第1章―6 ループの中で その2
――ループ範囲が狭まってきている……。考えが甘かったっ、命は狙われてないなんて言ったけど、このまま狭まり続けたらどうなる―、
問題解決どころかさらに大きな問題にぶつかる。このまま狭まるとどうなるか―、それは2人には分からない。
「ねぇ、今もだんだん狭まってるってことは今のこの状況まずくない??」
今はカイトとアレシア先ほど再開した場所に固まっているのだ。
――まずい―ここに固まってたらループの範囲が縮み放題だ――。
ループが縮まるにはループの中をループ外に出す必要がある。ループの端に人がいたならば人ごとループの外に出てしまう。そうなれば閉じ込めることができなくなるのだ。
「アレシア!互いが見える位置まで離れようー!」
「そのつもりぃ!」
アレシアとカイトの付き合いはあって数日だが今、意思疎通したかのような無駄のない動きだ。
「くそっ、ループを抜け出すより前に今を維持するのでさえいっぱいいっぱいじゃ無いか」
カイトは奥歯を食いしばり、怒りの表情をあらわにした。
怒り――これは自分が余りにも無力であることに対しての怒りだ。
この気持ちはカイトにしかわからない。
異世界、オーダー、ループ、などなど新しい情報がここ数日に頭に多く入りすぎてパンク寸前だ。
2人はお互いが見える位置まで広がり限界まで進む。
「ん?なんだ??」
柔らかい―、手先に感じた感覚だ。
手先を確認しようと目線を移す。
「え?あ、うああああぁぁああぁ」
腹の底から声が出る。カイトには理解しがたい光景が見えていた。
自分の左腕から先が見当たらない。
だか、血も流れておらず、痛みも感じない。何しろ左手の感覚は柔らかいものに当たるのを覚える。
「う、腕がぁぁ」
勢いよく、腕を後ろに引く。
柔らかい感触が消えたかと思えば左腕には無傷な手の姿が確認できる。
――どういうことだ?! な、なんなんだ!?
カイトはひどく混乱する。しかし、それをかき消すかのような悲鳴が耳に入る。
「きゃぁぁぁぁぁあぁあ!!!」
アレシアだ。こんな森に響き渡るくらいの大きな声を出すのを聞いたのは初めてだ。
しかし、アレシアの元で何かが起こっている。ここからでははっきり見えない。それを追求すべく―、
「どうしたぁぁぁああ!」
アレシアの元で駆け寄る。近づくのはまずいと分かっていたが女性のピンチに立ち向かわなくではという正義感が働く。先ほどカイトの元であった現象を忘れるほど。
カイトはアレシアのもとへ駆け寄る。
アレシアには危害は加えられてなかったことに安心した。しかし、うずくまって座り込んでいた。
先日まで涼しい顔で狩をしていたとわ思えないほどの姿だ。それほどのことがあったのだろう。
「どうしたんだ??」
カイトはアレシアの肩に手を置く。
アレシアはその行為にビクつき後ろを振り向く。
「はっ! カイト…」
今にを泣きそうな顔だ。
「いきなり…手が出てきて…ぼ、僕の胸を触ってきた……もう、お嫁にいけないよぉ……」
アレシア容姿なら誰もが喜んで夫になるだろう。まあ、今はそんなカイトの考えは置いとこう。
アレシアは顔を赤らめ手を前に組んでいる。
数日間アレシアを見てきたカイトには想像もできないアレシアだ。
カイトもアレシアに聞きたいことがたくさんあった。しかし、こんな姿を見てしまったら後回しでもよくなる。
「新手の能力者かっ?!」
カイトの今の思考では第一に一番それを疑う。
カイトは辺りを見回し警戒する。カイトにどうこうできるわけでは無いが。
アレシアのいう手の出てきた場所に恐る恐る手を伸ばす。
「ひぃぃ!」
目を見開き、伸ばした腕の先を確認するや否や目の前の光景に驚嘆する。
「う、腕がぁぁ!!」
先ほどと全く同じ光景だ。血も流れておらず。痛みも感じず。腕の先が無いのだ。手先の感覚を除いては一度体験した事のある現象だ。
やはり、手を引き戻すと腕から先は何事もなかったようにある。
カイトは落ちている石を投げ入げた。石はそのまま消え先には石の姿はどこにもにも見つからない。
見える先には同じように森が広がっている。しかし、ある一定の位置に踏み入るとそこからは消えてしまう。
カイトは意を決して足を運んでみる。
やはり消える。だが痛みもないし。感覚もある。何より地面の上に足があるのが感覚的にわかる。
「予想だが、この前の見えない先には何かがあるのか?」
アレシアは聞いているのか聞いていないのかわからない様子だ。よほどのショックだったのだろう。
カイトは恐れていたがこの先を確認しなければならない。ここでうじうじすればするほどループの範囲も狭まくなる。
カイトは決意を固める。
「うぉぉおおぉおお!」
カイトは雄叫びをあげ飛び込んだ。途端に姿は消えた。だか、その代わりにアレシアの離れた後ろから雄叫びが聞こえる。
「うぉぉお、おお、わっ!」
カイトは転んで前転をした。
飛び込んだ先は特に変わりもない森だ。
しかし、先にはアレシアの姿も見える。
カイトは間を置き考えをまとめる。そして出た答えが――、
「そういうことか!ここがループの繋ぎ目かっ!」
やっとの思いで謎が1つ解明される。だか、そうやすやつ安心できる状況でもない。
カイトは再び繋ぎ目を通りアレシアの元に戻る。
「カ、カイト??何があったのぉ??」
彼女は大分調子を取り戻していた。
「さっきはごめんねぇ、こんな時しっかりしなくちゃねぇ!」
「まあ、それは大丈夫だよ!」
自分でもなんて声をかければいいかわからず曖昧な返事を返す。
それより、本題に入る。
「そうだ、この現象はこういうことだったんだよ。」
カイトは繋ぎ目に進んだ。
カイトはアレシアの前から完全に消え、その代わりに後ろから聞こえる。
「アレシアー!ここは!ループの繋ぎ目だーー!」
アレシアに届くよう大声で話す。しかし、それはもう随分と近い距離だ。大声ではうるさいくらいの距離で近づいている。
カイトはループが縮まらないようループの端まで移動する。
ここで、先ほどのいきなり出てきた手に触られた―、というアレシアの発言に気が回る。
――もしかして、俺の手が消えた途端に向こう側で手が現れた…、も、もしかして、あの柔らかかった感触は…
カイトは鼻の下を伸ばす。
もう、ここに手を伸ばすのはやめよう。次は手を本当に落とされかねない。
アレシアになんて説明すれば良いか……。
しかし、ここで能力者の仕業ではないことには確信がついた。アレシアに説明ができるかは別として。
だが、1つ問題を解決したからといってこの状況が優位の方向に動いたわけではない。
「ゼロナティアが、あればぁ……」
アレシアが不意にそう呟く。
カイトはそれを聞き取り、
「なんだ、そのゼ、ゼロ何とかは??」
「あー、ゼロナティアはこの状況を変えてくれる道具かなぁ」
そんな道具があるなどどんなチートアイテムだ。本当にあるのなら喉から手が出るほど欲しい代物だ。
「でも、僕も見たことない道具だけどねぇ」
やはり、そんなチートアイテムはやすやす手に入るもの手に入るものでは無かった。
元々、ここにある訳でも無いため、希望の光が見えたというわけでもない。
「アレシ……ア……??」
カイトはアレシアに声をかけようとした。
だか、目の前には姿は無い。ループの繋ぎ目を通って後ろに移動したかと思い、後方を確認。しかし、その姿は見当たらない。
「アレシアぁぁ!どこだぁぁ!」
カイトは大声で叫ぶ。しかし、アレシアからの返答はない。目の前にいたはずのアレシアが一瞬で消えてしまったのだ。