11 少女と野次馬、そして勝敗。
身近な人や、自分がかなり関わっている場合は勿論、たいして関係のない事だとしても、自分の行動範囲内に、それなりに大きな噂や話題になっていたりしたら、ついつい野次馬をしてしまうのが人の性だと思う。…良い例が火事とか、事件現場とか…まぁ、日常生活にはそんな感じに現れると感じる。…む、何か日本語が可笑しいな。
何が言いたいかって言うと…これもまた、当たり前ながら例外ではなかった様だ。
「島津時雨!!き、今日こそ尋常に勝負だ!!」
ベタに放課後の校舎裏に呼び出された時雨に向かって…時雨は勿論、野次馬として近くに居た人達まで――その例に漏れず、私もキーンと耳鳴りを起こしそうな大声で、彼は時雨に宣戦布告した。
…あの大声、この状況に対する恥ずかしさを紛らわす目的もあるのかね?もし同じ立場なら、私なら絶対恥ずかしいし。…まず、ドワーフの彼と同じ立場になれないって言うのは、言わないお約束です。
軽く見渡しただけでも…今やすっかり、校舎の窓…ただし、被害を受けないために二階からや、たっぷり距離を置いた野次馬の人混みとかが観戦してるしねぇ…本当、人がたくさん集まったもんだよ。
その大声が切っ掛けか、ついでに周りに集まった観戦者もとい野次馬からも、こちらも耳鳴りしそうなキャーとかワーとか、「島津負けるなよ~!!」とか、「島津君頑張って~!!」とか聞こえてきた…流石時雨、人気者だな。あちらこちらからそんな言葉が聞こえる辺り、ここの野次馬の大半は、時雨目的で見に来ているんだなぁ…私も空気を読んで、キャーって言ってみようかね?
…いや、止めておこう。棒読みになるか、それでなくても余りにも『お前誰だよ』って気持ちに、自分がなるから。自分でセルフツッコミが入ってしまうから。
「まず、俺君の名前知らないんだけどなぁ…。」
「お、俺に勝ったら、教えてやる!!」
…コッソリ聞いといて何だけど、それはちょっと公平ではないなぁ。
時雨は生徒会役員だから、それこそちょっと調べたら分かると思うけど…ドワーフの彼は、同学年でもない限り、かなり調べないと名前分からないではないか。…まぁ、この件で彼も随分顔は知れ渡るだろうから、そうなったら噂とかで直ぐ分かるか。正直あんまり興味ないけど。
「時雨ー、頑張れー。」
「やる気皆無な声援を、ありがとうな泉。」
キャーとかは無理だけど、一応…って気持ちがあったにせよ、それでも声援を送ったと言うのに、この男…まぁ、私が知っている時雨らしいと言えば時雨らしいけど。…そして、良く私の声援だけ分かったな。野次馬の人の波に流れ流されて、いつの間にか私が最前列に居るからかな。
「軽口叩くとか、よ、余裕だな!!」
「そう見える?」
「!!……その余裕、すぐになくしてやるよ!!」
上級生の余裕って言うより、ちょっとした現実逃避からくる余裕じゃないかな、とは言わないでおく。これ以上は、何かとばっちりが来そうだったし…私も野次馬根性出して観戦するか。
私が野次馬根性出したタイミングと、時雨とドワーフの後輩の間決闘の空気が張りつめ、野次馬に紛れていた審判係の先生が、やっとこさって雰囲気で人混みをかき分けて、野次馬の最前列に移動してきた。…ああ、来たは良いけど、野次馬の生徒達に弾かれてたのね。
やれやれと首を振ってから、そっと手持ちの笛――ここからだと良く見えないが、多分プラスチック製や金属製のあるあの笛を口にくわえた。
「はいはい…俺も怪我したくないから、頑張るけど…ね!!」
ピッという笛の音とほぼ同時に、バンッという音と土煙と共にふっと時雨の姿が見えなくなった。そう思ったら、次の瞬間…あのドワーフの彼の後ろに時雨が居た。…あ、何か私、もうオチが見えたんだけど。
「なっ!?…ガハッ!!」
案の定、ドワーフの彼が振り向いたタイミングで時雨の拳が彼の顎を捉えた。それで、ドワーフの彼の頭が揺れたか何かした事により、ガクッと膝から崩れ落ち、それを時雨が咄嗟に抱き止める形になった。
…うん、ナイス時雨。そこで抱き止めなかったら、ドワーフの彼、思いっきり頭から地面に突っ込む所だった…って、何解説してるんだろ、私。普通に時雨が勝って、倒れてきたドワーフの彼を抱き止めたって言えば…言ってないけども。
「し、勝者、秋津時雨!!」
ちょっと何が起きたか理解していないっぽい先生が、ハッと気が付いた様に時雨が勝った事を、周囲に聞こえるように言った。
それで堰が切れた様に、ワーだのキャーだの…地響きの様な歓声が沸き上がった。さっきより明るい雰囲気なのは、やっぱり時雨が買ったからかなぁ。
…でも、歓声を上げている人達も、一応近寄ってこないぐらいの理性は残っていた様で…必然的に、私一人が時雨に駆け寄る事になってしまった。…ま、良いか。後悔するのは後にしよう。
何で駆け寄ったって…まぁ、それは何となくとしか言い様がないのですけど…くっ、だから後悔するも、恥ずかしくなるのものは後にしようってばっ!!
「あ、泉…。」
「後輩相手に時雨ってば、大人気ないな…ほぼ無傷で事は終わらしたけど。」
「勝ったのに、酷い言われようだな…顎の怪我は保健室に運ぶまでもないとは思うけど、頭揺らしたし…念の為運ぶとするか。」
恥ずかしくなってきたから、悪態の一つでも吐かないとやってられない…とは、言わないでおこう。また恥ずかしくなるから。
でも、やっぱりそこまで面倒見てこそ時雨だよね。…例え大丈夫だったとしても、何事においても素人の判断ほど怖いモノはないし…その考えには私も賛成だ。
「私は手伝わないから、頑張れよ。…今保健の先生居るか確認してくるぐらいは、するけど。」
「なんだよ、それ…。」
先輩とは言え、女に運ばれるほどプライドがズタボロになる事もないと思うんだけど…このツッコミは、どちらかと言えば…保健の先生が居るか居ないかの確認に対してかな?
いやぁ…こういうタイミングで、保健の先生が外出していたとか最悪過ぎると思ってだな…これでも時雨を労っているつもりなんだがなぁ。伝わりにくいよな、やっぱり。もう少し分かりやすく労りたいけど、多分これ以上は無理だろうしなぁ…時雨の理解力に掛けるか。
「じゃ、行ってくる。ついでに、ベッド使えるかどうか交渉してみる。…保健室に行く途中で、彼起きそうだけど。」
「ああ、そうだなぁ。顎、そんなに強く殴った訳じゃないし…まぁ、出来たらベッド使えるように交渉しといて。」
「了解。」
どうにか時雨との間で話がまとまった所で、ふと後ろを振り返って、思わずウゲッて気持ちになった。
だって…保健室に行くまでには、あの野次馬の中を突っ切って行かないといけないんだよなって思ったら…ちょっと面倒じゃないか。人混みの間を縫うのは得意だけど、それにも限度があるって言うか…。
どうあがいても人混みをかき分けて行かないといけないので、ならばその中で最短で行ってやろうと思い…それでも、やっぱりウンザリした気持ちで野次馬の中に入ろうと人混みに近付いたら…どこぞの伝承の湖みたいにサッと、人一人が通れる分の隙間が出来た。
…え、有り難いけど…何で?え?確かに、そちらから避けてくれたら有り難いなぁとは思いましたけど…え?
人混みをかき分けて保健室に向かわなくても良くなった気持ちより、どうして人がサッと避けたのかが全く分からなくて困惑した…ま、まぁ、楽して行けるようになったんだから、今は深く考えないで…というか、深く考えないようにして保健室行こう、保健室。




