7 少年と少女と、悩む女の子。
「今回二人が頑張ってもらう相談はね、匿名希望の女の子からなの。」
部長から貰ったカップケーキとハーブティーに、泉と一緒に舌鼓を打っていると…ふいに部長が語り始めた。
「その女の子ね、最近魔法の成績が良くないらしくて…で、その理由と、解決策を教えてくださいって内容だったの。」
その言葉を聞いて、俺らは何とも言えなくなってしまった。…特に、泉はその言葉に感じる所があるようだった。
泉はその特殊な魔法適性な為か、魔法に対して劣等感みたいなのを抱いている…と、俺は感じている。ただでさえ、あまり良い噂(陰口的な意味の方)を聞かない特殊科に所属しているのだ…無理もない。
魔法適性以外にも劣等感を抱いているだろうが、それは大なり小なり皆が皆、何かしら抱えているだろうから割愛する。が、やっぱり泉にとって、魔法に対する悩みは放っておけないのだろう。
「その子にさっき…部室に来る前に会ってきたんだけど…魔法の特性は中距離から遠距離に掛けての砲撃魔法。成績は、本当に最近落ちてきてる…でだ、いずっちゃん。」
「モグモグ…占っても良いですけど、あんまり当てにしないでくださいよ?」
ううん…過剰に期待させないための泉の言い分も最もなんだけど、過小評価のし過ぎも良くない…って思うんだけど…泉は、自分に厳しすぎると思う。…今度、本人に言ってやるか。
…今は触れないが、折り畳みのパイプ椅子の上に体育座りも行儀悪いってのも、言ってやろう。…どうせ聞く耳持たれないんだろうが、口に出して言わないより全然マシだろう。…スカートの中身が見えなかったら良いって問題じゃないと思うんだ、俺。
「いずっちゃんは、もう少し自信持っても良いと思うよ?じゃあ、いずっちゃんが成績が落ちてきた理由を占いで探すとして…私としー君で、その理由に対する解決策を探すとしようか!!」
「そうですね、その役割分担でいきましょう。…ん、ごちそうさまでした。美味しかったですよ、部長。」
「ごちそうさまでした。…部長のお菓子とお茶は、美味しいから好きです。」
「へへっ、しー君もいずっちゃんもありがとう!!」
それにしても、魔法の成績が悪くなってきたか…魔法には、先天的な才能と心身の安定が不可欠。で、話を聞く限りだと…最初は良かったのに、最近落ち込んできた様だから…恐らく、後者の心身の安定の問題だろう。
「それじゃ、二人とも食べ終わったね?それじゃ、行こっか!!」
先程同様、部長に俺らは手首を掴まれ…この小柄な体に、どれだけの力が隠れているのか、とっても疑問に感じてしまうぐらい強烈な引っ張りで俺と泉…部長、ちゃっかり占い道具が入った鞄を泉に持たせてから引っ張ってるし…。
…まぁ、素直に引っ張られやすい様、体の力を適度に抜いている俺らが言えた口ではないのだろうけど。
「この人の行動力には、敵わないな…。」
「その点は、全く同感だ…。」
引っ張られながら泉と、苦笑いだが笑い合う。僅か一年の間に、名前の呼び名も含めてすっかりこの人の行動力に慣れてしまった。
…去年は、この人は部長でも何でもない、自分達と同じ平部員だったのにも関わらず…しかも、今年から部長に推薦されたのに、俺達平部員の間では、すんなり『部長』って呼び方が馴染んでいた。不思議だなぁ。
「はい、着いたよっ!!」
俺が地味に考え事をしながら連れてこられたのは、一年前まで俺や泉の教室だった――つまり、高等部一年の教室だった。
部活棟から渡り廊下渡って、廊下走って、少し階段上ったりしてたから、まさかとは思っていたが…また、懐かしい所に来たな。
「あ〜…でも一年だったら、余計にそう言うのは気にするな。」
「魔法適性分かって直ぐだし…ちょっとした事でナーバスになりやすい時期だよな。…私は、自分の魔法適性知ってすぐにちょっと落ち込んだけど。」
まぁ…反射って、攻撃と防御を併せ持った凄い適性だと思うんだけど…確かに、使い勝手は良くないよな。
「いずっちゃん、反射以外にも占いがあるじゃん!!」
「小遣い稼ぎにはなりそうですが、それを将来の仕事にするのはちょっと…。」
有能で良く当たる占い師や未来予知者は、数ある魔法使いの中でも一握りな存在。故に、国から直々にスカウトに来るぐらい重宝されるが…裏を返せば、そこそこな占い師は結構居る訳で…泉の発言は、強ち間違ってはいない。
泉自身、占いにそこそこな才能はあるのだが…如何せん本来の魔法適性じゃない魔法を使っているので、そこそこ止まり…らしい。
「でも、支援科の占い師の卵達は、大体の人達が占いの腕を上げようと必死で、部活とかに参加しないからな…泉みたいな人材は、普通に有り難い。」
「そう言われると、喜んで良いのかどうなのか、微妙な気持ちになるんだが…まぁ、今は良いか。さっさと占って、問題見つけましょう。」
いつになく占う事にヤル気な泉に、腐れ縁な幼馴染みとしては少し驚いたが…言われてみたら泉の言う通りなので、部長に先導されつつ、かつて自分達の教室だった部屋に足を踏み入れた。
教室内は、去年と変わらず…精々、壁に貼ってあるポスターとかが違う程度だった。…が、やはり学年が変わってしまったせいか、一歩踏み入れただけでソワソワと据わりの悪い落ち着かない気持ちになった。
幸い、相談者と思われる女の子しか教室に居なくて、泉共々針のムシロにならないで済んだのだが。
「お待たせ、柳川さん。」
「テイラー先輩…そちらが、お話に出てきた…。」
「そう。こっちが島津時雨君で、こっちが汐田泉さん。もう話したけど、二人とも高等部二年生で柳川さんの先輩だよ。」
へぇ、相談者の名前は柳川さんって言うんだ…見た感じ、少し大人しめな普通な高校生って感じだけど…。
「よ、よろしくお願い…します。」
「ん…お役に立てるよう、頑張らせてもらう。」
わぁ…無表情でやる気満々の泉って、久しぶりだな…。あんなにやる気出すの、昔家族ぐるみで行った食べ放題で、元取る為に頑張ってた所を見て以来、俺は見た事ないな…。
「んじゃ、最初はいずっちゃんの番ね。しっかり原因を探ってね!!」
「分かってますよ。」
近くにあった机の上に占い道具の一つである水晶玉を取り出し、机に付いていた椅子を拝借して、水晶玉が置いている机越しに柳川さんと向かい合あって座った。
「それじゃあ、今から始める。…気を楽にして欲しい。」
「は、はいっ!!」
柳川さん…ガチガチに緊張しちゃってるなぁ。…占いって、つまりは自分の内面を他人に見られるって事だから、緊張しても仕方ないんだけど…占う側からしたら、リラックスしてもらわないと占いにくいらしいんだよね…。
「うむ…そうだな。柳川さん、私は特殊科に所属してるんだ。」
「えっ!?」
急に泉がそんな事を言ってきて、柳川さんだけでなく…俺も部長も、声には出さなかったけど驚いた。
「魔法適性が分かった時は、勿論落ち込んだよ。…ある意味役立たずな訳の代名詞だからね、特殊科って。」
「そ、そんな事!!うちのクラスにも特殊科の子居ますけど、とても凄い子なんですよ!?」
「ふふ…元気出た?」
「えっ…あ、す、すみません…。」
「いや、確かに君の言う通りだからね。…さっきのは、半分以上自虐だよ。」
「汐田先輩…。」
「じゃあ、占うよ。気を楽にして。」
「…はい。」
確かに柳川さんの緊張は取れたみたいだが…何と言うか、泉の自虐も大概にして欲しいと感じてしまった。
これは部長も同意見だったらしく、部長も険しい顔をしていた。