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黒髪の伝説  作者: 百合斗
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九章:中継地点のムツルト

 レフォルア王国最西の街ムツルト

 街といってもそれは規模が大きいだけで、流通などはそれほど盛んではなかった。

 レフォルア王国は大陸の端にあり、隣国との外交もあまり積極的ではなかったため王都ですら、あまり流通が盛んではなく他の国々からもあまり注目はされていない田舎的な国であった。

 14年前までは









「無事、街に着いたことだし、宿に泊まるとするか」


 初めて街に入って田舎者丸出しで彼方此方を見回るリークにキィルは苦笑しながら提案する。

 ノイス村を出たときには傾きかけていた太陽が、今は姿の半分を隠してムツルトの街を茜色に染めていた。


「宿がどこにあるのか分かるか?」


 ほんの少し輝いている黒き瞳をキィルに向けてリークは尋ねた。

 キィルは意味あり気に微笑んだ。


「あぁ、俺はノイス村に行く前にこの街で一泊していたからな」


 リークに明日、街を案内すると約束することで落ち着かせたキィルは宿へと向かった。

 キィルに案内されたそこは一階には酒場も営んでる、老舗というには新しく、新築というには古い、少し寂れた雰囲気漂う木製二階建の宿だった。

 二人が宿の中に入ると、酒場で酒を飲んでいた男達が視線を向けてきた。見知らぬ黒髪の少年の姿に一同訝しげな表情を浮かべたが、隣に立つ金髪の青年に気付くと酒場にどよめきが走った。


「キ、キィル!?」

「おまえ、無事だったのか!?」


 十数人いる男達の中には思わず立ち上がり座っていた椅子を倒してしまう者もいた。

 騒ぎを聞きつけて酒場のカウンターの奥から女性店員が現れ、騒ぎの中心であるキィルに気付いて目を丸くした。


「よっ」


 そんな彼らにキィルは片手を上げて気軽に挨拶をした。

 リークは男達や女性店員の反応に眉を顰めたが、キィルと彼らの会話を聞いていて納得の表情をした。

 

 キィルはこの宿に数日泊まっていて、親しくなった女性店員の、ムツルトの東にある街ホリムへの用事に同行したところ、女性店員が二人組の男に手荒なナンパを受けたので、それを止めたキィルが後日、大勢の男達に追われる事となったのだった。


 手荒なナンパから始まった事件の結末を彼らに語るとキィルはリークを連れて2階へと上がった。宿代は迷惑を掛けたお詫びとして無料にしてくれることとなった。


「おぉ〜、俺の荷物よ、無事だったか〜」


 自分の部屋に入ってベットの横に置いてある身の丈程もある荷袋に抱きつくキィル。そんなキィルがいる部屋へ、隣の部屋に荷物を置いてきたリークがノックをして入ってきた。


「そんなに大事な物が入っているのか?」

「俺の旅の集大成が入っているんだ、大事に決まってるだろ」


 キィルは荷袋を開いて、何か足りない物はないか確認しながら答えた。そこでリークは自分の旅の目的は伝えたが、キィルの旅の目的をまだ聞いていなかった事に気付いて、キィルの旅の目的は何なのかを尋ねた。


「ん〜、今はリークの旅を優先させていいぜ、俺だって責任感じてるからな、だから気にしなくていい」

「なんだよ、気になるな」

「気にすんな、気にすんな」


 何度聞いても口を割ろうとしないキィルに、何か言えない事情があるのだろう、と感じ取ったリークは追及をやめた。


「何でもいいけど、手伝えることがあったら言えよ? 手伝ってやるからな」


 リークは真剣な眼で真っ直ぐにキィルを見つめて言った。

 キィルは苦笑しながら、


「わかったよ、……お前のそういうまっすぐなところ、好きだぜ?」


 と真摯な顔で答えた。リークは一瞬目を丸くした後、茶化すなよ、と照れ隠しに顔をそむけた。

 リークの態度にキィルは真摯な顔をにやけた顔に変えた。


「おいおい、なに照れてんだよ、女性に興味がないって言ってたし、お前まさか同性愛主義者か?」

「なっ!? ち、違う!! 女性に興味がないわけじゃない、今はもっと大事なことがあるだけだ!!」

「残念だったな〜、俺には心に決めた人が」

「人の話を聞け!!」


 下にある酒場から食事の誘いの声が聞こえるまでキィルのからかいは続いた。













 日が完全に沈み、代わりに少し欠けた月が真上でムツルトを照らす頃、キィルは一人、両手を頭の後ろで組んでベットに横たわりながら物思いに耽っていた。


――あいつは両親がいない悲しみを父親に対する憎しみに変えることによって耐えてきたのか、………それが結果的に村で孤立することになったとしても………――


 リークの父親に対する憎しみはかなりのものだった。

 本人は殺しはしないと言っていたが、実際に父親を前にした時、荒れ狂う感情のままに斬りかからないとも言い切れなかった。それほど、父親に関して話す時のリークは殺気立っていたのだ。

 もし、シオンという存在がいなかったならリークは村で完全に孤立し、人の優しさに触れることなく育ち、堂々と父親殺しを宣言していたかもしれない。


――…………でも、なんか違和感があるんだよな〜――


 そんなリークとキィルの部屋での会話や酒場で食事をした時のリークはまるで別人のようだとキィルは捉えていた。

 普段のリークからは復讐者特有の張り詰めた雰囲気が全く感じ取れなかった。だからこそ、キィルはリークの旅の目的が復讐だと聞いた時にあれ程動揺していたのだった。


「なにかあるのか? リーク、お前にはなにか秘密が……」


 あまり難しいことは考えないキィルが珍しく難しいことを考えた夜だった。












 翌日、リークを朝早くから適当に街を案内したキィルはムツルトから王都へと続く道中にあるレフォルア王国西方最大の街ホリムに向かうことにした。


「じゃ、世話になったな」

「お世話になりました」


 二人は宿の女性店員に別れを告げてムツルトを旅立った。






「ホリムに武器屋ってあるか?」

「確かあったはずだが、武器、買うのか?」

「あぁ、これじゃあ心許ないからな」


 リークは背中に巻き付けている布で覆われた両手剣を親指で指差した。

 その両手剣はノイス村を襲った男達が持っていた武器のひとつだった。男達が持っていた他の武器は男達を連行しに来た警備隊が押収していったが、この両手剣だけはその時、まだキィルが持っていたため押収されなかったのだ。

 キィルは武器といえる物を木剣しか持っていなかったリークにそれを渡したのだった。


「ホリムっていえば、注意点が一つあるな」


 キィルはそう言ってホリムの街があるであろう方向を人差し指で指差した。


「このまま真っ直ぐに歩いて行くとでかい森にぶちあたる。 『憩いの森』っていうんだがホリムはその森に隣接していてちょうど反対側にホリムがある。 だから、ぐるっと迂回する必要がある」


 リークはその言葉に首を傾げた。


「何でだ? 憩いっていうくらいだから危険なはずないだろう?」

「14年前まではそうだったんだが、どうやら流れの男魔法師が住み着いたらしくてな、森の奥に入ると深い霧が発生して侵入者を追い出すそうなんだ」


 リークは、なるほど、と納得した。

 






 このとき、リークは迂回すれば『憩いの森』など関係ないと思っていた。

 自分には関わりのないことだと思っていた。







 

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