生贄
「ま、魔王?」
少女の言葉に対して、周りを見渡しながら言う直樹。
魔王なんて、ファンタジー世界での話。
まさか、自分自身がそう呼ばれるだなんて思いもしない。
だから、自分と平服している少女たちのほかに誰かいるのだと思い、周りを見渡した。
だが、誰もいない。
すると、少女が平服しながら言う。
「失礼ながら、魔王様は、あなた様にございます」
「……はぁ?」
予想外の話に疑問で返す直樹。
高校から帰っている途中に、一瞬でさまざまなことが起こりすぎている。
「それはいったい?」
「天界からのお告げ、です」
「天界のお告げ?」
と、地上で最後に聞いた言葉を思い出しながら、復唱する直樹。
確か、あのときも似たような言葉を聞いた気がする……。
いきなりの出来事だったから、あやふやだが……。
「はい、天界からのお告げにより、この場所に現れたかたが、我々の魔王だと言われていたのでお待ちしておりました」
「魔王って……」
いきなり魔王と言われたってわからない。
それに、『我々の』って表現が、どこか責任のある立場のような気がするし、嫌な予感がする。
「天界からのお告げの通り、どうやら我々の魔王様は一から説明する必要があるようですね。
もしよろしければ、顔をあげてお話しをさせていただけませんでしょうか?」
ずっと平服したままで言う少女。
確かに平服したままでは話づらい。
こちらとしても、初対面の相手と表情を見ずに話をするのは、やりづらい。
そもそも、普段通り友人と話をするように話をしたい。
「わかった。むしろ楽にして欲しい」
「ありがとうございます」
と、言ったあと、顔をあげる少女。年は同じぐらいだろう。
そして、薄く桃色がかった髪、真珠のように白い肌、淡い青色の目。とてもかわいい。
学校にいたら、一番人気になっていただろう。
いや、テレビなどにでていたとしても、一番人気になっていたかもしれない。
「私は、リリアと申します。
それでは、私どもが天界からのお告げで知らされていることをお伝えします。
が、少し確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
「なに?」
「魔王様は、種族は人間で、魔法とかは今まで使ったことがないのでしょうか?」
「そうだが……、」
種族は人間、と言う表現が気になったが、人間であることは間違いない、と思いながら言う直樹。
それに、魔法とかを使ったことがないって、普通はそうだろう。
魔法なんて、架空の現象だ。
「やはり、天界からのお告げ通りですか……」
少し落胆したかのような声音で、リリアでわない別の少女が、平服したまま言う。
(訳がわからないが、失礼な奴だな。
普通に考えて、人間であること、魔法が使えないことは、当たり前なのだ)
と、直樹が考えていると……、
「私の従者が大変失礼なこと申しました。
申し訳ございません。
従者には後ほど、しかるべき罰をあたえますので、どうかお許しください」
と、すぐに頭を下げながら言うリリア。
そこまでしなくても、と直樹は思いつつも、
「わかったから、別に……、そこまでしなくてもいいよ」
「あ、ありがとうございます」
「それで、魔王ってどういうことなの?」
「はい、魔王様とは、この地獄にある国や村を統治する方々になります。
そして、天界からのお告げがあり、今、魔王様をお迎えすることができました」
なるほど、魔王とはゲームとかの悪役という一面があるが、ある一定の地域を治めて城に住んでいるという一面もある。
魔王は、魔王であっても、王様には変わりない、と言うことか……。
「その……、お告げってさっきから何回も出てきているけど、それはいったい何なの?」
「天界からのお告げです。
今いる地獄も天界が管理している一部になりますので……」
「ふ~ん、この世界では地獄より、天界のほうが上位に位置付けられているのかぁ」
「ええ、そうなります。
ただ、この地獄の一部には天界から独立をしている場所が一部あることは確かなのですが、大部分は天界の管理下に置かれています」
「そうかぁー、まあ、いきなり魔王って言われたってピンと来ないのは確かだな。
それで、俺はこれからどうなるの?」
リリアが言っている内容を疑うわけではないが、ピンと来ない。
とわいっても、ここが地球じゃないだろうっていうのは、周りの景色や、雰囲気でわかる。
そとに出ていってもどうしたらいいかわからないだろう。
だとすれば、目の前の少女、リリアに敵意がないのは、話し方などから確かだとわかるから、この場にとどまったほうが得策だと思った。
それに、領主扱いの魔王であれば、貧しくはない、ある一定水準の生活ができるだろう、と思われた。
だが、直樹の予想は外れる。
「魔王様には旅に出ていただきます」
「はい? 旅にでるって?」
地獄だと言われている場所を旅にでろって……、いきなりハードすぎるだろう。
魔法が使えるか? っていう話になっている以上、今までなかった力があるだろうし……。
「はい、旅に出ていただきます。」
リリアは直樹に顔をゆっくりと近づけながら、
「私は、魔王様の生贄です。なんなりと、自由にお使いくださいませ」
と、キスをしながら言った。




