2 少女と少年と、クラスメート。
私と時雨が通っているのは、国立国際魔法学園。正式名称はもう少し長いのだけど、大体巷じゃこんな風に呼ばれている。なお、国立と言うからにはかなり学力が要るのだが、そこは周知の事実なので深くは触れない。
名前の通り魔法を中心に学び、中・高・大を携えたマンモス校である。中学と高校は、大学の附属学校って形なんだろうが…それこそ今は必要ないので深くは触れない。
『国際』と名がつく通りエルフやドワーフと言った妖精種、獣人、とか多種多様の人種が居るのも特長だろう。獣人はベースになってる動物で部族が違うらしく…多いのは犬科と猫科をベースにした獣人だろう。数は少ないが、兎やリスをベースにした獣人だって珍しくない。
噂に聞く限りでは、学園内に鬼や吸血鬼とかの生徒も居たりするらしい…こう言ってはなんだが、東洋系の妖魔と西洋系の妖魔が同じ学校に通った場合、大丈夫なのだろうか?個人的に、大丈夫ではない気がする…いくら学校名に国際が入ってるからって、時にはハネないと生徒に危険が…と、言ったところで何か対策をしているんだろうな。国が自ら、自分達の名前に泥を塗るわけないだろうし。
…とまぁ、ちょっと現実逃避気味に学校の事を考えた訳だが…今現在、一時限目の古典の授業で、グループ学習の真っ最中である。正直、積極性が欠ける私からしてみたら、余り得意な授業内容ではないのだが…ここは、幼馴染みの力を存分に借りることにした。
…幼馴染みに頼りっぱなしもどうかと思わなくもないのだが。
「なぁなぁ、泉ぃ…この問題分かったか?」
「…時雨、これはこの前の授業で習った所だろ。ほら、教科書に答えが書いてあるから…ほら、このページ。あ、上谷さん。レポートのまとめ、頼んでしまってごめん…ハブれていた私をグループに誘ってくれて、ありがとう。」
「い、いいよ、大丈夫!!私は気にしないで、二人は自分の仕事をしてね?」
あら嫌だ、良い子だなぁ…ある意味、時雨には勿体なさ過ぎるぐらい良い子じゃないか。
…それに比べて、一緒に組んでいるもう一人の男子ときたら…やる気がないのは良いが、何もせずひたすらボーとするとは、一体全体どういう了見だ。その男子の名前覚えていない私が言うのも筋違いかもしれんが。
「おい、タツ〜…お前これ分かる?」
「時雨に分からない事が、俺に分かる訳ないだろう。」
「潔いぐらいスッパリ言い切ったな…。」
…なるほど。つまり、時雨とタツと呼ばれた男子は…古典がそれほど得意ではないと。
「え、えっと…まとめ、終わったよ?」
「すまんな、上谷さん。ほら、男子二人も上谷さんにお礼を…「ありがとう上谷さん、超助かった!!」…元気良いな、時雨は。」
「ありがとう、上谷…ごめん、役に立てなくて。」
「だ、大丈夫だよ竜宮くん。適材適所、だよ。」
上谷さんが書いてくれたレポートを見せてもらっていたら、グループメンバーの名前を書く所に、私、時雨、上谷さんの名前以外の名前――タツと呼ばれた男子の名前の全容が分かった。言われてみたら、当たり前なのだけど。
「(竜宮遥翔…か。)」
…リュウグウと書いて、タツミヤか。読み間違いに注意だな。下の名前は…よ、ヨウショウ?それとも、単純にハルトか?良く分からないが、『遥か翔ぶ』って名前は、素直に良い名前だと思う。読み方分かんないけど。
「(上谷さんは、由梨か…可愛らしい名前だ。)」
「おーい、泉。何ボンヤリしてんだよ。お前だけだぞ、今レポート仕上げてねぇの。」
「え…ああ、すまない。」
しまった。グループメンバーの名前に気をとられてしまって、すっかりレポートの事を忘れてしまっていた…いかんいかん。
「珍しいな、泉が授業中にボンヤリすんなんて。」
「…少し、な。特に深い意味はないんだが…良し、終わった。」
「早っ!?」
書き終わったと時雨、竜宮君、上谷さんに告げたら…上谷さんから驚愕と言わんばかりの声が上がった。…ちょっとだけ傷付いた気がしたが、頭のどこかで納得している自分も居たので、恐らくそれほどでもないと思った。
「む…だって私、半分は書いてたし…。」
「そーだぞ、上谷さん。俺やタツと違って、泉は100%丸写しって訳でもないしな!!同じテーマだから、レポートで書いてることが似ちゃうのは、仕方ないし。」
「…そうだな。」
「あぁ、うん…ありがとう?」
時雨よ…それは、威張っても仕方ないんじゃないか?一応誉められているみたいだから、反応はするけど…事実とは言え、自分達を貶して他人を誉めるなよ…素直に喜べない。思わず疑問符付けてしまったじゃないか。
さっきも言った通り、私がレポートを書き上げるのが最後だったので、さっさとレポートを先生に提出して採点してもらった。
レポートを提出した班から自習の様になっていたのだけど…予習復習するにも微妙な時間だったのと、何より私と竜宮君の席がまだ使われていたので、少しだけお喋りすることになった。
「じゃあ、念の為に自己紹介する事にして…最初は、言い出しっぺの俺からな。島津時雨、高二の十七歳。時雨だけに、四月九日生まれ!!趣味は…ん〜、ゲームかな。」
確かに、幸か不幸か時雨の誕生日は四月九日で、ちょうど語呂合わせが出来るのだが…数字的な意味で、あんまり良いとは言えないなぁ…五月十日の方が、まだ縁起良いだろう。大安吉日も大事だろうけど。
後、ゲームか…最近してないなぁ、ゲーム。カードゲームも、パズルも…今度、ソリティアでもしようかな。暇潰しに。
「…竜宮遥翔、高二の十六。誕生日は十月八日。趣味は昼寝。」
ふむ、末広がりの『八』が含まれている良い誕生日ではないか。と言うか、あの読み方はヨウショウじゃなくてハルトだったのか…読みづらいな。
そして…それは趣味か?昼寝って…嫌いではないが、夜に寝れなくなりそうだ。
「汐田泉、高二の十六。誕生日は十月三十日。趣味は読書。」
我ながら、とんでもなく中途半端に残念感が漂う日に生まれてきたな…まぁ、生まれながらイベント事にハブられる体質だったんだろう。ハロウィン自体は好きだけど。
「ええっと…上谷由梨です。高二の十七で、誕生日は五月の二十七日…です。趣味は…えっと、気に入った小物を集めてます。」
「おお、自己紹介が一番女子っぽいな。」
「おい、泉。お前だって一応女子だから…にしても、俺と上谷さんが誕生月が隣同士、泉とタツが同じ誕生月同士だったなんて…偶然って、あるもんだな。」
確かに、あんまりないかもな…クラス全体で何月生まれが一番多いかは知らないけど、誕生月が隣同士や同じ月同士の人と一緒になる確率は、高い方じゃないと思う…ただの、個人的な意見だけど。
…でも、十二星座に当てはめた場合だと、時雨は牡羊座だが上谷さんは双子座、竜宮君は天秤座だが私は蠍座になるわけだけど…ややこしくなりそうだから、黙っていよう。特に役立つ知識でもないし。
「運命…って程大それてはいないが、確かに偶然って言っても差し支えないだろうな。」
「…珍しい、泉からのってくるなんて。」
「最初は、どこの合コンだって思ったが…いやはや、時雨の話で、久しぶりに面白い発見をさせてもらったよ。」
「最後の方ちょっとキツくないか!?」
「ま、まぁまぁ…。」
幼馴染み同士のじゃれあいを上谷さんが仲裁してくれたお陰で、なし崩し的に自己紹介ネタが終わり、ついでにチャイムも鳴って古典の時間も終わり、私達(厳密に言ったら、私と竜宮君)は席に戻ったのだが…最後の最後まで、竜宮君は自主的に会話に参加しなかったな。
私も、時雨が居なかったら似たようなモノってのもあるし、暇の潰し方なんて十人十色な訳だから、何も言わないけど。