序章 1
思いついたので一気に書き上げました。
《RMMO》の更新を優先しますので、そちらを読んで頂いている方は安心して下さい。
私は男運が無かった。
小学生の時にクラスメートの男の子に恋をし、中学生の時に告白をして恋人になった。
しかし、男の子は高校生になって4股、5股の浮気男になった。
大学生の時に付き合ったサークルの面白い先輩は卒業しても職につかず、私のバイト代で日々を凌ぐヒモになった。
卒業して会社員になり仕事のできる先輩と付き合って結婚。会社を寿退社。
やっとまともな男に出会えたと思った矢先、旦那は仕事で大失敗してクビ。酒に逃げ、私に暴力を振るうようになった。
離婚して再就職、もう男はいいやと仕事に打ち込んだ。おかげで気づけば社長秘書。
なのに今度は社長からのセクハラにあい、社長を訴え慰謝料をふんだくった。もちろん会社はクビだ。
その後は仕事もせず、引きこもるような生活をしていた。外出するのは夜だけだ。
仕事をやめた私には趣味が出来た。
女性向けの恋愛シミュレーションゲーム。通称乙女ゲームだ。
主人公に自分の名前をつけ、大勢の見目麗しく個性的な男達に囲まれる。その間だけは、過去のクズ男達を忘れられた。
男運の無い私が乙女ゲームにはまるのは一瞬だった。
私が特に気に入り何度もプレイしたゲームがある。
『あなたを支えたい ~レナーク王国 愛と政争の記録~』
中世ヨーロッパ風の大雑把な世界観のレナーク王国を舞台に、庶民として育った子爵の隠し子である主人公が母の死をきっかけに貴族の学園へ通わされる。時に身分の違いで苦労し時に公爵の娘にいじめられながら、イケメン貴族と恋に落ちるといった正に王道のゲームだ。
ただこのゲーム、恋に落ちただけでは終わらない。
学園を卒業し恋人の家に嫁いだ後に、恋人の家が政争に巻き込まれてしまうのだ。このいわゆる政争パートでは苦しむ恋人を支えながら、恋人の家を庶民の行動力で救うことになる。このパートでは主人公を操って様々な問題を解決に導かなくてはならない。
このパート、製作者が相当な気合を入れたのか解決方法が無数にあり、とても難解なものになっている。まあ、そのせいで売り上げはいまひとつだったのだが……。
とにかく、この政争パートまるで実力を試されているようで、元仕事人間の私は大好きだったのだ。
だけど、一つだけ不満があった。学園パートのライバル役である『シャーロット・ジュベル』公爵令嬢のことだ。
彼女はいわゆる冷酷で高慢なお嬢様で、庶民出の主人公につらく当たり嫌がらせをする。そして、学園の卒業式でそれまでの悪事を暴かれ、修道院送りになる。初めてプレイしたときはざまぁと思ったものだ。
しかし、政争パートで彼女の実家であるジュベル公爵家と戦うことになると、彼女の性格が父の教育によるものであることや幼い時に母が亡くなっていること。シャーロットが父が無理やり孕ませた庶民の女の子供であること。そして、母の死んだ原因が庶民の女のせいであると父に吹き込まれたこと(実際はシャーロットが自分の子ではないと知ったことによる自殺)などがわかってくるのだ。
つまり、シャーロットが冷酷で高慢なのは全て父のせいなのである。これでは修道院送りになったシャーロットが可哀想過ぎる。
私は何度もシャーロットの修道院送りを阻止しようとプレイしたが上手くいかなかった。最終的に攻略サイトを頼ったがどのルートでも防ぎようの無い強制イベントだと書かれていた。
それを知ってから、私は政争パートで必ずジュベル公爵家を叩きのめすようにしている。せめてもの復讐、みたいなものだ。
何でこんな話をしているかというともうすぐ私は死ぬからである。
未だ完璧な治療法は見つかっていない病気のせいで。
今は病院のベッドの上だ。今夜が峠らしい。
お見舞いはいない。両親は死んでいるし、友達とは仕事をやめてから連絡を取っていない。
独り心残りを考えていたら頭の中にシャーロットが浮かんだのである。
彼女を救ってあげたかった。いや、幸せになって欲しかったのだ。
私はクズ男のせいで人生を狂わせたシャーロットに共感していたのだ。彼女が幸せになることで私も幸せになれるんじゃないかと、そう思ったのだ。
ああ、神様。もうじき死ぬであろう私の最後のお願いです。
シャーロットにも幸せになれるルートがありますように…………。