弥城裕翔の説教
「おっはよ~う、皆!」
「あ、おはよう、祐也!!」
「二人とも、朝っぱらから元気だよなぁ」
「おはよう、皆」
「はよ」
「愛結美、遅いよ~!!」
ここはサッカー部室。なかにはついこの間進級したばかりの二年生部員と三年が数人。今は朝練の前で、もうストレッチを始めている人までいる。早く準備しなきゃ、と愛結美に急かされて祐也も道具の準備を始める。
「瞬介ぇ~、これ運ぶの手伝って!!」
「オッケー、今行くよ」
「弥城くん、オレこれ以上は、いかない、って、痛い痛い痛い、ちょっと待って!!」
「知るか。怪我でもしたらどうするんだ、涼介」
「だからってそんなに押さなくても……って、痛いから!!痛い、ギブッ!!」
「祐也、ここでいいんだよね?」
「うん。サンキュー、手伝ってくれて助かった」
ドタドタとあっちに行ったりこっちに行ったり、騒ぎながら準備をする時間は、忙しいけれど楽しい。サッカーをしている時も楽しいけれど、この時間は皆とワイワイできる。祐也はそのメンバーでいられることが時々、とても誇らしくなる。
背が小さく、その俊敏性を生かした双子の弟とのディフェンスは鉄壁だと言われている最上瞬介。
足が速く、連携プレーが得意な瞬介の双子の弟の最上涼介。
口は悪いけど実は優しく、頼れるエースストライカーの弥城裕翔。
サッカー部のマネージャーで常に部員のために動いてくれる、紀谷愛結美。
全員性格も何もかも違い、個性豊かなメンバーだけど誰にも負けないぐらい仲がいい、と祐也は思っている。実際、これほど仲がいい部活はいないだろう。やっぱりこのメンバーでよかった。俺って運がいいなぁ等と祐也が独り言をつぶやいていると、不意に後ろから襟首を掴まれた。
「え、なになに!?誰!?」
「祐也、今朝事故に遭いそうになったんだってな。この前言ったこと、忘れたわけじゃないだろうなぁ?」
「あ、あはは……そんな、聞いた五分後には忘れて思い出しもせず事故に遭いそうになっても忘れたままなんてことないですよ?」
「ほう……つまり、忘れてたってことだよなぁ?これは……また俺が一から教えてやるしかないか。そうだな、お前は何回言っても覚えないんだし、ちゃんと覚えるまで向こうの部屋で勉強会でもやるか」
「え!?いや、でも朝練……」
「キャプテン、こいつ借りていきます。少し話をする必要があるので」
「ん?ああ、別にいいぞ。ちゃんと解決してくるんだぞ?」
「はい。おい、行くぞ」
「いやぁ、たすけて~~~~!!」
「ドンマイ、祐也!」
「兄ちゃん、なんでそんなに笑顔なのさ」
「だって、楽しそうだし?」
「兄ちゃん黒い……ほんとに俺の兄ちゃんなんだろうか、この人……」
「弥城くん、祐也泣かさないでね?慰めるの大変なの」
「ああ。行ってくる」
このあと、祐也はミーティング室に連れて行かれ、散々裕翔から説教をくらったあと、愛結美に慰められたようだ。祐也はその後しばらく裕翔を見ると隠れるようになったとか。
「愛結美さん、祐也大丈夫なの?断末魔のような叫び声あげてたけど……」
「たぶん、大丈夫だと思うけど……」
「涼介、気にしちゃダメなのさ」
「そ、そうなの?」
「うん」
涼介は、そんな祐也を見て裕翔に説教されるようなことだけはしないようにしようと決意したらしい。