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黒髪の伝説  作者: 百合斗
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二章:金髪の評価

――まぬけなやつ――


 それが目の前で眠っている青年に対するリークの第一印象だった。

 もしも危なそうな奴だったら、という可能性を考えて、村の中心にあるシオンの家ではなく村のはずれにある自分の家に運んできたリークだったが


「よく考えたら、あんな所で呑気に寝ているような奴に警戒することもなかったかな」


 リークは最初にキィルの姿を見た時に、倒れた原因が単なる眠気であることに気付いていた。シオンは空腹だと言っていたが彼には空腹の人間に漂う独特の悲壮感が感じられなかったのだ。それでも運ぶ、とシオンが言ってきたので運んだのであったが。

 青年の身長は180cm弱くらいで、鍛えてあるのか、なかなかがっしりした身体はそれなりに重かったが、目的のために日々特訓しているリークにとってはここまで運んでくる事はそれほど苦でもなかった。


――仮に危険な奴だったなら、ちょうどいい。 最近は人相手には闘かってなかったからな、腕試しの相手にすればいい――


 リークの頭の中にそんな考えが浮かぶ。負けた時の命の危険性については考えていないことから、なかなかの自信家のようだ。

 リークは家の近くにある倉庫から一振りの木剣を取り出した。青年は武器らしい物は持っていなかったので、おそらく使うことはないだろう、とは思うものの、今の家にはシオンがいるので、万が一があってはいけないのだ。

 リークが家の中に戻ろうとすると、青年の眠っている部屋から、楽しげな話声が聞こえてきた。リークは怪訝に思いながらゆっくりと外から話し声の聞こえる部屋の窓へと近づいて行った。


「そういえば、リークとは誰のことだい?」


 聞いたことのない声だった。おそらくは青年のものだろう、とリークは考えた。その後の会話を聞いていたリークだったが、シオンが部屋から出て行った後に窓から青年の姿が見える位置に移動した。すると、青年が視線に気が付いたのか、こちらに振り返ってきた。

 改めてその顔を見るとなかなかの美青年だった。身体も鍛えられていて、美しいというよりは頼もしいといった方が似合っている。さっきのシオンとの会話を聞く限りでは悪いやつではないようだが、リークにはどうしても腑に落ちない事があった。


――あの料理がうまかっただと!?――


 青年――キィルが食した料理を作ったのはリークだったが、ちょっとした悪戯心から、匂い良し、栄養良し、味最悪、という見事な組み合わせの料理にしていたのだ。シオンはつまみ食いなどはしないから、確実にキィルの口へと運ばれていくと予想していた。現にキィルは確かに食べていた。にもかかわらず、キィルはあれをうまかったという……

 

 リークには知るはずもないことだが、キィルは結構な味音痴なのであった。


――………油断できないやつ――


 リークはキィルに対する評価を改めた。そこで振り返ったキィルが口を開く。


「……お前がリークか?」


 あきらかにシオンと話していた時の口調と違うことにリークは警戒心を高める。


「そうだ」

「で、おれを睨むのはあれか? 大事な妹に悪い虫がつかないようにってやつか?」

「だったら?」


――少し違うが、まぁいい――


  ………………………


 二人の間に剣呑な雰囲気が漂う。





 キィルは突然、真顔を笑顔に変えた。


「心配すんなって!! 俺には心に決めた人がいんだからよ〜」

「……………は?」


 リークは素っ頓狂な声を上げた。

 そんなリークの様子にはお構いなしにキィルは続ける。


「だから、お前の大事な妹を狙ったりしないって言ってんだよ」


 キィルは顔をニッコニッコさせながら言った。

 リークは唖然としていたが、しばらくして、ハァとため息をついた。こんな能天気な奴に真面目になった自分が馬鹿らしくなったのだ。そして、思った事を素直に聞いてみることにした。


「ちょっと質問してもいいか?」

「ん? いいぞ 何でも聞いてくれ♪」


 キィルは何故だか、上機嫌のようだった。


「まず、さっきシオンと話していた時と比べて、口調がやけにくだけてないか?」

「これが地なんだ、俺は女性には丁寧なんだ」


 キィルは胸を張った。


「いや、そんな自慢げに言われても…… てか、親切じゃなくて丁寧?」

「親切にしてんのは男女両方にだ。だが、丁寧な言葉遣いは女性にだけだ。」

「軟派的な奴だな」

「まぁ、別に女性に好感持たれたくてしてるわけじゃないがな」


 キィルは少し遠い目をしながら言った。


「じゃあ、なんでなんだ?」

「それは秘密だ」

「……何でも聞けって、さっき言ったよな?」

「ああ、だが答えるとは言ってないぜ?」


 キィルは皮肉気味な笑みを浮かべる。


「…………次の質問、さっき食った料理の事だが――」


 リークがそこまで言うと、キィルは目の色を変えた。


「あれ作ったの、お前か?」

「あ、あぁ そうだが」


 やはり不味かったか、とリークは肩に力をいれた。が


「お前、すごいな!!」

「…………は?」 


 リークは本日二度目の素っ頓狂な声を上げた。


「あのスープの味付けは神レベルだったぜ!! サラダに掛かっていたドレッシングも絶妙だし、こんな辺境の村にとんだ天才がいたもんだぜ!」


 キィルは早口にそう捲し立てた。


「で、あの料理がどうしたんだ?」


 と、話を戻したキィルにリークはバツが悪そうにしながら

「あぁ〜〜 ……何でもない、感想を聞きたかっただけだ」


リークもキィルが単なる味音痴なだけだということに気付いたようだった。


――すべてが杞憂だったな…………ハァ――


 リークはすこし疲れたようだった。


「あなた達、いつの間に仲良くなったの?」


 キィルが振り向くと、扉の所にシオンが立っていた。顔には嬉しそうな笑みを浮かべていた。


「いやぁ〜、リークの料理の美味しさに惚れ込んだんだよ」


 キィルも満面の笑みを浮かべていた。リークはそんなキィルを無言で見ていました。


――こいつ、面白いやつだな――


 リークはキィルに対するの評価をそう結論付けた。

 

 






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