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小さな小さな違和感


キーンコーンカーンコーン……


授業の終わりを知らせるチャイムの音が鳴り響いた、その瞬間……


「よし!!愛結美、瞬介、部活行こう!!!」


「え、はやっ!!祐也、もう帰りの準備終わったの!?」


さっきまで数学の授業で半分死にかけていた祐也の目に光が戻った。それもそのはず、今から放課後、つまり部活の時間なのだから。大好きなメンバーで大好きなサッカーができるというのは、彼にとって三度の飯よりも大切なことだ。


「まさか、置き勉なんてしてないよね?」


「え、し、してないよ!」


「いいの?この前も先生に怒られてたじゃない」


「うぐっ……持って帰ります……」


「ほら、やっぱり!」


「全く、祐也ってほんとに懲りないなぁ」


「う、うるさいよっ!」


等と軽口を叩きながらも部室へ急ぐ。もちろん、置き勉していた分の教科書は愛結美によってカバンに詰め込まれた。長年使われて滑り止めが磨り減ってしまい、滑りやすくなった階段に気をつけて降りながら、また祐也の笑い話に花を咲かせる。階段を降りた生徒昇降口でほかのクラスになった裕翔と涼介の二人に合流して、校舎を出る。こんなふうに二年生全員が一度に揃って部室に行くことは珍しく、いつも以上に会話が弾む。


「でさ、この間涼介がさぁ!」


「に、兄ちゃん!!その話はしないって言ったじゃないか!!」


「あはは、ごめんごめん」


「え、何があったの!?教えてよ~」


愛結美はそんな彼らを少し離れた後ろから楽しそうに眺める。さっきまでは会話の中に入っていたが、なんだか疲れてしまい、輪の中から出ていたのだ。最近、なぜかすぐに息切れを起こしてしまう。もとから体力がなく、体も弱かったが、普段の生活で困ることはなかった。なのに、最近はしゃべるだけでも体力を使ってしまう。走ることもあまりできない。普段の生活だけで体力を使い切り、夜は倒れこむように眠る。そんな生活が続いていた。しかし、もうすぐ県大会への出場をかけた地区予選の決勝戦を控えている祐也たちには迷惑をかけられないし、マネージャーとしてサポートしなければならないので気づかれないようにしている。


「どうした、紀谷」


同じように、あまり会話の中に入らずにいた裕翔が話しかける。彼はもともと、あまり人と仲良くするのが得意ではなく、どちらかというと近寄りがたい雰囲気と鋭い視線に周りも怯え、いつも一人で静かにしていることが多い。だが、根は優しく、心配性な彼は仲間の異変にもすぐに気づいた。


「え?わ、私がどうかした?」


「いや、どうやら最近辛そうな顔をすることが多いと思ってな。今もあいつらとはなさずに一人でいたし、何かあったのか?体がキツイなら少し休めばいいだろ」


「ううん、違うの。大丈夫、なんだか最近体力が落ちてきたみたいなの。大丈夫、心配ないよ」


「そうか?俺たちなら大丈夫だ、ゆっくり休んだっていいんだ」


「大丈夫だって、マネージャーなんだし、プレイヤーに気を使わせたらいけないね。もうすぐ地区予選決勝戦があるんだから頑張らないと!」


「ほんとに大丈夫か?俺たちもできることは手伝う。無理はするなよ」


「わかってるよ」


大丈夫と言い張る愛結美をまだ心配そうに見つめながらも、本人が言っているんだしとこれ以上の詮索はしない。愛結美は裕翔に気づかれたことに少し焦ったが、なんとかごまかせたことに安堵していた。二人がそんな会話をしていたとは思っていもいない祐也たちはだいぶ先に行っており、もう部室にいた。


「あれ、愛結美と弥城は?」


「そういえばいないなぁ」


「どこいったんだろう、もしかして……弥城くんが愛結美さんに告ってるんじゃない!?」


「ええ!?」


部室についてやっと二人がいなかったことに気づいた三人は、そんなことを言っていた。


「うそ、あの弥城が!?女子に興味なんかなさそうなのに……」


「返事はどうなんだろう……もしかして付き合っちゃってたりして!!」


「誰が付き合ってるんだ?」


「それは弥城くんと愛結美さんが……って弥城くんっ!?」


「へぇ、そんなこと考えてたのね」


「愛結美さんっ!?」


「少し俺とはなさないか、涼介」


「いやぁ~~~~!!」


朝の決意はどこへ行ったのやら、ズルズルと裕翔に引きずられていく涼介。祐也はその光景にものすごいデジャヴを感じていた。


「はぁ……」


そんな彼らを眺めながら、愛結美はため息をついた。やっぱり、少し張り切りすぎているのかもしれない、地区予選決勝が終わったら、少し休みをもらってゆっくり体を休めよう。あ、でも今年も県大会に出場できる可能性は高いから、やっぱり県大会終わってから……などと考え事をしていると、キャプテンたち三年生も集まってきたので練習の準備に取り掛かる。息切れはするが、それほど深刻なことでもなさそうだし、とタオルの準備をする。今はまだ、サポートに専念しなければ。それが彼女のだした結論だった。




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