第1章―7 ループの中で その3
「あれ?カイト……??」
アレシアの目の前からカイトが消えた。
しかも、森の様子も先ほどと少し変わった様子が感じられる。
突然茂みが激しく揺れる音をアレシアは聞き入れる。
「うおおおおぉぉぉおおおおおお!」
突然大柄の男が雄叫びをあげ飛び出しき、右手に持っている棍棒をアレシアめがけて振り下ろした。
振り下ろされた棍棒は地面にクレーターをつくり、それをアレシアは間一髪でかわす。
「ほぉ〜、やるじゃねぇーか、じょーちゃん」
大柄の男は約2メートルくらいの身長で、太い眉をもち鬼のような形相だ。ボタンが外れ前が開いたシャツを着ていて短パンだ。どう見ても戦闘向きの服装ではない。防御力は皆無に近い。しかし、両手には160センチはあらんばかりの棍棒を持ち合わせている。
「いきなり何するんだよぉー!」
アレシアは起き上がり体制を整えると同時にナイフを抜き取る。
「そのナイフで俺と戦おうてっいうのかいー?やめといた方がいいぜー、苦しんで死んでも恨むなよ〜」
勝つ気満々の男だ。男はそう言うと棍棒を軽々しく回し戦闘体制を整えた。
2人とも戦闘体制に入り戦慄が走る。
はじめに動き出したのは意外にもアレシアの方だった。
アレシアは己の足をバネにし巨漢の男に飛びかかる。
両手に構えたナイフを男に向け首めがけて一直線に進む。
男は構えていた棍棒を横に振りアレシアを弾き飛ばそうとする。しかし、アレシアは縫って入るように横に振られる棍棒に手を置き軽々しく回避。だが、もう一方の下から振り上げられた棍棒に空高く打ち上げられる。
アレシアは空中で体をひねり地面に着地した。棍棒が当たった衝撃をナイフで受け止めた瞬間に腕を引き威力を殺していたのだ。
「今のはまぐれじゃねーよなー。なかなか、強いな。まあ、俺ほどじゃないがな」
なんと傲慢な男だ。しかし、実力認めざるおえない。
だか、アレシアも息を切らしている様子もない。
次は男の方が猛烈な突進で接近する。
男のスピードはアレシアほどではないが100キロはある棍棒をまるで棒切れを振り回すように扱う。
たが、アレシアも負けていない。男の棍棒を振り回す速度に追いつき紙一重でかわし攻撃の機会をうかがう。
男の攻撃は地面をえぐり木々をなぎ倒し、森中に破壊をばらまいた。
「うらぁぁぁあああああ!」
棍棒を二本地面に振り下ろし、土をばらまく。砂埃が起こり、アレシアの視界から男が消えた。
次の瞬間、アレシアの左脇腹に鈍い痛みが走る。
そう、大男は砂埃に便乗し、瞬時にアレシアの背後に回り込んでいたのだ。
男の振った棍棒はアレシアにヒットしアレシアを森のかなたに吹き飛ばした。
女性に対してなんと無慈悲な一撃だ。
アレシアは木々の間を抜け先の木にぶつかり威力が無くなり、そこに倒れこむ。
しかし、アレシアはすぐに立ち上がるや否や男の方に向かう。
「はっはっはっ、今の一撃を受けて立ち上がってくるとわな!お前の名前はなんだ、そんな強い奴がいたって覚えといてやるよ」
「名前は聞いた方から名乗るものでしょぉ」
「ふっん、まあ、そーだな、俺の名前はダン・ガストールだ。死ぬ前に覚えていってくれよな」
「面白くない冗談なことぉ、僕も教えてあげるぅ、僕の名前はねぇ……アレシア。死人なら教えてあげるぅ」
「はっはっ…、威勢はいいな!さっきの一撃を耐えれたのはお前のオーダーの能力だろ。なんの能力は知らないがどうでもいい。俺の方が強いからなぁ!!」
「じゃぁ、死人の君には僕の能力を堪能させてあげる。」
「調子にのんじゃぁねぇ!!!」
それを聞いたダンは棍棒を振り回し大回転を見せる。その大回転によってなぎ倒された何百キロかはある大木を軽々しく片手で持ち上げダーツを投げる感覚で放つ。
「おらぁぁああ!」
アレシアはそれらを軽々くぐり抜けダンの目の前まで近寄る。
それを予想していたかのようにダンは両手の棍棒を後ろまで引く。アレシアがその間合いに入るや否や棍棒をぶつけ合いアレシアを両方向がら叩き潰そうとする。
棍棒同士がぶつかった瞬間破裂音が鳴り響く。
しかし、アレシアは潰れておらずダンの棍棒の上に立っていた。
「な、なにぃぃ??」
「君はぁもう終わりだねぇ……」
アレシアは棍棒を踏み台にダンの頭上をアクロバティックに全中し背後に回り込む。
アレシアがナイフを投げる動作をした瞬間ダンの背中には無数の刺し傷が残る。
「がはっ‼︎」
ダンは膝をつく。背中に無数のナイフで刺された感覚が残る。しかし、背中にはナイフの実体が無く数だけが残るばかりだ。
「これがお前のオーダーかぁああ!」
「さあねぇ?」
アレシアは不適な笑みを浮かべ再びナイフを投げる動作をする。
ここで初めてダンは気がつく。アレシアが投げる動作をした後に無数の空気の歪みがこちらへ向かってきているのだ。
「クソがぁぁ!!おらぁぁああ!」
空気の歪みが限界まで近くまでまち、己の棍棒を振り回し空気の歪みをかき消す。
しかし、見えないものを全部回避するのは困難なことだ。足や肩などを擦って行き切り傷を残す。
だが、
「見えないものばり相手にしてちゃー見えるものも疎かになっちゃうねぇー」
アレシアが通りすがりに耳元で呟く。
すると、太い大木のような腕が棍棒ごと地面に落ちる。
「がぁぁああああっ!くそっ、腕がぁああ」
腕が落ちそこからおびただしい量の血を流す。ダンは己の筋肉だけで血管を締め止血をする。
だが、アレシアはダンに反撃の隙を与えない。
「次こそ僕の能力を堪能させてあげるぅ」
そう言うとアレシアは右手をあげる。すると無数の空気の歪みが出現する。それは先ほどの倍の量はある。
アレシアは手を右に振り下ろした。それが発射合図だ。無数の歪みはダンに向かって一直線に進む
「うがぁぁあああ!」
残った片腕で棍棒を握り精一杯の体制を整えると、棍棒を振り回す。
だが、その行為は虚しくも無意味だ。この量を片腕でなんとかできる量ではない。右肩、右腕、左胸、下腹部、左太もも……次々に空気の歪みはダンを削り取る。
「すごいすごい〜これでもまだ立ってるんだねぇ」
巨漢な男の体は削られ今はボロ切れの布のようだ。
アレシアはダンのそばに歩みよる。
「お、お前はなんだ……、そ、その能力…がはっ……」
口からはドス黒い赤を流す。
なんとタフな男だ。これまでになってもなお話す気力があるとは―。
「最後だから教えてあげるぅ、僕は空気をちょちょっといじってるだけだよぉ〜それじゃぁ、ばいばいぃ〜〜」
そう言うとアレシアは手に握ったナイフでダンの肩から振り下ろしアジの開きのように切り裂いた。
傷口からは腹圧に垂れられなくなった内臓が飛び出すと同時に前に倒れこむ。そこには血の池ができるぐらい流れる。
「でも、君はぁループを作っているオーダーじゃないようだねぇ」
アレシアはそう呟くと辺りを見渡す。しかし、人の影も気配も感じられない。
「んー、久しぶりにしてみるかぁ」
アレシアは右手で左手も握り手を開くと体の前に出した。
すると、空気がピタッととまり、辺りは静まり返った。だか、途端に空気が流れ始める。それは不自然に流れまるで蛇が這い回るように流れる。
アレシア何かを察知したかのようにその方向を向きナイフを投げる。
流石はアレシア。ナイフの扱いは一級ものだ。ナイフは狂いもなく先端を先に木の中に刺さる。
木の上から影が落ちてくる。それを目につけアレシアは瞬時に駆け寄る。
「君がぁ、ルーブの犯人だねぇ?そんなところに隠れてぇ」
落ちてきたのは女性、いや、女の子だ。フードを深くかぶっており森林と混ざれるように迷彩柄のような柄だ。まだ年は15歳くらいでこの子がルーブを作っていたとは嘘のように思える容姿だ。
「は、話が……ちが……うぅぅ」
少女は腕に刺さったナイフを抜こうと試みる。しかし、激痛で触るのにも精一杯だ。
アレシアは非常にも刺さったナイフを押しこむ。
「いやぁぁああああ!」
「早く能力を解除しないともう1つ綺麗な肌に穴が開いちゃうよぉ、それと解除したら逃がしてあげるよぉ」
「か、解除するからやめてくださぃぃぃいい」
少女は泣きわめき、ついには失禁してしまう。
「―シアぁぁあー!返事をしてくれぇぇー!」
カイトの声が遠くで聞こえる。少女は本当に能力を解除していたのだ。
アレシアは少女のナイフをすっと引き抜く。
「ひぃぃぃいい」
「ほぉら、逃げていいよぉ」
少女はよろよろと立ち上がると敵に背を向け一目散に逃げ出す。
少女は後ろを振り向かずただただ前だけを見て森を突き進む。
それを見たアレシアは刃だけのナイフを取り出す。
「僕の能力じゃ届かないかぁ、仕方ないけどこれを使おぉ」
アレシアは少女のの逃げた先にナイフの刃を投げ入れる。
それは無慈悲な攻撃だ。なんたる残虐。
「逃げてはいいって言ったけど殺さないとは言ってないもんねぇ」
アレシアは口の端をあげニタァと微笑む
☆
――なんだ??森の様子が変わったぞ??
カイトは1人取り残されたままだった。
先ほどまでルーブの恥だった場所に手を伸ばす。しかし、何も起こらない。
「ルーブが消えてる?!まさか、アレシアのおかげか??」
「アレシアぁぁーー、返事をしてくれぇぇぇー!!」
カイトは森に響き渡るよう声を張る。
しかし、返事はない。
「くっそ!ルーブが解けたってのに、アレシアが見つからない……」
だが、その心配もかき消された。
「カイトぉー!」
アレシアが森の中から抜け出してくる。
アレシアは何事もなかったような澄ました顔で―、
「何があったんだ??ル、ルーブは??」
「はっはっは、なんかぁ、僕だけルーブの外に出されたらしく、ルーブの犯人を見つけてナイフで脅したら逃げていったよぉ〜」
「そ、そうなのかぁ、アレシア、ありがとう」
カイトは手を前に出す。
アレシアはじっとしていたためカイトはアジアの右手を握り縦に振った。
「ふふ、カイトと握手するのは2回目だねぇ」
「そうだった……っ!!」
言葉が途中で止まる。カイトの目には信じられないものが目に入る。それは傷まみれの巨体で右手には自分くらいある棍棒を持った男がすごいスピードで突っ込んできていた。
その男は白目をむいており、血の量が痛々しさを物語っていた。だか、最後の力を無理絞ったように棍棒を引きその反動で体のあちこちでギシギシ悲鳴をあげる。
「危ない!!!アレシアぁぁぁああ!!」
カイトはアレシアの体を突き飛ばす。
その瞬間巨漢の男が溜めた渾身の一撃がカイトに炸裂する。
アレシアにはこんな攻撃避けるのも訳ない。
だか、カイトはそれを知らないのだ。ただ目の前の女性を守るために体が自然と動いたのだ。
カイトはあるがまま吹き飛ばされ森の先に消えていく。
木に激突しその場に倒れこむ。カイトはそこから立ち上がると体力も耐久も持ち備えていない。
――痛い、痛い、痛い、痛い、あああああっ、、
カイトは左腕ことあばらまで骨を木っ端微塵にされ、傷口からは破裂した内臓から血を流す。いわば内臓のスクランブルエッグ状態だ。
アレシアが駆け寄る頃には既に虫の息だ。
――あああ、お、俺はここで死ぬのかぁ……まだ、異世界にきたばっかしなのになぁ、い、痛みがぁ……寒い……、体に力も入ら無い……、まだ、し、死にたくない……あ、あああ
意識が痛みや感覚とともに遠のいていく。残るのは寒さだけだ。
「が、うっ、あぁ………ま、まだ」
カイトは声にならぬ声をあげる。カイトの体は見るに耐え無い状態だ。しかし、それをカイトは知るすべがない。
「カイトぉ!!カイトぉ!!まだ、死んじゃダメ!!ここじゃ……」
だんだんと耳も遠くなり、視界が暗くなってくる。
だらしなく垂れた腕をなんとかしてアレシアの元まで上げようとする。だか、上がったかどうかも自分ではわから無い。
――ア、アレシア……
そして、ついにはカイトの視界は暗闇に沈んでいく。