やさぐれかけたけど、養い子がかわいいからちょっと奮起する
俺の名前は、ネイロ。
じいちゃんかひいじいちゃんがエルフらしいが、まぁ、人間だ。
治安の悪い場所で育ち、どうにかこうにか傭兵として食っていってたんだが、先日赤ん坊を拾っちまった。
いやぁ、その頃ってさ。俺、戦場で右腕すっ飛ばされて自暴自棄になってたんだわ。このまま飯食えなくなるのかなー、野垂れ死にすんのかなーって。将来見えなくてさ。
で、ふらふらしてたら声がするんだよ。最初、猫でも鳴いてるんかな、と思ってたんだがその方向に行ったら、布にくるまれた赤ん坊が泣いてるじゃねぇか。
見捨てて置けないからどうにか片腕で抱いて、ゆっくり歩いて悪友の医者にみてもらったらまぁ、生後3ヶ月ぐらいだと。栄養状態はまぁ、よくて後は……男の子だって事ぐらいか。
捨てられた赤ん坊のくるまれた布には見たことのない文様。あと、手紙があったんだが、読めない。俺が読める文字じゃねぇ! 悪友に読んでもらったところ、最近滅んだ国の貴族の子っぽい……。をい、それマズくねぇ?
「どうする、ネイロ。傭兵団の団長ならどうにかしてくれるんじゃないか?」
「でも、なぁ……。捨て置かれたら寝覚め悪いっつーか……」
俺が悩んでいると、赤ん坊はきゃっきゃと笑いながら俺を見ていた。そっと指を出すと、むぎゅっって掴んで放さない。そしてにまっ、と笑って……。同時に、胸の奥がきゅーん、ってなった。
「はぁ?! お前が育てるって……正気かよ?」
「うん。俺が育てる。団長説得して、片腕で戦ってみせる」
「お前バカか!」
俺の決意に悪友が声を上げる。いや、だって赤ん坊死なせるなんてできねぇし、どうにかしてやりてぇじゃねぇか。
俺がそういうと、悪友は「しょうがねえな」と言ってとりあえず赤ん坊のお乳のためにご近所さんに分けれもらえないか交渉しに行ってくれた。
俺はご近所の奥さん(4人の子持ち。現在進行形で4人目が授乳期)に助けてもらいつつ、オムツかえとか赤ん坊を育てるのに必要な事を叩き込んでもらった。同時進行で片腕で剣を振る練習をし、ハルバードも使えるよう鍛えておく。確かに片腕ってのはまだ慣れていないし、幻痛に悩むし、オムツ替えで口とかつかってたらおしっこひっかけられたりして大変だけど、なんか心が落ち着いてきた。
右腕を失って、自暴自棄になった俺にこの子は光をくれた。背中を叩いてくれた。まぁ、依存してしまうかもしれないけど、そうならないように、悪友に頼んだりして、俺は少しずつ前を向けるようになっていた。
夜泣きとかして赤ん坊の世話は大変だが、俺は楽しくて仕方がなかった。誰かのために頑張れるって胸が温かい。いつかは、俺から離れていくだろうこの赤ん坊が、今は可愛くて仕方がないのだ。
「サクラ」
サクラの木の下にいたから、サクラと名づけた。この花はすごく綺麗で、とある国では騎士の文様に使われている。俺の故郷でもサクラの花は人気だし、赤ん坊の目の色もサクラ色。だから、そうしたんだ。
「サクラ」
「あう?」
サクラは不思議そうな目で俺を見る。いままでやわらかいベッドとか、暖かい家で育っただろうし、俺が暮らしている家はむさくるしいだろうな。でも、いつかは傭兵団を辞めて普通の家とか借りられたらどんなにいいか。俺はどうにかベッドにサクラを寝かせつつ小さく笑った。
こいつを、一人前の男に育ててみせる。
そして、いつかは故郷だった場所に……。
そのために、俺はやれることをがんばろう。
そんな事を誓って、床についた。
が、その翌日。俺はとんでもないものを目撃する。サクラが宙に浮いているのだ。
「えっ? なんで?」
サクラを抱っこしたくて、でも片腕しかないから不安定だなー、とか思ったら宙にうきあがった。あと、周辺の荷物とかも動かせねぇかなぁ、とか考えたら出来た。
「どーなってんのこれ?」
おろおろしつつベッドに視線をやって、サクラをそこにもどしたい、とおもったらそーっと降りていく。……これ、俺がやっちまったの?
悪友に相談したら目を丸くして俺にこう言った。
「なぁ、この椅子を外にやれるか?」
「それってさっき言った力で?」
なんとなくその椅子を外のほうにやりたい、とおもったら開かれたドアの方へすっとんだ。そして、悪友がぽつり、と言った。
「それ、言っておくけど空間系の魔法だからな。お前魔力からっきしとか言ってなかったか?」
「うん。前に調べてもらったらそういわれた」
「ばか、それは調べた奴が弱くて気に中てられたんだよ。お前自覚無いから今言うけど、魔法を使うセンスがなかっただけであって、魔力は膨大なんだよ」
友人の話に今度は俺が目を丸くする。で、俺が右腕を失ったことが切欠でセンスってのが芽生えたのかもしれないとのこと。これは儲けたってことなのかな。
ともかく。俺は力をコントロールして『見えない腕』として使ってみる事にした。まぁ、基本片手で生活が出来るようになっていたけど、息子を抱っこしたりするには丁度いい。
腕の中ですやすや眠る息子・サクラの寝顔を見ながら、俺は笑う。この子のためならば、俺は何だってやろう。間違ったことをするなら、全力で正そう。
傭兵団には幸い残れた。団長は亡国の貴族の子に心当たりがあるらしく、団ぐるみでその子を守るとか言い出した。いや、それはありがたいが妙に嫌な予感がする。
ま、出たトコ勝負って奴だな、うん。
(終)
読んでくださり有難うございました。