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1 少女と少年の朝。


私、汐田泉は…正直言って、学校において浮いている。


「ごちそうさま。じゃ、母さん、泉、行ってくる。」


「行ってらっしゃい、お父さん。気を付けてね。」


「…行ってらっしゃい。」


両親は揃って公務員、自立して家にいない兄も姉も公務員…ある意味、これ以上ないぐらい安定している家も、若干浮く要因になっているだろうが…それは些細な問題でしかない…まぁ、その問題は追々話すとして…家族仲はそこそこ良好だと思う。悪くわないけど、特別仲が良い訳でもない、そんな感じである。気持ち、女同士である分母親と仲が良いぐらいだ。今は居ないが、兄とも姉とも仲は良い。(両親と兄と姉の役職は、今は伏せさせてもらう。関係ないし。)


精々特筆すべき点は、朝御飯とかが当番制な事ぐらいだろう。別に、両親が共働きの家なら珍しい話しでもないが。


朝御飯を食べ終わり、食器を台所の流しに置いてから、歯を磨いたり顔を洗ったりして、最後に簡単な身支度を整えてから、鞄を持って学校へ向かう。母親は、まだ少しだけ出勤時間に余裕があるとかで家に居る。


「泉、おはよ〜。」


「時雨か…おはよ。」


玄関を出てすぐに、同い年の幼馴染みである島津時雨に出会う。コイツとは、幼馴染みという以外にも、小中…果てには高校までダラダラと同じクラスになり続けている腐れ縁でもある。


中学の時には、惚れた腫れたに敏感な奴ら中心に妙な噂が立ったりしたが、人の噂も七十五日というヤツで…もうすっかり腐れ縁の幼馴染みと言う立ち位置に落ち着いている。


「なぁ、泉。一時限目なんだったっけ?」


「確か…古典じゃなかったかな。」


「うぇえ、俺古典苦手なんだけ「知るか。」…だよなぁ…つー訳で、テストん時は頼むわ。」


「いつもの事だろ…。」


…一応訂正しておくが、私は特別古典が得意な訳ではない。そして…調子は軽いが、時雨は頭が悪いわけではない。これでも、学年では五本の指に入るぐらいには頭が切れる。それに比べて、私は平均より少し上ぐらい…つまり、これは時雨なりに気を使っているのだろう。学校では、時雨以外に親しい人が居ない私のために。


グダグタと会話をしながら、学校を目指す。と言っても、それほど学校から距離があるわけでもなく、すぐに学校目前の所まで来た。この学校は校庭を挟んだ先に下駄箱があるから、ここまで着てしまえばあと少しである。


「あ、島津く〜ん!!」


「よぉ、朝から元気だなぁ!!」


頭が良くて、気が回って、それでいて明るい。クラスは元より、学年の人気者にならない方が可笑しいだろう。天然物のカリスマ性があるのも、この人気に関係しているだろう。


程よく着崩した制服も、平均より少し高めの身長も、学校指定の鞄じゃなくてリュックを背負ってるのも…まぁ、似合っている。


…強いて言うなら、少し顔立ちが平凡気味なのと、イメチェンのためか校則ギリギリの範囲で染めた茶髪が、個人的に似合っていないと思うぐらいだ。


「本当、人気だよな。」


「そうかぁ?泉も、もう少し取っ付きやすくすれば、これくらい普通だって。」


「無茶言うな。」


何というヤツだ。全てが絶妙に噛み合って出来ているコイツに、私みたいなボンヤリした者が追い付ける訳ないではないか。


「おい、島津時雨っ!!」


急に背後から声が聞こえて、時雨と一緒に何事かと振り返ってみた。


女である私と同じぐらいの身長で、肌が浅黒くて、彫りが深くて、身長の割りにガッシリした体つきで…何より、特徴的なトンガリ気味の耳。


「(ドワーフ…か?)」


「き、今日の放課後に、け…決闘を申し込む!!」


「…は?決闘?今日の放課後に?」


「校則的には、先生の立ち会いがあれば大丈夫だった筈だ。」


「え、そうなの!?」


…時雨って、頭良いのに妙な所が抜けてるよなぁ…そりゃ、生徒手帳に書いてある内容を、暇だから覚えたて私も変なんだろうけどさ。


「い、言ったからな!!ば、場所は屋外闘技場!!遅れるなよ!!」


「ちょっ、良い逃げは卑怯だぞ!?」


決闘を申し込んだ男子生徒は…足が遅いと有名なドワーフとは思えない程素早い動きで、その場を後にした…不意打ちだったのもあって、時雨は口調とは裏腹の唖然とした顔をしている。


「まぁ…即座に否定しなかった時雨にも原因あるわけだから…うん、ドンマイ。」


「…マジかよ…今日、生徒会あんのに。」


学年の人気者で、頭良くて、気が回って、生徒会役員会…記憶が正しければ、会計だったか。


「時雨…お前、何かキャラぶっ込み過ぎじゃないか?」


「藪から棒に何だよっ!!ちょっとは慰めろっ!!幼馴染みが喧嘩吹っ掛けられたんだけど!?」


「心配も何も、時雨が負けるわけないじゃない。」


小学生までは、私と時雨の力量はギリギリ拮抗していたのだけど…中学の頃から、時雨の方が腕力も脚力も…何より体力に差がついてしまった。女と男の力の差だと言われてしまえば、その通りだからそれまでだが。


だが、それと比例するように、時雨は段々と強くなっていった。今では、時雨が負ける方が想像しづらいぐらい。


会話をしていたら下駄箱に着いたみたいで、慣れた動きで外履きから内履きに履き替えていたら…何やら、時雨が内履きに履き替えもせずに棒立ちしていた。…真っ赤な顔をしながら。


「…んだよ、泉。」


「何照れてんだ。事実じゃないか。」


「…そ、そうだけどよ…面と向かって言われたら、照れるなぁ…って。」


「どこの乙女だお前は…。」


「そ、それを言うなら、どこの男前だお前はっ!!」


「失敬な…負ける心配はしていないが、怪我する心配はしてるんだぞ?ドワーフは腕力強いし…さっきの感じだと、素早さもあるから…中々手強そうだぞ。時雨が得意な魔法の種類からいって、今回は真っ向から挑まないといけないな。」


いつのまにか内履きに履き替えていた時雨も、私の言葉に真剣な顔で頷いた。


「そうだな…いくら魔法で治せるって言っても、高校の保健士の回復・治癒魔法のレベルじゃ高が知れてるからな…気を引き締めねぇと。」


「いっその事、生徒会長に治してもらったらどうだ?生徒会長、高校生ながら回復・治癒魔法のエキスパートだろう?」


「会長はなぁ…俺、あの人苦手なんだよ…押せ押せだし。」


「年上巨乳金髪エルフ美人に押せ押せ状態なだけでも、世の男性陣は羨ましいのだろうけどな。」


「…泉の口から年上巨乳金髪エルフ美人とか聞くと、何か如何わしい様な、そうじゃない様な…不思議な感じだが、取り敢えずその口つぐめ!!」


時雨が言っても、大概だと思うけど…男である時雨が言うから、如何わしさが気持ち増してるな。


「ふぅん…じゃ、目下の所は古典頑張ろうじゃないか。」


「うげ、決闘とか言われて忘れてた…泉、ヘルプミー。」


と言ってもなぁ…私は時雨の隣の席でもなければ、席が近いわけでもない…助けを求められても、あまりサポート出来る気がしないし…ああ、そう言えば…。


「大丈夫、時雨の隣の席の上谷さん…確か私より古典得意らしいから。」


「え、上谷さんそうなの!?」


「は、はいぃっ!?」


頼んだ、成り行きでクラス委員長になった上谷さん…確か君、時雨に気があるみたいだったし。


さて、上谷さんに時雨を押し付けた私は、やれやれと肩を竦めながら自分の席についた。


席替えの時に、並みある不正工作を掻い潜り(単に、狙っていたクラスメートの頼み込みだが)純粋に運だけで引き当てた、窓側の一番後ろの席…そこから見える風景に目を細めながら、読み掛けの文庫本を開いた。



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