心とココロ
「おはよう……」
「お、おはよう!!どうしたの、元気ないね愛結美?」
「うん……疲れが取れなかったみたいなの。起きてからずっと体が重くて」
「大丈夫?あんまり無理しないで。運動するのも控えたほうがいいかもね」
「うん……ごめんね祐也、心配かけて」
「ううん、いいよ」
監督から衝撃の事実を聞かされて一晩たったが、愛結美は休んで元気になるどころかさらに疲れているようだった。話すのも一苦労といったところだ。祐也は昨日のことが気にかかっていてあまり眠ることができなかった。愛結美の過去、そして子供たちの異変。しかも、愛結美にも高い確率で起こりうることだと言われたのだ。心配どころの騒ぎではなかった。だが、話を聞いたあとに裕翔と今後の愛結美の対応として、いつもどうりに接したほうがいいということになった。下手に心配してボロを出せば監督が責められる。それは避けるべきだ。
その日も、愛結美は部活をせずに帰った。体調が優れないのなら戻るまで休めとキャプテンに言われたからだ。決勝戦までは俺たちでなんとかするからサポートは帰ってきてから全力で頼むと言われていた。しかし、次の日もその次の日も、愛結美の体調はよくなるどころか日に日に悪くなる一方だった。最近では学校に来ても保健室で休んでいることがおおい。でも、なぜか学校を休むことはなくて、毎日なんとか登校してきてはぐったりとして友達に保健室に連れて行かれていた。祐也は愛結美のそんな姿を見て、監督に聞かされた話を思い出していた。もしかしたら。そんな考えが頭に浮かんでは打ち消すように何かに集中する。でもいつのまにかまた同じことを考えていて、振り払う。その繰り返しを何回したのかもわからなくなった。裕翔も同じような状況で、放課後に二人で話し込んでしまうことも少なくなかった。
「弥城……」
「祐也、紀谷はどうだ?」
「今日も保健室に連れて行かれてた」
「そうか……」
「なんで、そこまで学校に来たがるんだろう……たぶん、すっごくきついと思うんだ。なのに、毎日歩いてきてすごく体力つかちゃって、保健室に連れて行かれて……」
「祐也、紀谷がそうするのは理由があるんだろ。お前にとってはなんでもないことでも、紀谷にとってはすごく大切なのかもしれない。お前だって、自分がすごく辛くても、大切なもののためならあきらめないだろ」
「そうだけど……でも、やっぱり俺は愛結美に体を大事にして欲しいよ、監督の言っていたことが本当なら、今の愛結美はとても危険な状態だと思うんだ。だって、おかしいだろ?急に体調が悪くなって、休んでも治らないし、どんどん悪くなってる。もしかしたら、もうすでに」
「おい、祐也!そんなこと言うな!!」
「でも、でもっ!!愛結美がそうなる可能性は高いって監督が言ってたじゃないかっ!!」
「だからってそう悪い方に考えるな!!監督だって可能性が高いって言っただけで、必ずそうなるとはいってない!なんでそう後ろ向きに考えるんだ、お前らしくない!!」
「だって、こんなびょ、うき、聞いたこと、ない、しっ……ヒック」
「泣くなよ……確かに、こういう症状の病気は聞いたことねぇけど、俺たちが知らないだけで案外誰でもなるのかもしれないだろ。怒鳴って悪かった、もう泣くな。男だろ、みっともないぞ。ほかのやつに見られたらからかわれるのがオチだぞ」
「うん……ごめん、弥城。俺、ちょっと思いつめてた。もう少し気楽に考えてみるよ」
「ああ。お前が泣いてるって知ったら、紀谷、心配してさらに症状悪くなっちまうかも知んねぇだろ、顔拭けよ」
「わかってるよっ!よし、明日からまた愛結美に元気になってもらえるよう頑張ろう!」
「そうだな」
なんかすっきりした、と笑いながら涙の跡を拭く祐也と自分の分の荷物を持ってさっさと歩き出す裕翔はまだ知らない。これがまだ始まったばかりだということを。愛結美がなぜそうしてまで学校に来るのかを。それを知るのはまだ先のことなのだった。