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黒髪の伝説  作者: 百合斗
13/14

十二章:襲撃後のホリム

 更新遅れて、………すいません

 目の前で地面の中へと沈みゆく家をリークは圧倒される思いで見ていた。

 

「す、すごいな」


 リークの呟きにソフィアは嬉しそうに微笑みながら答えた。


「父が残した魔法の一つで……よ。 地面に含まれる水の量を増やして泥に変えるんで……のよ」


 同年代という事で敬語をやめるように言ったリークにソフィアは同意したもののすぐには直せないようだった。

 その様子にリークは苦笑しながらも、気遣い気に尋ねた。


「でも、よかったのか? 14年間住んだ思い出が詰まっているんだろ、沈めたらもう元には戻せないよな?」

「……うん、でも、もう少ししたら父の魔法が切れて『憩いの森』に掛かっている霧はなくなってしまうの。 父は他人の眼に家が晒されるのはすごく嫌がると思うから、きっとこれでいいのよ」


 ソフィアは少し悲しげに、しかし決意したかのような口振りで話した。


「今日からここは私の家じゃない。 今日からここは父の御墓」


 そう言ってソフィアはもう屋根しか見えていない場所の右隣にある岩に歩きだした。

 その岩には『ロード・ファウゼン』という文字が縦書きに書かれていた。


「お父さん、………お父さんは反対するかもしれないけど、私、世界を見てきます」


 墓石の前に立ち止まり右手で、そっと墓石に触れながらソフィアは呟いた。

 その後ろ姿をリークは複雑そうに見つめていた。


――まさか、家を沈めるとはな……、これはもうソフィアが新しい住み場所を見つけるまでは旅に付き合うか――


 元々3年間は村に戻ることができないリークは自分の言った言葉が招いた事態に最後まで責任を持つことを心に誓うのだった。









「…………もういいのか?」


 リークが尋ねた。


「うん、ごめんなさいね、少し緊張してるみたい」


 『憩いの森』を出たリークとソフィアはホリムの街に魔物の襲撃はどうなったのかを聞くために入ろうとしたのだったが、街の入口でソフィアが深呼吸を始めたので、リークはそれが終わるのを黙って待っていたのだ。

 と、そこでソフィアは街の方を向いて身を固くした。

 それに気付いたリークが街の方を振り向くとそこには歩いてくる騎士の姿があった。


「あれは確か、広場であった騎士か?」


 その騎士はリークが広場を防衛していた時に、リークに話しかけてきた残留騎士隊の隊長だった。


「君は広場で会ったリーク君じゃないか、今までどこに行っていたんだ? 探していたんだぞ」

「まぁ、色々ありまして……どうして俺を探していたんですか?」

「キィル君が王都へと連行されるので、君も同行させるためだよ。 もうキィル君を乗せた馬車は出発してしまったがね」


 騎士隊長は、やれやれと言いたげに頭を振りながら答えた。  


「王都に連行? 一体どうして?」

「詳しくは知らないが、魔人は王都へと連行せよとの命令らしい」


 王都へと連行と聞いてリークは自分を指差した。


「ということは、俺も連行するのか」

「なぜ、君を連行しないといけないのだ?」


 騎士隊長は意味が分からないといった様子で眉を顰めた。


「あれ、俺も魔人だと教えたはずだけど」


 それを聞いた騎士隊長は、ハッと鼻で笑った。


「あのような冗談、真に受けるわけがないだろう。 あの後、どこかの片隅で膝でも抱いて震えていたのであろう。 広場で大人しくしていればいいものを無理に格好を付けおって」


 あからさまに侮蔑の視線をリークに向けながら騎士隊長は話した。

 その態度にリークは憤りを覚えながらも、連行されないならそれでいいと思い、キィルとの同行を拒否してさっさとこの場を離れようとした。が


「今の言葉を取り消してください」

 

 そこでソフィアの、怒りの感情を含んだ声が静かに響いた。

 いきなりの言葉に驚きながらも、それ以上にソフィアが怒っている事にリークは驚いて振り返った。

 振り返ったリークの眼に映ったのは、少し目を潤わせながらも眉を吊り上げ、精いっぱいの怒りの表情を作っているソフィアの姿であった。

 騎士隊長も突然の声に驚いたのか唖然としている。


「リークさんはこの街を守るために命の危険まで冒して戦いました。 なのに、話も聞かないでリークさんの事を馬鹿にして鼻で笑うなんて酷過ぎます。 今の言葉を取り消してリークさんに謝ってください」


 リークもソフィアの言葉を茫然としながら聞いていたが、ハッと我に返ると慌ててソフィアの手を掴んで、街の中へと歩き出した。その際、騎士隊長に誤魔化すように


「気にしないでくださいな。ちょっと見栄張って嘘教えちゃっただけですから〜」


 と、いつもと微妙に違う口調で話していた。

 去っていくリーク達の後ろ姿を騎士隊長は唖然とした表情で一言つぶやきながら見送っていた。


「……な、なんと可愛い少女なんだ………」












「な、何で止めたんですか? あの人の言っている事は間違っています。訂正させないと」


 リークに手を握られて引っ張られているソフィアは顔を真っ赤にさせながらリークに抗議した。


「俺は気にしてないから、別にどうでもいいんだよ。それに訂正させようにも俺が魔物と戦った証がないから信じないだろうし」


 リークはソフィアの顔色を気にした様子もなく、ただ宥める様な口調で話した。


「それでも間違っている事は伝えるべきだと思います」

「もう敬語全開だな、敬語じゃなくていいって言ってるのに」

「ご、ごまかさないで下さ………ごまかさないでよ」

 苦笑いを浮かべながら歩みを止めたリークは掴んでいた手を放し、振り返ってソフィアに顔を向けた。


「俺が魔人ってバレたらさ、王都に連行させてしまうからそれは避けたいんだよ。王都には自分の意志で入りたいからさ」


 リークの言葉にソフィアは仕方なく納得したように頷いた。


「……わかったわ。リークの都合が悪いんだったら、私は何も言わない」

「ありがとう」


 納得してくれたソフィアにリークは軽い笑みを浮かべながら礼を言った。その笑みを見たソフィアは元の透き通りそうなほどの白へと戻りそうになっていた顔色を再び真っ赤にさせて呟く。


「な、なんでリークがお礼をいうのよ………」


 リークはソフィアの様子に気付いていたが、それはまだ父親以外の人間という存在に慣れていないせいだろうと思っていた。

 それにどんな美少女だろうと、やはりリークにとって最優先すべき事は黒神将の事であった。


「さて、じゃあこの話は終わりだな。俺の連れのキィルが王都に連れてかれたみたいだし、街も落ち着いたようだし、買い物を済ませたら王都に向かうとしよう」














「やばい、見失った」


 リークは苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

 大通りに向かった二人は旅に必要な物を買った後、リークの新しい武器を探すために武器屋へと入った。リークとしてはそれほど時間を掛けるつもりはなかったのだが、先日武器が原因で死にかけたことを思い、無意識のうちに念入りに武器探しをしていた。

 その間、最初は色々ある武器を興味深く見ていたソフィアであったが飽きてしまったのか、

リークに向かいの露店を見てくると伝えて武器屋を出て行ってしまった。

 しまった、と思ったリークは予め目を付けていた背中に背負うタイプである片刃の大剣を購入すると、足早に武器屋を出て、向かいの露店へと向かった。が、そこにはソフィアの姿がなかった。


「くそっ、俺は何をしてるんだ!」


 リークは苛立ち気に自分を罵りながらも、足を止めることなくソフィアを探していた。

 ソフィアが武器屋を出てからあまり時間経過していなかったので、まだ近くにいると考えたリークは武器屋の近辺を捜し回った。すると


「リークさんじゃないですか、どうしたんです?」


 後ろからの声にリークが振り向くと以前広場で助けた少女が立っていた。


「君か、ちょうどいい、この辺りでローブ姿の金髪の少女をを見なかったか?」


 リークの質問に少女は、眼を深く閉じて腕を組み思い出そうとする構えをとっていたが、ふと思い出したように眼を開けた。


「そういえばさっき、リークさんの後に広場を守ってくれた騎士隊長さん達がそんな容姿をした女の子を連れていましたね」


 少女の答えにリークは目を見開いた。


「なにっ!? どこに行ったか、分かるか?」

「たぶん、騎士団の詰め所だと思いますよ。あれです」


 少女は大通りに並ぶ商店の中に混じる一際大きめの建物を指差した。


「あれか、ありがとう」


 リークは少女の指差した建物に顔を向けると少女に礼を言って駆け出した。


「いえ、こちらこそ、街を守ってくれてありがとうございました」


 駆けるリークの後ろ姿に礼を返す少女にリークは軽く手を振って応えた。


「……なにもなければいいけど……」


 リークの只事ではない様子に少女は心配する視線をリークの背中に送っていた。





 


 

 

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