閑話~クリスマス番外編~
クリスマス。
家族や友人、恋人と静かに過ごすも良し、にぎやかに過ごすも良し、とにかく美味しいものを食べ、親しい人と笑顔で過ごす幸せな年末行事のうちの一つである。街中がこの時期になるとそわそわして浮かれている。城内で新たなカップルができるのが多い時期でもある。
現に、昨年のクリスマスには文官のアイドルで広報室所属のアイリスちゃんと二人、高級レストランでディナーをし、煌びやかに飾り付けられた大樹を見に行ったものだ。その後多忙に多忙を重ね毎日に追われているといつの間にか目も合わせてもらえなくなっていた。何故だ。
まぁ、そのことはどうでもいいんですよ。次です。次。私は、過去は振り返らないようにしていますからね。ですから今年はどうやってクリスマスを過ごそうかと、何ヶ月か前から楽しみにしていたのに。
「なぁヴォイス。これ、どう思う。気に入ってくれるかな。」
「さぁ。どうでしょうね。」
「おい、真面目に聞けよ。俺は真剣なんだぞ!」
クリスマス直前を控えた今日、我が主に連れられ城下町までやってきた。先ほどから若い女性が好みそうな店をいくつも回り、何か見繕ってはいちいち意見を求められている。もうどうでもいい。疲れました。
「なぁ、なぁ、このオルゴール!どっちがいいかな。幸せの象徴のハトもいいし、こっちの金のウサギも可愛いと思うんだ。うーーん。」
「どっちも買ったらいかがですか。」
「そうだな!俺、買ってくる!」
適当に返事を返したのに、こういうときだけ素直な我が主は二つの商品を大事に抱えいそいそと会計を済ませている。包んでもらっている間もまた何か見つけたのか、店主に品物を渡して購入するようだ。
「待たせたな!」
満面の笑みで戻ってきて店を出る。少しは休憩を挟んでくれるかと思えば、そのまま隣の宝石店にも顔をだし、宝石が散りばめられた熊の置物を購入していた。何の種類かわかりませんが魚を咥えた熊の置物なんていらないと思いますけど。第一、熊がリアルすぎて可愛くないですし。
持ち運ぶには思いその置物は屋敷に届けるよう依頼してから店を出る。朝早くから出かけ、どっぷり夜につかるまでつき合わされ、荷物持ちもさせられ、ようやく家に帰ってくる。
「はぁ~。なんか足りない気がするんだけど。まぁ、当日はまたケーキとかクッキーとかも買っていけばいいか。」
一日で結構な大金を使ったというのにほくほくした満足顔で、自室に戻ろうとする。いや、ちょっと待て。
「ちょっと!何自室に戻ろうとしてるんですか!今日は何一つ仕事が進んでいませんよ!」
「えー。ヴォイスやってよ。俺じゃなくてもできるやつだろ?俺もう今日は一日歩いて疲れた。」
じゃ、と手を上げると逃げるように自室に戻っていく。って、今日はこっちが我がままにつき合わされてへとへとだというのに!疲れただと?どの口が言うか!
「待ちなさい!今日のノルマを達成するまで来週の遠征はさせません!」
「は?お前に何の権限があって・・・」
「私の手にかかれば遠征の許可などなんとでもなるんですよ?」
「チッ。分かったよ。」
今、舌打ちしました?この人。こっちがどれだけ今度のクリスマスのために苦労しているか・・・ぎろりと睨めば主は慌てて執務室に走っていった。
今年のクリスマス。我が隊にとっては安息の日ではない。
「ヴォイス~。今年のクリスマスさぁ・・・・」
嫌な予感はしたんですよ。せっかくあと一息で書記長官の秘書のアイビーちゃんをお誘いできると思ったのに。
夜8時を回る頃には街の明かりが徐々に消えていく。
柔らかなオレンジの光も、食欲をそそる香ばしい匂いも、恋人たちの幸せそうに寄り添う姿も、家族が楽しそうに食卓を囲んでいる風景も無い。高級レストラン?んなもんない。
ただ、王都では稀に見るほどのホワイトクリスマスだ。積雪もの。ぱらぱらと降るのではなく、これは災害のひとつだろ。昼間から晩まで雪かきをして回り、夜にまた降り出したから明日も朝から雪かきに追われるに違いない。なのに。
「ヴォイス、俺明日はちょっとあそこに行ってくるから。」
明日こそはせめて会話を!と意気込み、早々とこの村に唯一ある宿屋の寝室に戻っていく。
クリスマス前夜。
今日はとある国のはずれにある村に来ている。その名もエール村。つい何ヶ月か前にこの村に寄ったとき、主は雷に打たれるほどの衝撃の出会いをしたらしい。
一方的に。
つまり一目ぼれ。そして事あるごとにこの村の近くに遠征し、この村に滞在している。宿も狭く店も夜早くに閉まるから隊員には大不評だ。その苦情を誰が受けると思う?私ですよ!私!!
クリスマスを前にまたこの村に立ち寄る理由をなんとか取り付け、任務を終えて村に帰ってきたと思えば、村人に頼まれて雪かきをし・・・今年は家族や恋人と過ごせなかったと嘆くものもいれば、どうせ独りで過ごすくらいならと開き直っているものも。ただ、クリスマスの夜にムサイ男どもが小さな宿屋に集まりその食堂で飲み明かすってのは寂しすぎると思う。
そして当日。朝から雪かきに勤しみ、昼を過ぎて王城に帰る支度をしていると、主が陽気な軽い足取りで帰ってきた。
「おや、意外と早いお帰りで。もうよろしいので?まぁそろそろ呼びに行こうかと思っていましたが。」
荷物を荷馬車に積み込む手を休めることなくどうなったかを聞いてみると、満面の笑みを浮かべた。なんだかイラっとした。こちとらムサイ男たちと朝から雪かきをして汗だくになったというのに、そっちは想い人といちゃこらしていたというのか。
「プレゼントも渡せたのですか?」
「あぁ!もちろんだ!」
半ば投げやりに聞いたのに主は気が付かない。
「プレゼントは教会の玄関に置いてきたぞ!それから、聞いて驚け・・・・ついに彼女の名前がわかったぞ!“りいや”というらしい。教会のガキに聞いたから確かな情報だ。」
自身たっぷりに言い放つその笑顔は素晴らしく、「で?」と続きを聞くに聞けない。こんな純真な眼なんて何年ぶりだろうか。
「・・・良かったですね。」
「あぁ!今年のクリスマスは彼女をあんな近くで見れて・・なんて幸せなんだ!」
思い出したのかうっとりとした顔になる主に一抹の不安を感じ、この人が想い人と会話をするようになるまで何度この村に通わなければならないのだろうかと思いをはせた。
クリスマスすべりこみ・・・アウト?