10 少女と少年、青春の一ページ
時雨の家からキャベツを貰った次の日、いつも通り朝御飯を食べていたら、何気なく付けられたテレビのニュースに気になるモノがあった。
掻い摘まんで説明してしまえば、ここら付近で妙な力場が発生したらしい。
それの詳細は不明だが、力場が発生した場所が廃墟…もとい、取り壊し途中の建物内部だった事から、警察やそれに準ずる機関は、どうやら事件性があると疑っているらしい…と言うか、ニュースでは言葉をぼかしているが、十中八九魔法がらみの事件だろう。
でなかったら、ニュースキャスターは『妙な力場』など曖昧な表現をせず、小難しくももう少し科学的な言葉を使った気がする…専門家とか呼んでさ。
それは両親も気が付いた様で、心配そうな声で聞いてきた。
「最近物騒だな…泉も、気を付けなさい。」
「一応、護身用に『杖』でも持っていけば?学校に居る間は、学校に預けたら良いんでしょう?」
「…ん、そうする。」
本音を言えば、ちょっと両親は考えすぎだと思う。しかし、安心させないと言う選択肢を選ぶ程、私は捻くれるいないつもりなので、朝御飯を粗方片付けてから、部屋に『杖』を取りに行った。
…最近の『杖』は、古き良き棒状のタイプではなく…ブレスレットやネックレス、イヤリング等のアクセサリータイプが主になってきている。
別に棒状のタイプが無くなったわけではないけど、若い人で使っている人は少ない…と思う。交友関係広くないから分からない。
アクセサリータイプは見た目や落下の危険性が下がり、棒状のタイプは魔法の射程が僅かながら上がり、いざという時に武器にもなる。どちらにしても良し悪しが付いてくるのだけど…私は、私の魔法の特性上、アクセサリータイプになっている。私の場合は、本当射程とか関係ないし。
因みに、遺跡から発掘された、それこそもっともらしい杖や、特殊な加工を施され、魔力を通すだけで様々な魔法や特殊能力が使える宝石とかは…所謂アーティファクトやレリックと呼ばれ、研究対象や軍事に役立てたり、モノによったら、国から直々に与えられたりするらしい。
…まぁ、どちらにしても私には縁遠い話だが。
部屋に置いてあるキャビネットの引き出しの中にある、親戚のお土産の寄せ木細工の秘密箱を取り出し、記憶を頼りに引っ張ったりスライドさせたりしていく。…どうして秘密箱に仕舞ってあるかと言うと、単純な理由で…杖も貴重品だから、申し訳程度の防犯対策ってだけだ。
開いた秘密箱の中には、もう一つ――今度は藍色のベルベット地の小さな箱があり…その中には、シンプルなデザインで表面がツルリと加工された、やや大振りな青い石のペンダント・トップが入っていた。
銀色の繊細な細工が施された台座に留められたそれを、そっと手のひらに移す。
この青い石は特殊な加工を施されており、魔力を流せば、一つの魔法であれば即座に発動させる事ができる。その変わり、この杖では魔法はそれ以外は使えないから、性能だけ見たら今の主流より数世代前の型だったりする。
今の杖は、杖そのものでも魔法を多少演算し、複雑な仕組みの魔法を短い時間展開したりして、現代の魔法使い達を助けている。それと比べたらこれは…一つの音しか出ない楽器の様なモノだ。
「ま、だからって旧世代の杖が、新型の杖に劣ってるって訳じゃないけどね。」
ペンダント・トップを手にしたまま、箱が入っていたのと同じ引き出しに仕舞ってあった、絡まらないようにと別にしていた革紐を取り出して、素早く元のペンダントにしてから首に下げ、服の下に隠した。…こう言う時、しっかり制服を着る習慣をしていて良かったと思う。
壁掛けの時計を見たら、普段だったらそろそろ家を出る時間だったので、荷物のあるリビングに急いで降りた。一・二分過ぎた所で遅れたりしないが、時間が迫れば慌たりはする。
「行ってきます…って、父さんは仕事行かなくて良いのか?」
「ああ、今日は非番だからな。その代わり今日は付き合いがあって帰りは遅いから、ご飯は準備しなくて大丈夫だ。…夜食はあると助かるが。」
「あらあら…私も残業しないといけないから、帰りが遅くなるのだけど…確かに、夜食あると嬉しいわねぇ。」
非番なのに付き合いに、残業…か。我が親ながら、大変だな。つか、ちゃっかり本音が出てるぞ、二人とも…。
「……うどんで良いか?」
「夜食あるだけで嬉しいから、うどんでも構わないぞ。肉うどんだと、なお嬉しい。」
「私はキツネうどんかしら?」
…確認したかっただけなのに、リクエストされてしまった…いやまぁ、リクエストされないよりかは全然マシなのだが。
「…じゃあ、本当に行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
「行ってらっしゃい、泉…帰りには、気を付けるのよ?」
母親の言葉に苦笑いをしながら、私は玄関を出た。
確かに私の『反射』はレアスキルらしいが、私が未熟だからか効果範囲も反射のコントロールも今一つ…一応女だから、そう言った身の危険の心配をしているのだろう――そう思うことにした。
玄関を出てすぐに、時雨とバッタリ出会った。どうやら、私の事を待っていた様だ。
「…また、妙な噂が立つぞ?最近収まってたのに。」
「言わせとけ言わせとけ。噂自体、泉にも、そして俺にも関係ないし。」
そりゃ関係ないが…時雨と仲が良い私は、何かと妬まれる対象なのだ。時雨は関係ないが、噂自体に勘弁してほしいって気持ちがある。
「…もしかして、ニュース見たのか?」
「俺、朝はニュース見る派って知ってるよな?」
「格好良く言ってるが、単にニュースの後の占い見るついでだろ…。」
「うるせー。」
でもまぁ…この幼馴染みが、噂を気にせず私を出待ちしていた意味が分かっただけでも良しとしよう。
「ま、もしもの時に時雨が居てくれたら心強い…私だけじゃ、どうしても先手は取れないからな…。」
カウンター型の性で、私一人だけだと、どうしても後手に回るしかない…しかし、時雨は支援タイプ。この間の授業みたいな戦闘も、出来なくはない。と言うか…私は私の魔法的に、前で戦わないと真価を発揮しないのだ。
「…なんか、そう聞いてるとサポートしか出来ないんだよな、俺って。」
「サポート『しか』って言うな、時雨。私みたいに、そのサポートで助かる人だって居るんだから。」
「それもそうなんだけどさ…男なのに、女の子に守られるって思ったら…少し、思う所があってだな…。」
確かに、言われてみたらそうかもしれない…。
「でも、私はいつも助けてもらってるから…お返しとして受け取っておいたらどうだ。」
「え、俺が何時、泉の事助けたって?」
「…何でもない。」
こいつ、まさか真面目に無意識に…いや、野暮な事は考えない様にしよう。時雨は元からこういう奴だったし…今下手に感謝の言葉を言うより、ちゃんと言葉にした方が良いだろう。
「…なぁ、時雨。」
「何だよ、いきなり改まって…。」
ちょっと時雨と距離を取って立ち止まり、一呼吸置いて、タイミング良く近くの桜の木に残っていた淡い色の花弁が目の前を横切った時に。
「時雨の幼馴染みになれて、私は幸せだよ。」
精一杯の感謝を伝えてみた。
「………お、おう、急にどうした。」
「感謝の気持ちを伝えただけだが…やめろ照れるな、こっちまで照れるだろ。」
「照れさせたの泉だろ!?」
ああ、そんなに人が居なくて、その人達がこちらを見ていなくて本当に助かった。…あんな青春の一ページを見られたら、そしてからかわれたりでもしたら、流石に恥ずかしい。




