四章:戦いの前編
短くてすいません。
「まさか、女性一人助けたのがここまで尾を引くとは思わなかったな」
キィルは両手剣を持つ赤茶髪の男と戦斧を担ぐ小太りの男が並んでこちらに歩いてくるのを視線に捉えたまま、わざと前の二人に聞こえるように話した。
「そもそも、いい大人が喧嘩に負けたからって仲間呼んで仕返しにくんなよなぁ、情けない」
小太りの男の方に顔を向けた後に、やや俯き気味に首を横に振りながら、あからさまにハァーと深いため息をつく。キィルのそんな態度に小太りの男が顔を不愉快そうに歪ませる。
「しっぽを巻いて逃げたやつに、情けないなどと言われたくないな」
「さすがに街であんだけの数をぶっ飛ばしたら、問題になると思ったんでな、ここでなら相手してやるぜ?」
キィルは不敵な笑みを浮かべ言い返す。その様子に小太りの男は怒りを露にする。圧倒的不利な状況にいるにもかかわらず、余裕の構えを崩さないキィルに我慢できないようだ。
「得物も持っていないやつが笑わせるな!!」
「持っていないから、おまえ笑えるんだろ? 笑ってねぇけど ……無駄話はもういい、かかってきな!!」
自分の言葉に軽く笑いながら、キィルは手の甲を男に向けてクイクイと指を動かし、誘いをかける。
「余裕こいてんじゃねぇぞ!! 小僧!! てめぇなん――」
「………はやくこいよ、恐いのか?」
その言葉に小太りの男の怒りは頂点に達した。
「うおぉぉぉーーー」
「あっ、おい!」
隣で二人の会話を黙って聞いていた赤茶髪の男の声には反応せずに、小太りの男は戦斧を振り上げながら、キィルに向かって走り出す。キィルはそれに対して微動だにしない。
会話する間も歩き続けていたせいで、短くなっていた二人の距離は、小太りの男が全力で走ることによって、さらに急速で縮んでゆく。
斧の届く範囲に入っても動こうともしないキィルに男が真上から、斧を振り下ろす。
キィルはそれをわずかに体を逸らすだけで難なくかわした。キィルの足元に戦斧の刃が轟音をたてて埋まる。
大きく一歩前に踏み出したキィルは男の懐に入ると、肘鉄を男の鳩尾に突き刺す。
「ガハァッ!?」
「お前、斧に慣れてねぇな、斧が見事にブレてたぜ、斧の重さに力が負けてる証拠だ」
崩れゆく男にそんな言葉を残しながら、キィルは地面に少し埋まったままの状態である、かつての相棒を手にする。
すぐ目の前には、小太りの男が走り出した後、すぐに同じく走り出した赤茶髪の男が剣を下段に構え、斬り上げを繰り出そうとしていた。
「よっ、と」
焦ることなくバックステップでそれをかわしたキィルは、男が振り上がった剣でそのまま斬り下ろしを行おうとしているのを視界に捉えると、もう一度バックステップをしながら体を一回転させ遠心力を戦斧に加えながら、振り下ろされる剣に向かって振り上げた。
振り下ろされる剣と振り上げられる斧が重なる。
ガキンッ、という音とともに剣が赤茶髪の男の手を離れ、上空へと舞い上がる。
「隙ありぃ!」
勢いをあまり殺されなかった斧を、キィルは素早くそのままもう一回転させ、剣を飛ばされて呆然とする男の脇腹へと斜めに振り上げる。その時、器用にも回転の最中に斧も半回転させ、刃の付いていない部分を男の脇腹に当てていた。
赤茶髪の男は悲鳴を上げる暇もないままに、広場の端まで吹っ飛ばされていった。
「死んじゃいねぇだろ、感謝しろよ?」
――これで二人――
キィルは後方で様子を窺っていたギズゥと残る二人に眼を向ける。三人とも、意外過ぎる展開に動揺しているようだった。
「一気に片付ける!!」
そう空に誓うかのようにキィルは清々しい青空を見上げた。