第6話「クヨウの災難」
今回はわりと長めになりました。
「くっ、このままだとまずい」
クヨウは必死に戦っていた、しかし、敵は圧倒的な戦力を誇りクヨウが堕ちるのも時間の問題であった。
「せめてレンヤがいれば・・・」
この場にレンヤがいないのは絶望的であった。もしレンヤがいれば打開策の一つも思いついたであろうが、今この場にはクヨウしかいないのである。
そして、刻一刻とクヨウの意識は削られていくのであった。
「ここまで・・・か・・」
最後に力を振り絞るも力尽きていくその時、救いがやってきた!
カランカラ~ン
「はっ!いらっしゃいませ~」
第6話「クヨウの災難」
はじまりは数日前のことであった。
カリィが新商品の宣伝用の用紙とサンプルを貰いに来た日である。
「おはようございます~」
「おはようございます、カレーさん」
「いえカリィです。クヨウさん、もしかしなくてもわざとですよね?」
若干青筋をうかべつつカリィは笑って聞く。
「ん~、嫌がらせとかではないですよ。そのほうがおいしそ・・・・じゃなかった、覚えやすいですから」
「何か今、妙な単語がでたような気もしますが?」
「そんなことはないですよ、気のせい気のせい」
クヨウは笑ってごまかす。カリィも愛称だと思えばいいと自己完結した。
「それで書いておいてもらえましたか?」
「あ~、はい。こちらになります。それで使い方なんですが・・・・」
クヨウはカリィにポーションの使い方を説明していった。カリィも最初はそうでもなかったが、次第に驚愕の表情を作っていった。
「クヨウさん、随分とすごい物を作りましたね。昨日は随分強気だなぁ、とは思いましたがこれなら納得ですよ」
カリィも一端の商人であるので、ポーションの利便性にすぐに気がついた。
元々この世界の回復用の道具はいくつかあって、一般的傷を治すのは「薬草」「回復薬」「高級回復薬」である。薬草から回復薬へ、回復薬から高級回復薬へ、改善されていったのは回復量と効果時間である。しかし、どれも共通することがある。それは安静にしなければならないこと。これがゲームであれば即時回復といくのだが、生憎と現実ではそうはいかない。
回復薬や高級回復薬は優れた薬である。しかし、戦闘中、特にモンスターと戦っている時等回復する場合は隠れたり一時避難しなければならない。もし即時回復を望むなら、回復魔法を使うしかない。魔法が使えなかったり、魔法使いが仲間にいない場合は即時回復は不可能である。クヨウが作ったポーションは回復量こそ初級の回復魔法並で、回復薬には劣る量である。しかし、即効性が非常に高いのである。それこそ初級魔法並に。
この即効性が今までには無かった部分であると同時に、売れる要素でもある。
基本的な利便性から応用性まで需要が高いのだ。
「応急処置には最適ですねぇ~、回復薬との併用で怪我の治りも速まるでしょう」
「それでは、こちらがサンプルになりますので、お願いします」
カリィはサンプルを受け取ると、商人ギルドの支部へ戻っていった。それに合わせるようにして、レンヤが戻ってきた。
「クヨウ、容器の注文完了したよ。なんとか200個作ってもらえるよ」
「ん~、りょう~か~い。でも200個もよく注文を受けてくれたねぇ。まぁ助かるからいいけど」
「ちょっと前に大口の注文が終わって暇だったらしい、向こうも喜んでたよ」
レンヤは朝一からポーション用の容器の発注をしに行っていたのである。それはクヨウが前日の夜に「ポーションの数が足りないかも」と気づいたからである。現在在庫が30個ほどで、緊急で作っても50個ほど。行商が来た場合かなりの数量を買っていくことが予想されるので、いくらあっても足りない状況になるのは目に見えている。そこで急遽、在庫を大幅に増やすことにしたのだった。
「じゃあ、レンヤ~、次はおつかいに行ってきて~」
「ああ、いいよ。ギルドへの材料集めの依頼か?」
「ん~、そうしたいのは山々なんだけどね。レンヤ1人でできるだけ集めてきて。これが必用な物を書いた紙ね」
「ちょっとまて!依頼したほうが早いだろう、俺1人じゃ日が暮れるぞ」
「ん~、一応機密管理ってことで、よろしく。ギルドのハンターもどこまで信用していいのかわからないしねぇ」
レンヤも渋々承諾する。クヨウにとって今回のことは情報漏えいが一番怖かった。何故なら特許商品ではないので「この店でしか売られていない」という強みにはなる。しかし、同じ物を他の人間が作り特許を取得してしまうと一気にご破算になってしまうからだ。例えクヨウが先に作っていたとしても、登録が相手より遅くなれば、相手のほうに優先権が行くからだ。なので情報漏えいには敏感になってしまっていた。
「材料がわかっても、作り方がわからなければ作れないとは思うんだけど、万が一ってこともあるからね。念には念をいれるよ」
「仕方が無いか・・・・わかった。じゃあしばらくは山や森にこもって集めるよ」
「めんどくさいかもしれないけど、がんばってね。僕は店番もしないといけないから」
こうして急遽ポーションの量産を開始したのであった。そしてクヨウの予想通り、行商が数人ポーションを大量に買っていき、数日であっという間に品切れになっていたのである。その後、しばらくレンヤが材料を集め、クヨウが店番をして、夜にポーション作成という日々が続いたのであった。
「へ~、それでそんなに眠そうなのね」
「ええ、寝るのが好きな人間にとってはつらい日々ですよ。」
「でもクヨウちゃんの予定が繰り上がったんだから、良かったんじゃない?」
「それは・・・まぁ、そうなんですけどね。眠れないのは辛いですよ」
睡魔を相手に陥落しそうであったクヨウを救ったのは、前に一緒に依頼をこなしたことのあるエミリア・ハーベックであった。
ちなみにこの方、Aランクハンターでありかなりの実力者である。クヨウにとってはお姉さん的な存在になりつつあった。
「じゃあ、お姉さんが店番変わってあげようか?クヨウちゃんの眠そうな顔は可愛いんだけど、可哀相だし」
「いえいえ、そこは店主としてがんばっていきますよ」
「一著前にかっこつけて~、さっき寝る寸前だったくせに♪」
「あ~、そこは見なかったことにしてもらえるとありがたいですねぇ」
流石のクヨウもエミリアには勝てなかった。
「明日は休みだし、ゆっくり寝るよ。目指せ24時間耐久睡眠!今ならいける気がする、ふふふふ」
「24時間はちょっと寝すぎじゃないかな~?それとちょっと怖いわよ」
こうして、忙しい日々は過ぎていった。だが、クヨウの寝不足という耐え難い状況はまだ続いていくのであった。
新キャラ登場!!!
エミリア・ハーベック
Aランクハンター
武器:大剣
外見:金髪でメガネをかけたお姉さんという感じです。
ちなみに、前に軽くポーションの説明を入れましたが、ぎりぎり矛盾はしないのでそのままでいきたいと思います。