男は、村の出口へと逃げだす。もう一人の男もそれに続いた。


「あっ まて!」


 キィルの呼びかけには、振り向きもせずに二人は出口へと走る。

 キィルは後悔した。頭に血が上っていたせいで、武器を二つも持つという相手を威圧する行動をとってしまったのだ。村の外には30人もの敵がまだいるので、このまま30人を相手にしないといけない状況になるのだった。

 急いで二人の後を追いかけるのであったが、あまり足の速くないキィルは追いつきそうになかった。


――しょうがない、やるか…………30人か……キッツイなぁ〜――


 キィルの頭の中に、逃げる、という選択肢はなかった。逃げ出せば、男達がこの村を襲うことを予想しているからだ。

 30人と戦おうと決意を固めていたキィルが、ふと見えてきた村の出口に目をやると、そこには許容できない状況ができそうになっていた。


「っ!? にげろ、シオン!!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ