3 少女と、『歌』の少女。
国立国際魔法学園のカリキュラムは、主に午前中に一般科目、午後から専攻学科の科目となっている。
専攻学科は、先天的な魔法適性により、大雑把に攻撃科、防御科、支援科、召喚科、薬学科、クラフト科、特殊科となっている。
攻撃科とも支援科ともなれる生徒は、個人の意思を尊重して片方の専攻学科へ行ける。
専攻学科内で、例えば攻撃科の場合は、学科内で近接型、中〜遠距離型、超遠距離型と分かれていたりする。魔法の射程等で分けているのかとかは、暗黙の了解で皆言わない。性質上、攻撃科、防御科、支援科、召喚科との合同授業も珍しくない。薬学科とクラフト科も同様である。…クラフト科だけどうしてカタカナなのかも、皆言わない。
特殊科とは、魔法適性的にどの専攻学科にも属さなかったり、使い勝手が悪すぎて専攻学科内で持て余したり、純粋に特殊な魔法が使えるみ出し者の巣窟になっている。故に、種族がとても国際色豊かな感じになっている。エルフ、ドワーフ、フェアリーと言った妖精種から、獣人、人間などなど…ここほど国際魔法学園を象徴する学科も少ないだろう…まぁ、どこの種族もはみ出し者は居ると言うことだ。
因みに、私はそのはみ出し者の一人だったりする。幼馴染みの時雨は支援科だ。
特殊科の生徒の中でも、比較的似通った魔法適性を持つ生徒同士で固まって授業を受けるのだが…正直な話、大半が担当の教師や生徒が授業と名の付いた雑談をしているだけだったりする。後は基本的実技だ。
「さて…じゃあ汐田さんにカロンさん。ちょっと攻防支の合同授業に参加させてもらえることになったから、ちょっと行ってみようか。」
担当の教師に呼ばれた私達。普通なら、大なり小なり喜ぶ所なのだろうが…。
「…大丈夫なんですか?」
「向こうさんも、色々な場合を想定した授業がしたいらしいからな。寧ろ、お前さんら色々しないと授業にならんそうだ。」
…仕方ないとはいえ、そう言われてしまったら何か複雑な気持ちだ。カロンさんも私と似たような事を思ったのか、とても複雑そうな顔をしていた。ただ、私と違ってカロンさんは美人だから、複雑そうな顔をしても美人だ…確か、フルネームだとアメリー・カロンだったかな。キレイなプラチナブロンドの、エルフさんだ。スラッとしたスレンダーな体形が、カロンさんの神秘的な雰囲気を増長させてる気がする。
「汐田さんは兎も角、私の魔法は、無差別過ぎるです。使い勝手、本当に悪いです。」
いまだにちょっとこっちの言語が不慣れな為か、言葉の最後に『です』を付けるのだけど…うん、一生懸命な感じがして可愛いですな。人によったら、かなりイラつきそうだけど。
「まぁまぁ…お前の魔法にだって、ちゃんと使い道はあるよ。それを見つける為の学校だ。」
「…はい。」
「それじゃあ、行くか。」
…先生、言葉巧みに渋るカロンさんを引っ張り出したな…確かに、カロンさんが得意とする魔法は、確かに無差別なのだが…まぁ、まだマシな方だと思う。だって、私が思い付く限りでもまだ良心的な使い道があるのだし。…その他の利用価値の降り幅ありすぎて、ちょっと怖いかもってのも本当だけど。
私とカロンさんは体操服に着替え、先生に連れられながら、授業でもっぱら荒事専用に使われる区画を歩いて移動する…私も、実は余り入った事がないから緊張してきた。…と言うか、だからこの前の授業で、私達だけ体操服用意しとけって言われたのか…。
「ほれ、今日お前らが頑張るのはここだ。」
「…森の中ですね。」
「本当に、森の中…です。」
深いと言う程薄暗くなく、かといって木がないわけでもなく…良くテレビや写真とかで見る、理想的な森…そんな感じだった。
「木々や岩といった遮蔽物多数に、岩や石、小枝や落ち葉、苔があるから足場も良いとは言えない…オマケに、私の攻撃方法は一般的ではないですよ?」
「私に関しては、攻撃ダメ絶対!!です!!私、まだ人を殺めたくない…これからも殺めたくない、です!!」
「わーってるって。危険と判断したら、ちゃんと教師陣が総力を上げて止めるっての…だから、安心してやってこい。それじゃあ、頑張りたまえよ若者よ!!」
…これを言ってしまったらかなり本末転倒なのだけど、担当教師のそのその言葉で安心してしまう人がいるなら、それはそれでもうダメなんじゃないか?特に、最後の言葉なんて、まるで世に言う死亡フラグのよう…この場合、私達が危ないって事になるけれど。
「ど、どうします、です?」
「…カロンさん、『歌』で周りを探れませんか?」
「そ、ソナー役は経験ないのです…ですが、頑張るです。もう、ここまで来たら自棄っぱちなのです!!」
「…そうですね。せいぜい時間いっぱい、八つ当たりするのも悪くないかもですね。勝ち星とか関係なく。」
互いにニッと笑い合ってから、カロンさんは深呼吸をして気を落ち着かせ、私はいつでも臨戦態勢が取れるように身構えた。
カロンさんの深呼吸が終わり、私の体に緊張で僅かに力が入った瞬間、カロンさんから『歌』が紡がれた。
――カロンさんは、魔法を歌として発声することにより魔法を発動させる。
カロンさんの家系自体、元々そのような素質を持つ人が多く生まれるようだったのだが…カロンさんは、その中でも群を抜いて強力な力を使えた。先祖帰りというヤツだそうだ。
強力な力故に上手くコントロールできず、攻撃魔法をイメージして歌えば、下手したら自身にもダメージが入ったりするし、防御魔法(この場合は恐らく結界)を使おうとしたら、敵はこっちに攻撃できないけど、味方の攻撃が敵に当たらない事もあったとか。
回復・治癒、その他支援系の魔法を歌えば、敵側にもその効果が発揮されてしまうらしい。…惜しい人材だとは思うけど、つくづく強力な力というのは、扱う側も扱われる側も、共に扱いに困るな。
でも、彼女一人で大体の支援魔法が使えるというのはプラス要素だろう…特に、敵との距離がこんなに開いているのなら…多少の支援魔法を掛けて貰えれば、私だってある程度なら戦える。今はソナーに付きっきりだけどね。
後、カロンさんは声量で魔法の威力の調節が出来るらしい。…もし全力で歌えて、なおかつそれが上手くコントロール出来るようになったら、言い方悪いけどバケモノになりそうだな、カロンさん…敵に回したくない。
「…近くて百メートル、遠くて二百メールぐらい、です。」
「そうか…思いっきり歌っちゃったら、支援魔法の効果が届いちゃうな…。」
逆に、こっちは中・遠距離の攻撃魔法をバッチリ喰らえる距離である…いやまぁ、はそっちの方が、個人的には好都合な訳なんですが…。
「小声でも、それなりに出来ますから…頑張るです。」
「迷惑掛けます…。」
とほほ…生憎私は、支援魔法との相性がすこぶる悪くて…自分じゃまともに使えないのだ。情けなさ過ぎて、精神的に泣きそうである。
カロンさんの、一つの声帯から出しているとは思えない複雑な歌が光となり私の体を包み…どうやら、カロンさんの魔法はしっかり掛かった様だ。
実はさらっと、一回に二個以上の魔法を重ね掛けするっていう高等スキルをカロンさんは使った訳だけど…端から見たらナンノコッチャな光景なんだよね。
「私は、自分を守るで精一杯です。汐田さんは、攻撃の要です。簡単には落ちないでください、です。」
「そうですね…はい、頑張ります。」
うわぁ、責任転嫁と言われても否定できないぐらいの言いっぷり…でも、そこまで美人に信用されたら、頑張らないとなぁ…。