第1章―8 唐突な帰還
「う……!?がはっ、ぶはぁはぁ??」
暗闇の視界からだんだんと光が差し込む。
手、足、先ほどまで薄れかかっていた感覚が戻っていく。
カイトは体の自由が効かず苦しさを覚え、もがく。どこが上か下かもここがどこなのかもわから無い。ただ生き残ろうと――。
感覚が戻り冷たい液体の中にいるのが分かる。視界がぼやけ全体が青く仄かに光が差し込む。
――お、俺は、死んだ……はず??
ザバァァーン
カイトの耳に音が入る。それと同時にカイトに影が近づく。
再び意識が消える寸前、それに抱きかかえられる感覚を覚えた。
☆
「はっ!???はぁはぁはぁ……」
目の前に広がるのは見知った天井だ。見知ったと言っても一度か二度見た程度だ。
辺りを見回すと、白いカーテンで囲まれており。自身はフカフカの感覚を感じ、ベットの上であると悟る。
久々の感覚で懐かしむ。
だが、問題はここがどこかだ。
――まさか、アレシアが助けてくれたのか??
異世界―それは今の現代医療では再起不可能の部分を完治する能力があるのかと期待する。
「アレシアー!」
カイトは声を上げ女性の名を呼ぶ。
この部屋は狭いらしく隅々まで声が響く。
それに反応するかのように足音が近づき、カーテンにシルエットを写す。
だか、それは見知らぬシルエットだ。確かに異世界に来て知り合った人物は少ないが……。
「やっと起きたようね。どうしたの?いきなり声を上げて。びっくりしたわよー」
カイトの予想とは大きく違っていた。異世界では知り合いは少ないと言ったが知っている人物だ。
――な、なんでここに保健室の先生が?!
カイトはベットを飛び降りるや否やカーテンをくぐり外に出る。
「ちょっ、まだ安静にしなくちゃ!」
カイトは女性の警告を無視して飛び出す。
そこには薬品や簡易的な医療道具、全て一度は見たことある光景だ。
――まさか、保健室??
ドアのところに進みドアを開ける。
だか、やはり知っている廊下が広がるばかりだ。
「ほんとどうしちゃったの??大丈夫??」
カイトはひどく混乱した頭を整理しようとする。
――まさか、現実世界に戻ったのか??
「えー無視??先生を無視するの??」
呆気にとられた状態のカイトに問いかけが行われる。しかし、それに答えれるほど冷静ではいられ無い。
「えっ?ああ??」
「もー、自分に何があったか覚えてるの??」
「お、俺は……」
「ふざけてて溺れたんでしょう??まだ、意識があったからベットでずっと寝てたのよー」
カイトには理解でき無い。先ほどまで溺れていた??先ほどはまでは死んでもおかしく無い状態だった。何よりもあの時の痛みが蘇ると吐き気を催す。
「うげぇえええ……」
だか嘔吐物は出ず苦い胃液が上がり苦味を感じる。
「本当に大丈夫??病院行こうか??」
「ああーいや、大丈夫です……」
表情は青ざめどこから見ても悪い。だか、体に違和感はない。いつもと変わることのない姿だ。
「今日はもう家に帰って休みなさい。親を呼ぼうか??」
「あ、いえ、大丈夫です…ありがとうございました」
そう言ってカイトは部屋を出ようとする。しかし、女性に呼び止められる。
「ちょっとーバックを置いて帰るつもり??」
バック……学校のカバンだ。カイトでの感覚的には4、5日ぶりでバックを持ってきていたことさえ忘れる。既に荷物がまとめられクラスの誰かが用意してくれていたのだ。
時間は五時をすぎ、部活生の掛け声と吹奏楽部の音色が遠くから聞こえるばかりだ。
「あー、忘れてました。じゃぁ、ありがとうございました。」
「寄り道せずに家に帰るのよー!今日は安静にするのよ!」
カイトは一礼をしドアを閉めた。
保健室の先生からは寄り道しないようにと言われたがここを確かめないわけにはいかない。
階段を渡り、廊下を通り、教室を見回る。そこはやはりカイトが通っている学校だ。あたりの風景も変わりなく実在する。
学校の校門を通り自分の家を目指す。すれ違う人々はなんてない自分と同じ姿の人で亜人もいない。
家に帰る前に何ヶ所か寄り道をするがやはり変わりはなくいつもと変わらず立っている。
――やっぱり、ここは現実世界……。戻ってきたのか……。
カイトは自分の家の前に着くとドアに近づく。開けるのを少し戸惑うがドアを開き中に入る。
「ただいま」
「あら!おかえり〜」
母だ。全く変わるところなく接する。しかし、慌てた様子で駆け寄り珍しく玄関まで来る。
「学校から電話があったわよ!今日水泳で暴れたんだってね??大丈夫だったの??」
「あー、うん、なんともなかったよ!」
「そう…、それなら大丈夫やね!海斗泳げたはずよね??どうせまたふざけてたんでしょ〜」
「ははは……ま、まあ、そんな感じかなー」
海斗は目線をそらす。
母とのいつもの会話で安心感を得る。
まるで異世界に行ってたかなんて忘れてしまうほど。
「まあ、もうすぐ夜ご飯だから準備手伝いなさい!」
「は、はーい」
海斗はそう返事をすると、靴を脱ぎ部屋で着替えを終えると台所にかけて行った。
「いや〜、やっぱり久しぶり食べる家の飯はうまいな!」
海斗は食事を終え自分の部屋に戻ると、誰かと話すように独り言を呟く。
部屋も変わった様子はなく、いつものようにベットに寝転び携帯を片手にいじくる。
「久しぶりのベットの感覚……、久しぶり??」
海斗はふと疑問に思う。異世界に行く前の思い出はプールだ。そして、戻ってきた時もプールにいた。
海斗はスマートフォンで日付を確認する……。
「ー!!日付が変わってねぇ……」
確かに異世界では4、5日間過ごした。
だか、現実世界に帰ると異世界に行った日から1日すら立っていないのだ。
――どうゆうことだっ……そうだ!水着!初めて異世界に行った時に一緒にあったはずだ!
異世界に一緒に行ったということは今のここにないはずだ。異世界での最後の禍々しい思い出の時には持参していなかった。それに、異世界で手に持っていたものも1つもないのだ。
部屋のタンスをあさくる。だが見つかることはない。だが、1つ思い当たる場所がある。カバンだ。
今日持って帰ってきたカバンの中身を覗く。最後に見たのは5日前くらいなので中身など覚えていない。しかも、あんなことがあった後では。
――っ!水着がある……
それは少し湿り気が残る水着だ。あからさまに今日使った証拠だ。
ますます分からなくなる。異世界に置いてきた水着は今ここに実在する。
「もしかして、夢オチてっやつか??」
確かに水着もあれば異世界からの手土産も無い。それに時間も経っているわけでもなく何しろ知っているのは自分だけだ。実際に行ったという証明ができない。
「確かに今日溺れてた。その時におこった簡単な走馬灯みたいなもんか??てか、簡単な走馬灯ってなんだよ。そもそも見たこともないし。死んだわけじゃないし……」
最後の言葉に詰まる。異世界での最後の思い出は想像絶するほどの苦痛だ。今でも思い出すだけで……。
だか、死んだわけでもなく。今ここで普通に生活している。
「それか、保健室でずっと夢を見ていたかな??」
夢と語れるほど短くはない。それにはっきりとも覚えている。たが、証拠がない。
「もう、わっけわかんねー」
海斗は頭をかきむしり、携帯をほっぽり出す。携帯が地面でバウンドし机に激突する。
その後に気になり体を起こし確認するが再び横たわる。
「今日はもう寝るか、疲れてるようだし」
海斗は部屋の電気を消し布団をかぶる。久しぶりのふかふかのベットは居心地が良い。久しぶりかどうかは謎だが。
そうして部屋は静まり帰り窓からは月明かりが差し込む。