第1章―2 出発点
緊迫した空気の中で初めに話し始めたのは村のおばさんだった。
「あんたは、確か…アレシアだっけ?」
「そう、僕の名前はアレシアだよぉ、よくおぼえてたねぇ〜」
海斗は全く状況が掴めなかった。様子を見る限りでは村の人でもなさそうだし、あの会話からして村の人と仲がいいわけでもなさそうだ。そして、見た目が怪しい…。
アレシアという名の女性は、この村に不似合いな背中のが大きく開いた服―、簡単にいうなら白いチャイナ服の背中に大きく開いた服を着ており腰にはポーチを2つつけたようなものをつけていた。顔立ちは目尻が垂れてゆったりとした雰囲気で誰が見ても美人だ。
肌はとても白く逆にその以上な白さから危険な怪しさがでていた。
だが、見たときから一番気になっていたのは、腰につけてある剣―。
剣にしては短いし短剣にしては長いといった微妙な長さの剣を腰につけていた。
「あんたもこの村に2日前くらいにきたんだったね」
「……。あー、そうそう、道に迷ってこの村にたどり着いたんだよぉ。僕も都市に行く予定だったんだぁ。予定は早まったけどもうこの村をでるのぉ、準備もできたし、この村のご飯は美味しかったなぁ〜」
アレシアはそう言うとペコペコと頭を下げていた。
おばさんは用事があるらしくその場をさった。まあ、多分話に入りにくそうだったので退場したのだと思う。それは言うまい。そして、そこにはアレシアと海斗だけが残された。
「ところで、君ぃ、都市に行きたいんだってねぇ、都市に行って働くつもりかい?まあ、他人の僕は関係ないことかぁ」
「ん…ああ、そんなところだ。本当に都市まで案内してくれるとありがたい」
もちろん都市は働くつもりはなかった。情報収集のために都市に行くと言ったら説明がめんどくさくなりそうだし、第一、異世界に転移しましたーなんて話に誰も信じないだろう。
「いいよいいよ〜。ていうか、僕が連れて行ってあげるてっ言ったもんねぇ〜〜」
アレシア何故か嬉しそうに体を揺らした。アレシアの喋り方も気になっていたがアレシアが都市に行く理由が気になった。
「けど、さっき道に迷ってここに来たって言ってたよな?本当に都市まで案内できるのかぁ?」
海斗は気になることが他にもあったが、まずは確実に都市に行くことを優先していた。
「あぁ〜、そんなこと言ったねぇ〜、あれは嘘だよぉ〜」
「はぁ…?」
「嘘にはねぇ〜意味のある嘘と意味の無い嘘があるんだよ〜〜。僕のは後者だねぇ」
海斗の理解力ではそのことをうまく理解できなかった。
怪しげな服装。怪しげな剣。そして、怪しげな話し方。それらから、ますます不安になるばかりだ。
「まあ、都市への行き方は知ってるよぉ。これは間違いない」
海斗は藁にもすがる思いでアレシアを頼ることを決めた。とゆうよりこの状況を打破できるのはそれくらいしか無いと思っていた。もし案内途中で何かあっても、逃げることくらいはできるだろう。
「そういえばぁ、名前…聞いてなかったなぁ」
アレシアは好奇心満々の目で海斗を見つめていた。
「ああ、悪い悪い。俺の名前は佐藤海斗」
「サトーカイト?珍しい名前だねぇ、いや、すごーくいい名前だよぉ」
褒められたのか褒められて無いのか微妙だった。こっちの世界ではこの名前が普通では無いのか。確かに、アレシアとかは日本でいたら珍しい名前だ。
「僕の名前は、アレシア さっきの会話から分かってるかもしれないけどぉ、礼儀として教えておくよぉ」
意外とアレシアは見た目によらず礼儀正しい人だった。アレシアは現代でいう大学生ぐらいの人に見える。自分が高校生である以上タメ口を使うのは失礼だと思ったが敬語を使うつもりはなかった。
「ここから都市までどれくらいかかるのか?1、2時間くらいか?」
それを聞いたアレシアはくすっと笑い、目をそらしたかと思ったらすぐに海斗を見つめた。
「君ぃ、本当に何も知らないんだねぇ―、ここからだと3、4日はかかるよぉ〜、まあ、何事もなければだけどねぇ」
アレシアはもったいぶったような口調で言い、それと同時に呆れた目をしていた。
海斗をすぐに着くとは予想にはしてなかったが、1日以上かかるとは思っても見なかった。ましてや、2、3日かかるなんて…。
「そ、そんなにかかるのか…。3、4日てっことはあの森の中で野宿するってことか!?」
「そ〜だよぉー、サバイバルと考えれば楽しそうじゃーん、村の男たちも都市に行ったくらいだしぃ、君も大丈夫だよぉ〜」
海斗は予想外の事態に苦笑いをした。
海斗も現実世界でキャンプはしたことが何回かはある。しかしそれは、道具が準備されてのことだ。こんな異世界で素性も知らないところで野宿など、不安しかない。
「それで、いつ村を出る?」
アレシアは握った手に顎を乗せ考えているような形をとった。
「んー、じゃあ、今からでもいいよぉ〜」
「今から!?、それはちょっと、さっき来たばっかりで、何も準備できてないんだよ」
海斗は村に来て1時間くらいしか経っていない。服もさっきもらったばっかりで、もちろん水も食料もその他もろもろも持ち合わせてはいない。
「それは大丈夫だよぉ〜、私が準備してるし、食料は森の中にたくさんあるし〜、準備って言っても特に何もいらないよぉー、まあ、いるものとしたら身を守るものくらいかな〜」
確かに2、3日分の食料を持って行くのは大変だ。海斗もサバイバルには少し興味があり、水の取り方や、食べれる木ノ実や草などの多少の豆知識ぐらいはもちあわせていた。異世界で通用するとは別として―。
しかし、気にかかる点があった。それは、身を守るものだ。
日本でも熊などが出て危険なところがある。そのような類のことを言っているのだろうか。
「身を守るものって…、物騒だな、何か熊でも出るのか?」
「くまぁ? よくわからないけど、ここら辺じゃぁ、危険種がでるかもねぇ〜」
危険種と聞いて思いついたのが異世界特有の魔獣だ。危険種がどんなものかはわからないが一対一で戦っても勝てるようには思えない。
「それ、大丈夫なのか?…」
海斗は不安げに眉を寄せた。
「大丈夫だよぉ、運が悪くなければ会うこともないよぉ〜、逆にあった方が幸運ぐらいかもねぇ〜」
アレシアはそう言うと、ニアニア笑っていた。
カイトからすれば笑える冗談ではない。しかし、そこでは「はっはっは…」と愛想笑いをする。
そこまで言うのだから、危険種と言ってもイノシシくらいだろう。アレシアの見た目や格好からみて、ライオンや熊ぐらいの猛獣は出ないだろうと思った。
「今日、いや明日の朝に出発しよう!」
「確かに、夜にでないのは賢明な判断かもねぇ」
こうして、明日の朝にこの村を出ることを決めた。
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カイトは朝、鳥の鳴き声とともに目を覚ました。
今日出発予定だったためおばさんに頼み一日泊まらせてもらったのだ。しかも、朝ごはんもご馳走してもらった。
まだ会って数時間なのに泊まらせてくれてご飯までご馳走してくれんなんて、なんて良いおばさんなんだろう、いや、村全体がそういうところなのだろう。
昨日の夜にカイトは明日からの旅のための必要最低限のものをもらっていたのだ。
家から出ると、外にはアレシアがいた。すでに準備満タンの様子で小さな小袋もぶら下げていた。
「カイトぉーいくよぉ〜」
いつの間にか名前で呼ばれるようになっていたが気にしてはいなかった。むしろあんな美人に名前を呼ばれて少し満悦感があった。
「お、おう!」
そういい、ナイフケースを腕に巻きナイフ収納してから家から飛び出すようにでていった。
このナイフは昨晩アレシアが持っていたのをもらったものだ。ナイフなどでの戦闘などしたことはない。当然だ、日本でそんなことをしていたら逮捕されてしまう。ここでは、無いよりはマシということで待たされた。
準備が整い村を出ようとしていた。
まだ、あって1日も経ってないのに村の人たちが見送りをしてくれたのだ。
カイトは改めてこんなに良い村は他にないだろうと痛感する。
「村の皆さん、短い間だったけどありがとうございました。いつか、お礼をしに参ります!」
カイトは頭を深く下げお辞儀をした。
「みんなぁ、ありがとねぇ〜」
と、ケロッとした感じで言った。
アレシアは礼儀正しいのか正しくないのやら―、
「大変かもしれないけどかんばるんだよー、あんた達なら大丈夫、無事にたどり着くことを祈ってるよ」
そう、言われると勇気が出てきた。気持ちが一新した気分だった。
「あー、そうそう、これぇ僕からのお礼〜」
アレシアはポーチから小袋を出すとおばさんに渡した。
「え!これは、こんなに…」
小袋の中身は硬貨のようなものがたくさん入っていたのだ。多分ここの世界のお金だ。おばさんの反応から見て多額の量なのだろう。
「何日も泊めてくれたしぃ〜ご飯もくれたしぃ〜カイト君にもこんなに準備してくれたしぃ〜それでは足りないくらいのことをしてくれたよぉ〜。お金を返すのはダメだよぉ〜〜」
そう言われ、おばさんは受け取り頭を下げた。
「それじゃぁ、バイバイ〜」
「ありがとうございました。さようなら!」
そう言い、再び別れを告げると村を出た。
後ろを振り返ると、見えなくなるまで村人は手を振ってくれていた。
いきなり歩いている途中に止まり、それに合わせるようにしてアレシアも止まった。
「改めてだけどよろしく!」
そう言いうとカイトは手を伸ばし、真剣な眼差しで見つめた。
「ふふ、こちらこそもよろしくねぇ〜〜」
と喜びをほほに浮かべカイトの手を握った。
一応、異世界にも握手の習慣はあった。
アレシアがなぜここまで協力的かは疑問に思っていたがそれを聞くのは失礼にあたるため気にしないようにしていた。ただの親切心だと―
そのようなやり取りを終え、再び都市を目指し歩き始める。
その時カイトは何事もなく都市にたどり着くだろうと思っていた――