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黒髪の伝説  作者: 百合斗
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三章:戦いの序章

 耳には小鳥の鳴き声が聞こえ、瞼には清々しい青空にある照りつける様な朝日が当たっていた。キィルはその眩しさで目を覚ました。


「ぅん〜〜……こんなに清々しい朝は久しぶりだな〜」


 キィルは背筋を反り返しながら呟く。

 

――ここまで緊張の連続だったからな。……あいつらもさすがにここまではこないだろ――


 シオンとリークという辺境の閉鎖的な村には珍しく、旅人を疎まない村人に出会ったキィルは日が暮れかけていたこともあり、もう一晩リークの家の世話になることにしたのだ。

 リークは一人暮らしのようで、両親は、母親は小さい頃に亡くなっていて、父親については知らないらしい。ただ、リークは母について語る時はやや悲しげに、父について語る時は憎しみを隠しきれない様子で話していたのがキィルには少し気になっていた。

 その後、シオンがリークのいない間に小さな声で


「……リークには両親の――特に父親の話は振らないであげて。リークは父親の事を強く恨んでいて、そのことに関すると感情を抑え切れなくなるようなの」

「へぇ……そうなんだ……」


 本来、好奇心の強いキィルとしては気になる内容であったが、今日会ったばかりのシオン達にあまり立ち入った事を聞くのはさすがに躊躇われたのであった。







「………………」


 キィルは洗面所で顔を洗いながら、昨日の事を思い出していた。


――黒髪の少年リーク――


 キィルは彼の事が少し心に引っ掛かっていた。こんな辺境には似合わないほどの料理の腕の事もそうだが、それ以上に気になったのは彼の髪のことだった。

 黒髪というのはとても珍しいものであった。それゆえに髪を他の色に染めることができる現在では流行っていて、逆に町などではよく見かける珍しいものではなかった。

 リークの髪に気づいた時も、田舎の少年が都会の真似ごとをするという少し微笑ましいだけのことだと思っていたキィルだったのだが、リークが水浴びから戻ってきた時には、驚いた。

 髪染めは水に濡らしてしまうと落ちてしまうのだ。つまり、彼の髪は地毛であるという事だった。

 思わず、髪について聞こうとしたキィルだったが、髪の色は遺伝性なので、髪についての問い掛けは結果的には両親に関する問い掛けだったのでキィルは喉まで出かかっていた言葉をなんとか呑み込むのであった。その態度に疑問を感じたリークであったが、キィルの


「いや、意外と鍛えてあるな、と思ってな……」


 という言葉に納得したようだった。

 



「…………ん?」


 洗面所から出てきたキィルは遠くの方からなにやら喧噪のようなものが聞こえてくるのを感じて、疑問の声を上げる。近くの窓から声の聞こえる方角へ視線を向けると、それは村のある方角だった。村の中心にある広場に人が集まっており、その中の何人かが声の主のようであった。


「せっかくの清々しい朝が台無しになりそうだな」


 目を顰めながら、その主達を睨んでいたキィルであったが、その正体に気付くといきなり声を上げた。


「なっ!? あ、あれは……」








――なんであいつ等がここにいるんだ!――


 キィルは村の広場へと走りながら考えていた。リークに声をかけてから家を出ようとしたキィルだったが、家にリークはいなかった。おそらくは広場に集まっている村人たちの中にいるだろうと思ったキィルは急いで広場に向かっていた。

 広場に着くとそこには、いまだに怒鳴り声を上げている見覚えのある男たちと、それを囲むように集まっている村人たちの困惑と恐怖の顔があった。村人たちは皆、男たちに気を取られていて、誰もキィルの存在には気付いていない。


「もう一度言うぞ!! この村に金髪の旅人の小僧がいるはずだ! おとなしくそいつを明け渡せ、そうすれば俺達は今日のところは黙って帰ってやろう」


 5人組の男たちの中でもひと際図体のでかい男が周りの村人たちを威圧するように声を張り上げる。


「ギズゥの兄貴の言うとおりにした方が身のためだぜ? 村の外にはまだ30人もの仲間がいるんだ。 あまり大勢で押し掛けて騒がれちゃ面倒だからな、こっちはすでに譲歩してるんぜ さぁ、どうすんよ? 村長さん」


 ギズゥと呼ばれた男の隣にいた小柄な男が下卑た笑みを浮かべながら問う。村長と呼ばれた老人が困り切った表情をしながら、男たちの前に立っていた。


「そ、そんなことを言われましても、そんな旅人は存じません。 そもそもこの村では七年前に旅人が流行病を持ってきたことがありまして、それ以来、旅人にはできるだけ関わらないようにと、皆に強く申しつけてあるのです。 で、ですからそれは何かの間違いではないでしょうか?」


 村長の言葉を聞いたキィルは驚きに肩を揺らした。リークとシオンの二人としかノイス村の人間に会っていないキィルは、意外に閉鎖的な村じゃなかったのか、と思い始めていたが、やはり、ノイス村は周囲の村や町での噂通りの閉鎖的な村であるようだった。

 それなのに旅人である自分を助けてくれた二人にキィルは胸を熱くする。そんなキィルの想いとは、反対にギズゥの眼は急速に冷めていった。


「嘘をつくな!! 昨日、隣村で会ったノイス村の奴がこの近くで金髪の旅人が倒れているのを見たと言っていたぞ! だが、そんな奴はいなかった。 つまり、倒れた小僧を運んだ奴がここにいるはずだ! これ以上、はぐらかすなら、こちらにも考えがある。 おい!!」

「へい!!」


 今まで無言だった男たちの一人が、腰に付けていた鞘から剣を引き抜きながら、村長へと近づいて行った。


「!?……ひ、ひぃっ!!」 


 身の危険を感じた村長が悲鳴を上げながら後退る、だが突然の出来事に体がついていけないようだった。剣を手にした男はなんの躊躇いも無しに剣を振り上げた。


「待て!!」


 鋭い声に、剣を振り上げていた男はおもわずその手を止めた。広場にいた全員が声のした方角を見る。そこで初めて村人たちは金髪の青年の存在に気が付いた。


「………やはり、ここにいたようだな、こいつで間違いないな?」


 ギズゥは、いまだに無言だった残る二人の男に視線を向ける。


「はい、そうです。この小僧です。 俺達の邪魔をして恥まで掻かしやがって!! やっと見つけたぞ!」 


 赤茶髪をした男が顔に怒りを浮かべながら話す。


「ヘヘ、たっぷりと仕返ししてやるぞ」 


 戦斧を担いだ小太りの男が続けて話した。キィルはその二人に目をやると驚きの声を上げる。


「あっ!! 俺の斧!!」

「あぁ、これか? 小僧にはもったいない武器だったんでな、俺がもらっといたんだ。感謝しろよ、 はじめての獲物は元持ち主ってのはオツだろ?」


 そう言いながら、見事な輝きを見せる戦斧の刃を撫でる小太りの男。

 赤茶髪の男と戦斧を持った男が前に出る。最初に剣を手にした男は自分の役目が終わったのを察するとギズゥと小柄の男の元に引き下がる。周りの村人たちも今から戦いが起こるのを察して、巻き込まれまいと広場から退散していく。


「ヘヘ、貴様には俺達二人でリベンジできるよう、兄貴に頼んであるんだ。 俺の斧でザックリやりたいからなぁ」

「あんときは、油断しちまったが今度は同じようにはいかないぜ? ぶっ殺してやる」


 二人は残虐な笑みをこぼしながら、キィルに近づいていく。


「こっちは武器も持っていないってのに、何がリベンジだっつうの ったく 」


 そう言いながらも、キィルは逃げる素振りをまったく見せなかった。それどころか、好戦的な笑みすら浮かべながら、二人へと歩きだした。






 今、戦いが始まる。




  

 次回からが、この小説にとっての本番的存在 戦いです。陳腐な戦いにならないように頑張りたいと思います。

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