Happy Valentine's Day
私、ユリエ。
30歳、独身。
趣味、失恋ソングをメイッパイ聞く事。
特技、相変わらずのネガティブシンキング。
彼氏、不在。
今日は人生30回目のバレンタイン。
この日の存在すら、忘れてた。
慌てて当日スーパーの特設会場で仕入れてきた。
渡す相手は、お客様。
バレンタイン、本当は何を伝えたいんだろう。
本当は、本当の心の声を伝えたいのに。
どうすれば人の心にダイレクトに届けられるんだろう。。。
そんな気持ちと裏腹に、
勇気を出して、全てをさらす事に何の意味があるんだろう。
何を感じて、何を得られるんだろう。
とも思ってしまう。
チョコレート1つで壁が崩れおちるのだろうか?
本命ギフト
ホントはコーヒー豆を贈りたかった。
もちろんトムに。
でもノコノコと渡しに行けるそんな甘い関係に
あるはずない。
バレンタインマジックにかかるのは
一定の距離を保ててる人だけ。
もしくは1番近い距離の人だけ。
捻くれ者の今の私は、そう思う。
どこかで素晴らしい言葉を耳にした。
“強くなることしか選択肢がなくなった時に、初めて、あなたは強くなれるのです。”
まさに、今だ。
今の私だ。
無くすものなんて何もない。
トムに嫌われた今、何も恐れるものなんてない。
今、私は強くなるしかないんだから。
それでも今日と言う日に私は動かずにはいられなかった。
何かのイベントだと許される気がして。
誰かに紛れてでも、受け取って欲しくて。
トムと私、2人でベタ(魚)を飼っていた。
1匹だと広すぎる水槽で私の息子、三郎は怯えながら
それでも優雅に泳いでいた。
ある日トムも1匹のベタを買ってきた。
名前はベタな鈴木さん(笑)
もともとベタは温かい国のお魚。
そして同じ空間にもう1匹が侵入すると
互いにいがみ合い、一生戦う。
それでもトムが一軒家をうまくリフォームして
同じ水槽に2匹が同居、2世帯住宅にしてくれた。
三郎と鈴木さん。
1枚の透明の壁でお互いを意識しながら
それでも互いが我が物顔で泳いでいた。
私が餌をやれない日にはトムがいつも、与えてくれた。
お家の掃除も改装も、全てトムがやってくれた。
きっと今でも変わらず世話をしてくれているのだろう。
だから今日、そんな情景が懐かしくて
“Dear Saburou and Suzuki-san”
と餌を贈った。
ついでとみせかけてトムにも
いつも好きで食べていた
イチゴのホワイトソースがけチョコを贈った。
『世話してくれてありがとう。』
この言葉だけ。
直接渡せる勇気もなく
ポストに投函。
本当は何を伝えたかったか。
きっとトムは知っている。
私の気持ちを知っている。
お礼とか連絡が欲しいんじゃない。
じゃぁ何が欲しいのだろう。
もぉそれさえ。自分で自分が分からない。
会いたいか?
と聞かれると、心の底から会いたくない。
成長してない自分を思い知らされるのが怖いから。
話したいか?
と聞かれると、声も聴きたくない。
声に乗せて、今までの会話を思い出して
泣けてきそうだから。
存在だって隠したい。
じゃぁなぜ。。。
別々の道を歩くなら
せめて、友としてでなく
良きライバルとして、生活していきたい。
これが一番の気持ちかもしれない。
そぉ、私たちは
『三郎』と『鈴木さん』なんだ。
この小さな街で、
生活範囲が決められてる街で
出会わない事の方が、難しい。
トムと私には見えない壁と距離がある。
それでも風の便りはいつでも届く。
私とトムは同じ街の水槽で
お互いを牽制して、生きている。
そぉ、きっと一生まじわる事もなく。
それでも今日という日に感謝したい。
バレンタイン、私の一歩を踏み出させてくれた。
トムに背を向けて歩く、大きな一歩。
水槽が同じだけで、満足すぎる幸せだ。
私は井の中の蛙でも、それでもいい。
いつか私が大きくなれたら
トムに正々堂々伝えに行こう。
『ありがとう』と。
その時私は、三郎の様に、鈴木さんを威嚇しながら
それでも優雅に泳いでる私でありたい。
意味があっての、水槽だ。
私はこの水の中で精いっぱい溺れない様に
泳ぎ続けないといけない。
今の私じゃ、何も変わらない。
甘えすぎてた自分。
夢よりトムを選んだ自分。
トムが何より最優先だった自分。
輝かなくなった自分。
愛されなくても
せめて、せめてトムが愛してくれた私になりたい。
そうなるための“今”なんだ。
バレンタイン、私が贈る番なのにまた
トムから1つを教えてもらった。
離れてても、Happy Valentine's Day...