序章
「――で、わが社を受けた動機というのは?」
「はい、私自身御社の製品開発に非常に関心があり、関東でのシェア率も上位を維持していることからみても、魅力的だと思いまして。キッチン製品の開発などには――」
「ああ、じゃあ栗木さんは製品開発に携わりたいと?」
「あ、はい。私自身火力技術に関わる経験がありまして…」
「ほう、どこか研究室にでもいたのですかね?最終学歴は普通科高校ですが」
「いえ、学歴とは別に…私的なものですが」
「ああ、そう」
担当の面接官はメガネをクイッとあげ、履歴書に再び目を移した。
俺もそこで説明するのをやめ、しかし背筋を伸ばしながら俯いた。
「じゃあ、今日は後も詰まってるんでこの辺で終わりましょうか。結果は一週間後くらいに通知しますので」
「はい」
こりゃまた「お祈り」だな。
何度か面接をうけ不採用の感だけが経験として蓄積された。今日受けたのは都内のキッチン製品メーカー。まだ中小企業の割に中々成長の見込める企業ではあったが、もちろん簡単ではない。
20歳過ぎの高卒男が何の経験や資格もなしに、職に就くのがこんなに難しいとは。自分にある特徴と言えば、あの欠陥能力<スキルエラー>くらいだ。合コンですら受けが微妙なこの能力が就職に上手く機能するとは思ってない。だから今も現に15社目の手ごたえが皆無でいる。
まさか超能力を手にした人間が就職に困るとだれが考えただろう。
アニメの中だと超能力者ってのは闇の組織に属していたり、学生だったりするよなあ。そうだよ、あれがいけない。アニメやラノベは他作品を模造してばかりでそういった肝心のシーンを描こうとしないんだ。超能力者のバトルシーンじゃなく、就職活動シーンをちゃんと描いてくれていれば、俺もこんなに苦労せずに済んだのに……。
栗木宗太
21歳 独身
最終学歴 高卒
免許 原付
職業 フリーター
個人情報云々のため返却された履歴書を眺める。もちろん欠陥能力のことは書いていない。
「ニートの能力者か……笑えんなあ」
ふと独りごちたところで、不意に携帯が鳴った。また母からの買い物電話かと思えば知らない番号だった。
「もしもし」
『栗木宗太さん、ですね』
「はい」
すこし間をおいた女の声だった。俺は就職関係のことだと思いつい背筋をのばし硬直したが、どうやら様子が違った。
『私セゾンスター社のものですが、少しお話をよろしいですか?「炎傷のドットスキル」』
「え……」
そう、俺らしくもない、その始まりは無駄に演出的だったのだ。