4 少女の力と、シャワー。
カロンさんのお陰で、いつもより断然素早く動けるようになった私は…カロンさんがソナーで発見した中で一番手前に潜んでいる生徒に、真っ正面から突っ込んでいった。
私が何の躊躇もなく突っ込んで来た事に、相手の生徒は一瞬驚いた様だったが…すぐに、バカなものを見る様な雰囲気を出し、こちらに複数の火の玉を飛ばしてきた。
そりゃあ、支援魔法で何の強化もしていない状態だったら、たどり着くまでに終わってしまう…それこそ、ただの自殺行為な訳だけど…私の場合は、それだけじゃない。
「(ソフトボールサイズの火の玉かぁ…。)」
ああ、ダメだ。
こんなんじゃまだまだ…私の力を使うにはまだまだ、足りない(・・・・)、足りない(・・・・)のだ。
いや、火の玉自体が特別威力が低い訳ではない。当たったら、とても酷い火傷になってしまうだろう…そこら辺は、防御魔法が得意な先生がどうにかしてくれるだろうが。
だが私は、ソフトボールサイズの火の玉を強化された動体視力に物言わせてそのその動きを見切り、強化された脚力で無理やり走り抜けるという力業でかい潜り、更に生徒との距離を詰めていく。
視界が悪いのは相手も同じ…故に、素早く動いて狙いを定めさせないようにする。そうすれば、相手だって多少は混乱してくれるだろう。
何せ、初っぱなの魔法を無理矢理避けたのだ。そこで既に混乱している時に、ダメ押しと言わんばかりのこの素早い動きだ…ただ、こんなアクロバットな動きしたら、こっちも気持ち悪くなるのが難点だけど。
後一歩――強化により、普段に比べたら三倍ぐらい大きな歩幅の場合でだが――私がその生徒に近付けば…その生徒は、自分が放った魔法による二次被害で負傷する危険性があるため、魔法が使えなくなる。
「…!汐田さんっ!!」
その後一歩を踏み込もうとしたその瞬間、私の視界の端に青色が写り込んだ。
この生徒と一緒に組んでいた子が、咄嗟の機転で援護したのだろう。魔法ならではの物理法則ガン無視して、水の柱とも表現できる水流が、私目掛けて横一直線に襲いかかってくる。
…ああ、これ(・・)だ。私は、これ(・・)を待っていたのだ。
一歩踏み込もうとした足を無理矢理急停止して、そっと、私はその水流に手をかざす。カロンさんが掛けてくれた魔法のお陰か、単に脳が極限状態にいるからか、音のない、酷くスローモーションに感じられた。
本来なら、私を吹っ飛ばして、後ろの木に激突させ、激突時の激痛や強力な水流で意識飛ばして…普通に私を病院送りにするであろう、そんな凶暴で凶悪な水流は、私の手に触れた途端…文字通り、跡形もなく、消し飛んだ(・・・・・)。
「さぁ…私達の、反撃の時間だ。」
私は、水流が飛んできた方…ではなく、上空に手をかざし、思いっきり魔法を放った。
大粒の雨と呼ばれるものよりかなり強烈な水滴が、辺り一面…勿論、私達にも降り注いだ。
「きゃあっ!?ししし、汐田さん!!急に何するです!?私達、びしょ濡れです!!と言うか、水滴が肌に当たって痛いです!!」
「いててて…だって、『食べた』魔力は何かしらで放出しないと…それに、あのまま普通に魔法を反してたら、向こうさんも危なかったですし。」
この場に居ない男子に変わって一言…水に濡れたカロンさん、雰囲気変わってかなり美しいです。やっぱり、その顔は化粧ではなくマジモノか…いやはや、何にしても…凄く良いもの見れた。
そんな大量の水を降らせた訳ではなかったので、三分もしないうちに水は降り終わったが…私を中心とする辺り一体は水浸しで、部分的には、何やら川のようになってしまっている。
「(む、いかん…濡れたカロンさん見たさにやったは良いけど…明らかにやり過ぎた。)」
「はい、対決終了な。にしても、汐田…これでもかと局地的に、思いっきり降らせたな。」
「あ、先生…そこら辺は、あれです。まだまだ修行が足りないのですよ、私は。」
私達と同じく濡れ鼠の様な先生は、苦笑いしながら向こうを見た。…そう言えば、ちょっと気になっていたんだった。
「先生、今回って二対二の対決だったんですか?」
「アレ、言ってなかったっけ?まぁ…ぶっちゃけ調子に乗ってた生徒のプライドを、良い感じにへし折りたかっただけだしなぁ…これで奴らも、ちゃんと授業受けるだろ。」
…色々突っ込みたいけど、総じて言ってしまえば…先生の愛のムチって事にしておこう。最後の方、一応先生らしい事言ってたし。
「…ヒックションッ!!」
「あ〜…呼び止めちまって悪い。取り敢えず、お前らさっさと着替え…着替えて…ベックションッ!!」
「うわっ!?…もう、先生こっち向いてクシャミしないでくださいよ…普通に汚いです。」
「誰のせいでクシャミ出たと思ってんだ…まぁ、良い。お前らもう上がれ。」
言われるまでもなく、濡れ鼠のままだと風邪を引いてしまうので…さっさと女子更衣室へ下がることにした。
保健の先生のご厚意により、濡れた体操服は保健室にある洗濯機を使わせてもらって、私達四人(なんと、女の子同士を戦わせたのかあの教師)はシャワーを浴びた。女子同士だし、そりゃ多少の気恥ずかしさはあったけど…シャワーでホカホカになってしまえばどうと言う事はない。
「濡れた下着ってのが気になりますが…気にしてられないでしょうね…この学校、午後は専攻学科の授業だけで助かった。」
手動で絞っただけの下着達は…肌にペットリとくっついて、とても気持ち悪かった…これで授業を受けろとか、想像するだけで地獄だ…今日着けてきたのが、スポーツブラで本当良かった。
「それはそうと、です!!『食べた』魔力を捨てるのにも、他に方法がなかったのです!?」
「いやぁ、意外と魔力が多くて…。」
カロンさんの特徴が歌なら、私は相手の魔法を利用した…簡単に言えば、カウンター型の魔法が得意だ。と言うか…攻撃魔法も防御魔法も、それしか使えないのだ。
相手から受け取った魔力を、自分の体を介して自分の魔力に変換、その攻撃をそのまま撃ち出すって言う…何がどういう訳か、私は生まれつき、こんな方法じゃないと攻撃魔法が使えない。『攻撃は最大の防御』とまではいかないが、相手の攻撃を無効果している点だけ見たら、防御魔法とも言えるのが面白い所だろう。
純粋に反射する事も出来れば、今回みたいに多少変化を加える事も出来るのだが…これまた、元々他人の魔力だったからかコントロールがベラボウに難しいのだ…だから、ああいった風に大雑把にしか魔法が使えない。
しかも私の身体技能は、同い年の女子の平均よりちょっと上程度…一人ではまず実践では使いようがない、使い勝手の悪すぎる力である。
「ご、ごめん…私、いくら必死だからって…。」
皆してシャワーを浴びる原因になった、あの水の攻撃魔法を使った女の子が、私が追い詰めかけた女の子と一緒に、ションボリしながら謝ってきた。
ううん…私、反省している女の子を再度吊し上げて、攻撃する趣味はないからなぁ…ここは、穏便にいこうか。
「あ〜…まぁ、結果として皆無事だったし、何より皆水被ったし…実質上の喧嘩両成敗って事で良いか?私もすまない。私がもう少しコントロールが出来ていたら、少なくとも君達には水の被害が…。」
「…ふへっ!?あ、ああいや、うん…あ、ありがとう、許してくれて。」
…何だろう、この意図していなかった反撃を喰らった様な反応は…気になるけど、そろそろ教室に戻らないといけないから、さっさと制服に着替えて更衣室から出ることにしようか…。