3, メイド服で思い出したことがある(嘘)
後書き参照。
今回はガチ話も入り、正直「僕には……無理だ」という感じ。俺にラブコメは無理だぁぁぁぁ!!
文学という道へ帰還して良いですか? え?ダメ?
ポイズンクッキングというものをご存知であろうか。いわゆる料理ベタな人が作る料理は食べれる食べられないという領域を超え、国の軍事力に加算されるほどの破壊力を持つ毒となることがある。それを巷でそう呼ぶらしい。
どうでもいいが、昼休みに突入した。四時間目の授業には無事に出席し、その時家庭科室で謎の爆発事故が起きたこと以外は平和な時間だった。二三時間目をサボったというのに、俺は机に額をへばりつけていたのは内緒だ。
そのような事件が起きたために、学校は臨時休校となった。校庭の前には赤い車が何台か止まっている中、生徒たちは平然と中庭で昼食を取る。理不尽な世の中になったものだと思う。幸い中庭は爆発事故の起きた家庭科室とは逆側であり、消火活動に当たる勇敢な戦士の姿を拝むことは出来ない。残念だ。
そうだ、どうせなら一度はそういった現場を拝んでおきたいものだから、今すぐそちらに行って消防士を応援してこようかしら。
「はるくーん? 何逃げようとしてるの?」
おっとお姉さん、袖を掴まないでくれないかね。クリーニングにかけたばかりでしわを付けたくないのだよ。あと消防士見たい。
「そんなこと言って逃げる気でしょー。ボクのお弁当見るたびにそうなんだもん。もう騙されないんだからね!」
確かに俺は準先輩の弁当箱を見るたびに逃げるが、今はそういった事態ではない。
「なんで……メイド服なんですか……」
そう、何故か彼女はメイド服と呼ばれるそれを着ていた。お仕着せとか言ったほうが良いだろうか。良くないな、うん。
白と黒を基調としたつくりで、黒いワンピースの上に白のエプロンドレス、準先輩が座る足元からはフリルつきのスカート部分がふわりと風に舞っている。いわゆる一種の『そういう層』向けというよりは、英国正統派のドレスのようである。傍らに置いておけば、それとなく気分を満喫できそうなほどに似合っている。カチューシャはネコミミが邪魔だったのか同なのか知らないがついていない。
「あ、これねー、家庭科の授業のまま出てきたから。どう? 似合う? 似合う?」
これで家庭科の授業出てきたの!? ネコミミメイド姿で!?
先輩は立ち上がって、ネコミミをぴょこぴょこさせながらスカートの裾を掴んで一回転してみせる。
と、その時!
悪戯な桃色の風が準先輩の無用心な股の間を通り抜ける。同時に流れに身を任せるように、フリルのついたスカートがめくりあがり……。
「にゃ!?」
準先輩は慌てて手でスカートを押さえ込む。だがしかし、俺の目はごまかせん。鷹の目よりも遠く、肉食動物より炯眼な眼の持ち主である俺の観察力から逃れることは出来ない……!
なんて阿呆な話は無いが、俺も男だ。ハプニングがあれば目を向けてしまう馬鹿な生物であり、ちゃっかりと中身を確認済みで、同時に信じられないものを見た。
準先輩は普段より数倍顔を赤らめ、スカートを掴んだ手はその場所を離れず、潤んだ目で上目がちに俺に言った。
「…………み、見た?」
「断じてそんなことはありませんぞ親方」
「あなたが見たのは白の下着ですか、それとも黒の下着ですか?」
「黒です」
あ、しまった!!
「ばっ、ばかばかばかばかばかぁ!! なんで見るのよぉ!」
「不可抗力っていうか視界に飛び込んで来ただけですって!」
準先輩はぽかぽかと俺を痛くもない拳で殴ってくる。
「うぅ……今日のは見せられる下着じゃなかったのに……」
「み、見せられる見せられないとかあるんすか」
「あるの!」
はいすいませんごめんなさい。
にしても黒ってなんだろうか。昨今の女性の下着市場云々需要供給の割合云々知ったことではないが、最近の女性はなんとも大胆なものを穿くものだ。男性なんてトランクスかボクサーパンツしか無いってのに。感心する。
「あとで覚えておきなさいよ、はるくん……」
なんすかその恨むようで実は熱っぽい視線は。凄い死亡フラグを感じるんですが。
「それより先輩、昼食を取るんですよね? さっさと食べましょう」
俺は半ば逃げるように死亡フラグに向かった。ああ、何言っているのは分からないとは思うが、俺だって分からん。ただいえる事は一つ、どっちにしろ死ぬんだろうな俺は。
準先輩は今までの表情をころっと変え、恥ずかしそうで、でも嬉しそうな顔で弁当箱を取り出す。シンプルにピンク色で統一された女の子らしい弁当箱である。箸も割り箸ではなく、持参したマイチョップスティック。一本しかないのは勿論であるが、もういいや。
「じゃじゃーん! 今日のお弁当はこんな感じでーす!」
神々しく開かれた弁当箱の中身が俺の視界に写る。
弁当箱の中は二分割されており、しきりを挟んで片方には真っ白なご飯が敷き詰められており、これまたシンプルに梅干が一つ乗っている。それを中心として桜色のでんぷんがハート型を作っている。まだ名前を書かれてないだけましである。そしてもう片方、おかずのほうはこれがまた目を見張るものがあるほどにきちんとしたバランスでトマトの赤、ブロッコリーの緑、玉子焼きの黄色と色鮮やかな配色。しかしその中にはから揚げやハンバーグといったパワーになりそうな、男の好むものも入っている。思わず涎が出そうになるほど立派な料理であった。
……だが、まだだ。
「そーしーてー、今日のお楽しみターイム!」
準先輩は後ろから隠していたものを取り出す。
「ボク兼はるくん専用! 栄養ドリンクー!」
目の前に現れたのはゴールデンに光り輝く液体が入ったビンだった。うおっ、まぶしっ!
ところで考えることがあるんだ俺。色の三原色とかさ、あるじゃんあれ。色々混ぜたら結果的に黒に近くなるぞーって奴さ。まあほら、栄養面を重視して半ば青汁ジュースみたいのが出来上がるんだったら俺も現実味があって良いと思うんだ。でも黄金色ってどうなの。何をどうしたらそんな色になるの。金粉だけで液体作ったってそんな輝かないと思う。
「んふふ〜、ちょっと待っててね」
先輩は更にどこから取り出してきたのか、取り皿を出して、折角綺麗に弁当箱に収まっている弁当を皿に移してしまう。
そして、黄金の液体が入ったビンの蓋を開けた。恐ろしくドロドロしていて、もはやドリンクとか呼んでいい代物ではない。全世界の食品という食品に土下座して謝りたくなる。準先輩は恐怖で震える俺を尻目に、何を勘違いしたのか「そんなに楽しみなのー?」とかほざきやがりながら黄金の液体を白米にかけた。
先生。お百姓の怨霊が後ろに見えます。
「うわー、綺麗だね〜!」
王宮とかに出したら良いんじゃないでしょうか。好評ですよきっと。その後誰も感想を残すことは無いでしょうけど。
真っ白な米が金ぴかになり、なんだか歯並びの中に一本だけ金歯を入れたオヤジを思い浮かべた。同時におぞましい臭いが漂いはじめる。空気汚染なんてレベルじゃない。そこら辺の雑草がどんどん死に絶えていくのが目に見えるようだ。
「じゃあ、食べよっか。ボクが食べさせてあげるね!」
そう言うと準先輩は自前の子どもっぽいイラストの書かれた箸で、その液体と化した米と、その上にから揚げを乗せて俺の口元へ運ぶ。上だけ良いです、お願いだから上だけにしてください。
「はい、あ〜ん」
準先輩がこぼれないように顎に片方の手を添える。なんとも嬉しいシチュエーションだが、目の前から漂ってくる異臭に意識が飛びそうな俺がいる。特別力など入っていないのに、顎に添えられた手が添え木のように俺の身体を固定して離さない。準先輩の瞳ははたと見ると何を期待しているのかキラキラと希望の眼差しで輝いている。俺にどうしろというのだ神よ!
ああままよ! 俺は覚悟を決め、大口を開けた。が、一足遅かった。
「もしかして味が薄そうで食べられない? だったらちょっと待ってね。えーと、確かこの辺に」
口元まで持ってきた謎の生命体ゴールドを一度戻し、準先輩はメイド服の奥の制服のポケットを探る。
そしてそこから出てきたのは……一本の醤油瓶。うん、確かに味が薄いときは醤油だよね。
それを準先輩は丸々一本、たった一口のために継ぎ足した。取り皿がなんだか地獄の沼に見える。俺って今どこにいるんだっけか。俺は息を呑んで、その様子から目が離せなくなる。
「え? まだ足りないの? しょうがないなー」
言ってねええええええ!!
準先輩は加速する。自慢の四次元ポケットから一つのチョコレートのような形の長方形のブロックを取り出す。だが、チョコレートにしては分厚いし、一つ一つのブロックがはっきり分かれているように見える。
「……それは、なんです?」
ようやく声を出すことに成功し、俺はそう準先輩に聞いた。
「カレールー」
ふざけんなあああああ!!
と叫んでやりたいが、もうなんか呼吸が出来ない。死ぬかも。
「まだ足りないの? あ、それともあれ? ボクの口移しじゃないとか食べられないとか? もうっ、仕方ないなー」
準先輩は一度そのグロテスク画像と化したものを下げ、四つん這いになって俺に寄ってきた。
「じゃあ、ボクがメイドとしてはるくんにご奉仕としてしてあげるから、はるくんもご主人様らしくボクに命令してみて?」
思考が段々と纏まらなくなってきた。俺はなんだ、準先輩に付き合えばこの苦痛から解放されるのか? ならばやるほか無い。
「じゅ、準先輩……お願いが」
「違う違う〜。先輩なんて言ったら雰囲気出ないじゃん。あとお願いじゃないでしょ!」
どうでもいいから早く……。
「準……」
「なんですか、ご主人様?」
準先輩が意識がはっきりとしていればぐっと来るような発言をする。心なしかなんだか距離が近い気がする。
「お、俺……」
あれ?何をすればいいんだっけ。あまりに錯綜した意識が、記憶をも混乱させる。
俺はなんだ。俺は、準先輩にどうして欲しいのだろうか?
いつからだっただろうか、準先輩が俺にあれだけアタックするようになったのは。高校一年の頃はまだ俺は準先輩のことを知りもしていなかった。校内でもはっちゃけた人として有名ではあったが、所詮は先輩、部活動にも入っていない俺には路傍の石くらいの話として受け流していたはずなのだ。
そんな日常が変わったのは文化祭辺りからだっただろうか。友人の誘いで準先輩が経営していたメイド喫茶に行き、そこで初めて準先輩を見たんだ。その時は、そのあまりの美貌に目を疑ったものだった。可愛いとか綺麗とか、そういう形容詞を超越して、俺は本気で準先輩に見惚れていた。友人も言っていた。『あの人は高嶺の花でありながら、よく崖の下まで遊びに来てくれる、近くて遠い存在』だと。俺にとってもそうだった。メニューを持ってきてくれたとき、気さくな態度で話しかけて来てくれたが決して自惚れられない。彼女は崖の上に帰っていくのだとすぐに分かった。
――ああ、そうだった。大事なことを俺は忘れていたんだ。
準先輩にほれたのは、俺が先だったんだ。
体育祭などの行事に積極的に参加し、俺は準先輩を自然と追うようになっていた。その人望溢れる気質は周りの人を老若男女構わず魅了し尽くし、俺もその中の一人だった。
体育祭の終わり辺りから俺はめっきり準先輩と会えないことを悟り、ゲームを持ちかけた覚えがある。
『先輩、鬼ごっこをしませんか?』
『鬼ごっこ……? どうしたの急に、はるくんらしくもない』
『俺が最初鬼で、準先輩が逃げる側です。俺はその、先輩を捕まえて、言いたい事があるんです』
『言いたいこと?』
『はい』
『ふうん……じゃ、今から開始ね、はいっ、スタート!』
『えっ? ちょ、ちょっと』
その時俺は準先輩が全力で逃げることを予想して、思わず手を伸ばしたのだ。しかし、準先輩は一歩も動かなかった。そこに立ち尽くして、俺を真っ直ぐ見据えていたのだ。
俺の手は見事準先輩の豊満な胸に収まり、その感触を楽しむ間もなく俺は手を急いで引いた。
『す、すいませんっ!』
『いいよいいよ。で、タッチしたから、言いたいこと言って?』
『え? いや、その……』
『なあに? ボクの自慢のバストを触っておいて逃げるなんて許さないよ?』
そう言う準先輩の笑顔はどこか優しくて、俺の心臓の鼓動を収めるには十分なものだった。
『俺は……その、せ、先輩が、その……』
精一杯の想いと、緊張と、勇気を込めて送った言葉。
『す、好きです……』
声は小さく、どもってしまった。でも先輩は「そっか」と相槌を打ってくれた。そして、こう続けたのだ。
『じゃあ、今度はボクが鬼だね』
俺はわけがわからないまま、先輩の方に顔を向けた。先輩が依然としてニコニコと笑ったままで、答えなんて到底くれそうになかったのを覚えている。
『はるくんは全力で逃げて。ボクに絶対追いつかれないように、ずっと、ずっと逃げて。ボクがそれを必死に追いかけてあげるから。そうだね、ボクの気持ちがはるくんに届いたとき、この鬼ごっこは終わり。勿論それを判断するのはボクじゃなくてはるくん。おっけー?』
言っていることが分からないまま、俺はそれでもいいやと思って、頷いた。
準先輩とはそれから一年間は顔を会わせなかった。俺は最初こそ何日も待ったものだが、段々と希望も薄れ、高校二年に上がる頃には約束もすっかりと忘れてしまっていた。ただ漠然と、そこに白鳥準という憧れの先輩がいたことだけしか、覚えていなかったのだ。
しかしその二年二学期の始業式の時、学生代表で準先輩はこう高らかに叫んだのだ。
『お待たせはるくん! 今からボクは死ぬ気ではるくんを追いかけるよ! 本気で逃げないと、取って食べちゃうからね!』
俺は学校で晒し者になり、毎日のように準先輩から過剰なスキンシップを浴びるようになった。俺はそれを漠然と「好きな人と両思いになれた」としか思わなかった。
だが、そうだ。俺はまだ、鬼ごっこの最中だった。
俺には、準先輩の気持ちを確かめる義務がある。
俺はどこか過去へと飛んでいた記憶をたぐりよせ、現実に帰る。目の前には期待するような目で俺の言葉を待つメイド姿の準先輩。
何をして欲しいの?
そう準先輩はもう一度聞いてきた。
「俺は……準に……」
「ん?」
ダメだ。クソ、こんな時なのに、意識が持たない。まさか一日で二度も意識を落とすとは、今日はネコミミのせいもあって厄日である。
「好きだと、言って欲しい」
その言葉が言えたか分からない。
もう千回は言われたかもしれない言葉。それが、今は無性に欲しかった。
どうも蜻蛉です。
今何時?そうねー大体ねー。午前四時です。死にます。
挫折しそうなので、もう諦めてガチりました。こんな俺でごめんなさいごめんなさいごめんなさい(ry
これと同時進行で「罪人の涙」という作品を書いていますが、あまりに対照的過ぎて俺の脳みそがついていけません。だれかボスケテ。