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5 少年と、今朝の出来事。


専攻学科の授業も、生徒会の定例会議も終わり、俺は旧校舎を改装した部室棟にある、とある一室を目指した。…まぁ、単純に俺が所属してる部活に行くってだけなんだが。


「はぁ、疲れた…。」


この部室、旧校舎の三階の一番突き当たりにあるもんだから…専攻学科の授業は兎も角、あの生徒会長の相手をした後じゃ色々キツイ…主に精神的に。


「おや、時雨じゃないか。どうした、確か放課後は決闘じゃなかったか?」


「あぁ…今朝、そんな事も…あったな…。」


ドアを開けたら、先に部室に来て窓際の指定位置に居た幼馴染みの泉に言われて…そう言えば、今朝辺りそんな事を一方的に言われたなぁ…っと思い出した。


あの顔や制服からして、同じ学年でも先輩でもないから…恐らく高校一年生…俺の後輩だろう。


一年生男子のドワーフは何人か居た筈なんだけど…ううん、高校の全校生徒全員を把握している訳じゃないから、良く分からない。


学校内に居るドワーフ自体の人数はそれほどでもなかった筈だから、ドワーフだけを把握するのは難しくないんだけど…こんな事なら、さっきの生徒会の定例会議の時、どさくさに紛れて新一年の名簿を見ておくんだった…。


「どうやら、そうとうお疲れの様だな…そんなに、あの生徒会長の相手は大変なのか?」


「そうだな…上手く言えんのだが、大変なのは確かだ。」


俺の事を好いてくれているのは、有り難いのだが…あんな分かりやすいスキスキアピールは、正直どう接して良いか分からないし、急に喜ばれたり、かと思ったら怒られたりするのだ。あんな風に、自分の感情を表に出す感じは、今まで会った事がない人種で…正直、今はまだ戸惑いしかない。


「ほら、飲むか?」


泉が差し出したのは、ペットボトルに入った冷たい麦茶だった。…麦茶って、まだ春先にも売ってるモノなんだなぁ…。


「ん、貰うわ。」


泉は、そんなに表情の変化がしないが…こう言った、然り気無い気遣いが出来る。…そして、その気遣いを気遣いだと言われるのを、スゴく嫌がる。このお茶だって、自販機に良くある『当たりが出たら、もう一本』ってヤツで当ててしまって、処分に困っていたから…とかなんとか言われてしまうのだろうが…例えそれが事実だとしても、俺は…泉のそう言う不器用な優しさが好きだ。


貰った麦茶を、一気に半分近く飲む。…全部飲めなくはないのだが、それをしてしまうとお腹がタポタポしてしまい、後々辛くなるので控えるようにしているのだ。


「ぷはっ…はぁ、生き返る。」


「一気に結構飲んだな…ま、良いや。今日も何件か来てたぞ。」


「お、マジか…部長が来るまで暇だから、先に読むか。」


「どうせ部長が来たら、読む暇なく馬車馬の様に働く事になるからな…。」


俺や泉…あと数名の部員と部長が所属している部活は、ボランティア部と言うのだが…このボランティア部、世間一般から認知されている、所謂普通のボランティア部とは、下手したら名前が同じなだけで全く違う何か…そう断言できてしまう部活だ。


利益を目的としないと言う点は、おそらく普通のボランティア部と一緒なのだろうが…俺からしてみたら、『お悩み解決部』の方がしっくり来る。


「ん〜…『とても可愛いかった妹が、ついに先週反抗期を迎えてしまいました。でも、その反抗的な態度に胸キュンが止まらない俺は、どうしたら…。』って、これは…。」


「書面にするか…このタイプ、対面して話聞くだけでもろくな事がない…。」


普段から余り表情を変えない泉が、こんなに嫌そうな顔を…泉はこんな風なタイプの人に、何かされたのだろうか…取り敢えず、これは聞かぬが花…かな。


「あ、これは会った方が良いかも。『彼氏にお弁当を渡したいのですが、彼の好物である玉子焼きが上手く焼けない…何か、コツとかありますか?』ってやつ。」


「確かに…『急募!!美術部助っ人!経験者、未経験者は問いません!!』…どこのアルバイト勧誘だよ…って感じたな。」


「美術部、コンクールとかと平行してて何か作ってるとは聞いたけど…そんなに切羽詰まってるのか…心苦しいけど、今は美術部の方は保留かな?」


「そうだな…『好きな人が居るのですが、その好きな人には別に好きな人が居ます。俺の方を振り向かせたいのですが、どうしたら良いと思いますか?』…これは、書面だな。…こっちに相談する前に、自分で動け…と言いたくなるが…手紙を見る限り、どことなく藁にもすがるという感じもするな…。」


「相手が何が好きか…とか、色々な面からアプローチを掛けてみよう…但し、その相手や周りに迷惑な行為は止めなさい的な手紙を送ろうか。」


この様に、生徒から送られて来た悩みを、俺ら独自の見解で解決していく部活なのだ。…何がどうして、部長はこの部活にボランティア部って名前を付けたのだろうか…。


「む?時雨、これまだ続きがあるぞ。『追伸、そちらの部活に、占いが得意な方がいらっしゃいましたよね?出来たら、その方に今後を占ってほしいです。』…だと。」


「すっかり、泉の占いの事有名になったなぁ…。」


「私が占っているとは、誰も知らないけどな。」


確かに…泉が占いが出来るとは、校内で俺ぐらいしか居ないだろう。泉は、相手の魔法を自分の魔法に変えて放つと言う魔法の他に、占いが得意で、そちらの方が目立ってしまうからだ。


占いの方法としては、ダウジングや水晶玉を用いた物になっている、泉の占い…支援系魔法の分類の中に一応占いも含まれているので、高校に進学した時にやんわりと進めてみたのだが…それほど高確率で当てれないとの理由で、断られた事がある。…今のでも、十分当たっていると思うのは俺だけなのだろうか。


「一応占えなくはないが…本人と相手が来ないと正確な相性とか言えないし…何より…な。」


「何より…何だ?」


珍しく良い澱む泉に、俺が疑問を感じて聞き返した時だった。


バァァンッと、ドアがブッ壊れたんじゃないのかと思うほどに、部室のドアが、強烈な開かれ方をした。


「てめ…島津時雨ェ!!俺との約束を忘れていたあげく、彼女とイチャイチャしてるとかどう言う了見だっ!」


あぁ…誰かと思えば、今朝のドワーフ君ではないか。人不足で頭のネジが取れた美術部の人が、人員確保するために来たのかと思った…。


「えっと…言い訳する用で悪いけど、今日は生徒会の定例会議があってね…定例会議の後は、本当疲れるから…朝した約束、すっかり忘れてた…後、こっちに居るのは彼女じゃなくて幼馴染みだ。」


「ふざけんな!!俺が…俺が、どんな思いであそこで待ってたと思ってんだ!!」


あー…なんと言うか、純水な自分がバカみたいで物凄く恥ずかしいよな…俺なら、顔真っ赤にして、全力疾走で家に帰るなぁ…。


「ほ、本当ゴメン!!えっと…どうせなら、今から決闘する?」


「…ば、ばかっ!?疲れてんだったら、今日はもう良いよ!!…そうだ、明日!!明日の放課後!!帰りのホームルームが終わってすぐ、また仕切り直すから、絶対遅れるなよ!!じゃあなっ!!」


来た時と同じく、バシンッとドアがブッ壊れるんじゃないかってぐらい勢い良く閉めた彼の背中を見送ってから…ふと気付いた。


「あっ、俺あの子の名前教えてもらってない!?あの子、俺の事はフルネームで呼び捨てにするのに!!」


「そう言えば、そうだな…あ、このオヤツ旨いぞ。」


…泉が良くやる、人が落ち込んでたら食べ物で慰める手法…嫌いじゃないけど、俺は犬や猫じゃないんだから…って、正直思ってしまう。


それでもまぁ、一応オヤツは貰うんだけど。




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