あらすじ
静かな朝、まだ人々がやっと動き始めたくらいの時間―――
「よしっ、今日は河川敷の方まで走ろう!!」
何やらとても元気な男の子が一人、少し古びたアパートらしき建物から飛び出して、そのまま走り去ってゆく。あっという間にその後ろ姿が遠ざかり、角を曲がろうとしたとき……
「祐也、危ないっ!!」
「え?」
ビュンッ、と目の前を通り過ぎる自動車。おそらく、名前を呼ばれて立ち止まっていなければ、轢かれていただろう。自動車の運転手が文句を言っている。
「す、すいません!!」
「全く、危ないよ!!ちゃんと止まらなきゃ、轢かれちゃうじゃない、祐也!」
「愛結美!ありがとう!」
「ほんとに、もう……これ、弥城君に言いつけるからね!」
「ちょ、弥城だけはやめてよぉっ!!また俺説教じゃんかぁっ!!」
「自業自得でしょっ」
「うぅ~……」
少年の名前は水嶋祐也。そして、傍らにいる少女は、紀谷愛結美。共に同じ中学のサッカー部である。祐也はフィールドプレイヤー、愛結美はマネージャーとして日々部活に励んでいる。しかしそんな日常は二人を中心に、サッカー部、そして監督や家族までをも巻き込んで崩れ去っていく。
これは、自分の非力さを呪い、自分の運命に絶望しながらも前を向き、それでも先へと進んでゆく少年少女達の姿を記した回想記録。