第49話「レンヤのその後」
今回はタイトル通り、レンヤはどうなったのか?です。
内容は結構軽いです。
第49話「レンヤのその後」
「フン!はぁ!」
「ちっ!このぉぉぉ!」
クヨウとサクラが結婚してから約1年後、オオヤマ国にある道場で2人の男が組み手をしていた。片方はSランクハンターであり、クヨウと共にこの世界へ来たレンヤ・アオイである。そしてもう片方はこの道場の主である第32代目シュウザンこと、シュウザン・ヤマザキだ。黒い胴着に身を包み、そこから見える手足は筋肉質であり、無駄な脂肪がなく洗練されていた。とても老人の体とは思えないくらいである。細目で、皺の目立つ顔であり、縦に伸びた髭と輝く後頭部が目印の男性だ。
元々レンヤがこの国へ来たときに、サクラに紹介されたのがシュウザンだった。シュウザンの流派は他に比べかなり特殊だ。というのも柔と剛の両方を扱うからだ。柔は投げ技や絞め技、内臓破壊を行う柔拳を扱う。剛は拳や蹴等の打撃を扱う。そもそもシュウザン流の教えは『全身武器化』というものだ。拳だろうが指だろうが武器にするため、基礎トレーニングがかなりの量必要になる。しかし、習熟してくると全身を満遍なく使い、しかも相手の苦手としている分野を攻めることができるため非常に強力な武術になる。
レンヤは紹介されてから徹底的に基礎を鍛え上げた。元々竜人族以上の身体能力になるようにもらっているためみるみるうちに強くなっていき、僅か1年ほどで、免許皆伝まではいかなくとも旅に出る許可はもらえるようになったのである。そしてSランクハンターになり戻ってきたわけなのだが・・・・
「このジジイ!!!!」
「戯け!まだまだ青いわ!」
戻ってきたレンヤを見ると、シュウザンは道場へ案内するなり襲い掛かったのだ。実践を想定しているため、ある意味日常茶飯事でレンヤも「やっぱりこうなったか。」と思っていたりする。それはともかく、レンヤ対シュウザン。シュウザンは打撃を中心に攻めてはいるが、隙を見れば投げ技へ移行してそのまま絞めに入る。レンヤもそれはわかっているため、投げ技へ移行させないようにガードする。しかし・・・
「ふぉっふぉっふぉ、どうする?このままじゃ、ジリ貧じゃぞ?」
シュウザンは齢90を超える老人だが、無限とも思える体力の持ち主だ。このままジリ貧になればレンヤの負けは確定する。しかし、レンヤとてただ攻めあぐねているわけではなかった。シュウザンの正拳突きを掌底で押し返したのだ。
「おらぁっ!」
「ふぉ?なんと!」
流石のシュウザンも、驚きほんの少し体勢を崩す。そこに僅かな隙をみたレンヤは一気に攻める。指突、正拳、手刀・・・焦らず、大振りにならないように慎重にしかし激しく攻め立てる。
「ぬぬ!」
「オラァ!」
耐え切れずシュウザンの体の中心が空き、そこにレンヤが渾身の一撃を加える。
「もらった!」
レンヤもかつて無いほど綺麗な一撃、まさに渾身の一撃だった。シュウザンが見せた隙を完全に突いた・・・と思っていた。その瞬間だった、レンヤは確かに聞いた、そして追い詰められ避け様のない1撃を食らうしかない老人がニヤっと笑うところ見てしまった。
-じゃから、まだまだ青いんじゃよ。-
レンヤからは当たるはずの拳が空を切り、気がつけば自身が空中におり、腹部に激しい衝撃を受けて床に叩きつけられた所でレンヤは意識を手放した。
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レンヤとシュウザンが戦っている頃、近くの廊下を歩いている女の子がいた。黒い髪に黒に近い青い瞳、薄青の袴をきている。背は小さめだが体のバランスは取れている美少女であり、胸の小ささがコンプレックスになっているフミカ・ヤマザキ、シュウザン・ヤマザキの孫である。
そのフミカ本人は上機嫌だった。というのもレンヤが帰ってくるからだ。とはいっても、フミカとレンヤは別に恋人同士ではないし、今の所お互い恋愛感情はない。どちらかというと、親友、喧嘩友達といったところだ。しかし、親友が久々に帰ってくるということでフミカは上機嫌だったのだが、道場の方から物音と声がすることに気付き不審がる。
「今日は道場が休みのはずだけど・・・お爺ちゃんが誰かの訓練でもしてるのかしら?」
シュウザンが色々問題を起こすことはフミカも知っており、年寄りの道楽(やってることは道楽というレベルじゃない)として半ば諦めていた。しかし、そのまま放置するほとフミカも無関心ではないので、一声注意くらいはしておこうと道場へ向った。
道場へ着いたフミカが見たのは、シュウザンに投げられ空を舞っているレンヤとレンヤに背を向け、左足を天に向って垂直にあげているシュウザンの姿だった。
ドンッ!!!!
次の瞬間には凄まじい音と共にシュウザンの左足によるカカト落としが炸裂し、レンヤが床に叩きつけられていた。あまりにも突然のことにフミカは呆然とするが、それも一瞬のことで、気がつけばシュウザンの顔面を蹴り飛ばしていた。
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「まったく、聞いてるの!?お爺ちゃん!!!」
「いや、じゃからすまんかったと言うておるじゃろう。」
道場の外にある石畳の上でシュウザンは正座している。そして、その正面にフミカが阿修羅のオーラを背負って仁王立ちしていた。
「いつもは寸止めとかだから、ある程度見逃していたけど・・・・今日と言う今日は許せません!」
「いや、じゃから・・・レンヤが強くなったから加減がのぅ・・・。」
「ああん?」
「いえ、すみません。何も言ってないです。」
シュウザンも一応言い分があるといえばあるのだが、多少はやり過ぎた意識があるのか孫には逆らえなかった。その前に、孫の本気の迫力に逆らえないというのもあるのだが・・・
ちなみに、レンヤは既に治療済みで客室に寝かせてある。なので、フミカは何の遠慮もなくシュウザンを説教していった。
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「ん、あれ?ここは・・・・あっ痛~。ああ、ジジイにぶっ飛ばされたんだったか。」
シュウザンにやられてから、3時間ほどでレンヤが起床する。とはいえ、腹部のダメージがまだ大きいため動けなかった。
「ジジイが手当てしてくれるとは思えねぇから、やったのはフミカ辺りか?あとで礼くらい言っておくか。」
レンヤは腹部の包帯を手触りで確認しながらぼやく。そして先ほどのシュウザンとの戦闘を思い起こし1人反省する。レンヤがここの道場でトレーニングを積み、ハンターとしてかなり経験は積んだ。そうでなければSランクに上がれなかったであろう。しかし、それでもシュウザンの手の上で遊ばれてしまった。結論として、まだまだ修行が足りない。ということを改めて実感し、ため息をつく。
「まったく、まだまだってことか~。」
やや自嘲気味に、呟く。レンヤとて自分がまだまだだと自覚はあるが、少しは進んだ気になっていた。しかし、こうして力不足を実感してしまうと、改めて道のりの長さに辟易してしまう。ただし、そのまま暗くなってしまうレンヤではない。それにこの手の悩みは既に何度も経験済みだ。何度も挫折しそうになるが、それでも少しは進んだことを自覚することができる。なので、立ち直りは速かった。
「あ、レンヤ。起きてたんだ。」
「フミカか、久しぶりだな。」
レンヤが頭の切り替えをしたところで、タイミングを計ったかのようにフミカがやってきた。実際はただの偶然である。
「手当てありがとな。」
「いいのよ、盛大にやられるところが見学できたしね。随分派手にやられてたわね~。」
「げっ!見てたのかよ!くっそ~、変なところ見られたな~。」
「変じゃないわよ。むしろ綺麗だったわ~、綺麗に空を舞って、綺麗に床に叩きつけられてたわよ。なかなかないわね!」
「うるせい~。」
レンヤは拗ねるが、元々口ではフミカには勝てないので予定調和のようなものだ。フミカも一通りレンヤをからかったところで、本題に入る。
「そういえば、忘れてたけど・・・・夕食食べれる?お腹に綺麗に入ってたしやめておく?」
「そうだな~、軽く食べれる物を少しだけもらえるか?食べれそうなら食べるんだが・・・」
「はいはい、じゃあ用意しておくから怪我人はゆっくり寝ておきなさい。」
「おう、さんきゅ~な。」
フミカは夕食準備のため、そのまま部屋を出て行った。ちなみに夕食準備中のフミカはいつもより嬉しそうだったらしい。
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次の日、治療師(回復魔法の使える医者)がやってきてレンヤの怪我が全快した。
ここでようやく、シュウザンと今後について話し合う事ができた。
「改めて、久しぶりじゃのう。随分と成長したようで何よりじゃ。」
「おお、そっちも相変わらず性格悪いな。絶対に試合でぶちのめしてやる。」
「ふぉっふぉっふぉ、いつそれが来るのか楽しみじゃわい。」
レンヤが若干青筋を入れつつシュウザンを睨むが、睨まれている当人は涼しい顔をしている。実際本人たちにとっては冗談・・・ではないのだが、じゃれあいの1つのような物で同席しているフミカは特に何も言わなかった。
「それで、お主は今後どうするつもりじゃ?基礎トレーニングは既に完了しておる。既に竜人族の戦士並の身体能力じゃ。人間族のそれじゃないのう。あとは、旅をして経験を積んでいくしかないのじゃが?」
「ああ、それなんだが・・・まだ基礎トレーニングを続けようと思うんだ。」
「え?」
横で聞いていたフミカが声を上げる。しかし、それも仕方のないことだ。レンヤは人間族として既にあり得ないくらいの身体能力を持っている。それは道場の門下生のほとんどが知っていることだ。なので、また基礎トレーニングをするとは思っていなかったのだ。そして、驚いたのはシュウザンも同じだった。もっとも表情にあまりだすことはなかった。多少眉を動かしたくらいだが、すぐに思案顔になる。
「むう、・・・・・一応理由を聞いても良いかの?」
レンヤの身体能力は底を見せてはいない。それはシュウザンも良く知っている。だが、底を見せていないのは旅に出て間もない門下生ならよくあること。旅に出て経験を積む事で、身体能力も上がりそれによって完成されていくのだが・・・レンヤもそれを知らないわけではない。一応旅の許可を出した門下生にはその辺りの説明をしているからだ。だからこそ、レンヤの真意がわからなかった。
「そうだな・・・・最初から話そうか。」
レンヤはこちらの世界に来たときの事情をまだ話してはいない。隠すつもりはあまりないのだが、特に表立って話すことでもないからだ。なので、この辺りで全部話そうと思った。実際話したほうがすっきりするし、理由の説明にもなる。全て最初から、別の世界から来たこと、世界の管理人から能力をもらったことを2人に話した。2人はレンヤが思っていたよりは驚くことなく、自然に受け入れてしまった。レンヤが嘘をいっているとは思えなかったのもあるが理由としては十分理解できたからだ。
「なるほどのぅ、変わった人間じゃと思っておったらそこまで変わっておったか。」
「俺としては変人に変人扱いされたくはないかな。」
レンヤからしてみれば、身体能力を技術によって圧倒できるシュウザンのほうが変人に見えていた。実際高齢のシュウザンが息子に代を譲らないのは、未だに息子より圧倒的に強いからだ。息子自身SSランクハンター並の実力があるので、息子が弱いわけではない。単にシュウザンが強すぎるだけだった。
「ふ~ん。色々隠し事があるとは思ってたけど、そういうことなのね~。」
「まぁ、隠してて悪かったな。」
「別にいいわよ、なんでそうしたか・・・なんて、簡単に想像できるもの。多分同じ状況なら、私も同じようなことしてるでしょうしね。」
フミカも、レンヤが隠し事をしているくらいは感づいていた。そして内容を聞いたら理由なんて簡単に想像できてしまう。隠し事をされていたという寂しさは無くは無かったが、こうして話してもらえたということで嬉しさもある。フミカはようやくレンヤと対等になれた気がしたのだ。
「ふむふむふむ、竜人族の数倍か・・・・ふっ、くくくく・・・あっはっはっははははははは。よいぞよいぞ、久々に楽しくなってきおったわい。」
何か考え事をしていた、シュウザンがいきなり笑い出した。これにはレンヤとフミカは驚いた。シュウザンが口を大きく開けて大笑いすることなど滅多にないからだ。そしてレンヤを見たときの目を見てフミカはシュウザンの気持ちを悟ってしまう。『新しい玩具を見つけたような目』だったからだ。
「ふぉっふぉっふぉ。よかろう、竜人族以上になるのが確定ならやるだけやってやろうじゃないか。ふふふ、久々に滾るのう。」
「お、おう。まぁお手柔らかに、頼むよ。」
「無理ね。レンヤ、看病くらいならしてあげるわ。」
「おいおい、冗談になってねぇよ。」
このあと1年ほど、レンヤの地獄が続いたらしい。しかし、その甲斐もあって歴代でも有数の使い手に数えられるようになった。ちなみに、フミカとの仲はこの日を境にして若干進んだようだった。
簡潔に言えば、レンヤは最強クラスのハンターになるべく修行の日々です。
ちなみにレンヤとフミカの恋愛話は今のところ書く予定はありません。ご想像にお任せします(笑)